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夢現のあわい  作者: 池中 由紀
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◇14 噂と友人

◇14 噂と友人


「噂になってるぜ」

 学園につき一息ついたところで、右後方から船崎了が声をかけて来た。しかしまぁ、髪色赤白の船崎にそう言われると空気がアウトロー色に染まる。

「噂?」

「お前と生徒会会長が恋仲だって噂だ」

「はぁ?」

 俺と淡井が?

 と、一瞬驚いたが、あぁ、とも思う。学園一の有名人である淡井が、特定の人物と、しかも男性と、放課後に街に遊びに行った、……はたから見れば遊びに行ったとしか思えない行動をしたとなれば、そんなゴシップもありえるだろう。

 むしろ驚くべきは船崎がこんな事を俺に言ってきたということかもしれない。基本的に船崎はこの手の話題に興味を持つような人間ではないはずだからだ。

 船崎は俺の疑問を読みとったのか、

「お前が淡井に嫌々付き合ってないならいいが。嫌なら俺がぶん殴ってきてやるよ」

 なるほど、船崎は俺が淡井の破天荒な性格に巻き込まれているだけではないかと話しかけて来たわけか。

「いや、大丈夫。淡井とはもちろんそんな関係じゃないけど、嫌々付き合ってるわけでもないよ。俺もそれなりに興味はあるしね」

「そうか。……ならいい」

 俺が答えると、もうそれで満足したのか船崎は言葉を残して去っていく雰囲気を見せた。用がすんだらとっとと立ち去ってしまうのが船崎だ。

「あ、ちょっと待って」

 俺はふと思い出した事を訊く。

「了、お前なんか個展とか言う話を聞いたんだけど」

 船崎がぴくり、と眉を動かしたように見えた。帰ってきた声は比較的平静なものだったが。

「……ああ。駅の小さなカフェで」

「そうか。今度見に行くよ」

「…………ああ」

 船崎はそう言い残して去って行った。芸術関係になると口数が少なくなるのはいつもの事だ。芸術に関しては作者がぺらぺらと話すのをよしとしないのかもしれない。芸術に関してはストイックと言っていいやつだろう。

 しかしまぁ、ちょっと俺が絡まれたと見たら声をかけてくれるとは、良い友人を持ったものだと思う。俗な遊びをするような間柄ではないが、互いにいて安心するような友人ではある。お互いに拒絶しない。……もちろん、それは俺の感想で、船崎も同じように俺の事を考えているかは知らないけれど。

 学園についたところで船崎から声をかけられた以外は普段通りの学校生活を送り、放課後になってから俺は屋上へと向かった。

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