プロローグ
◇プロローグ
不吉といってよい、目に悪い赤を運ぶ夕暮れに校舎の屋上が染まっている。
これから起きる悪い未来を予知したかのように、もしくは良い未来を否定するかのように不自然に紅い夕暮れに、良い印象を抱けるはずもない。
俺は校舎の屋上にいる。
目の前には女性生徒が立っており、長い金髪が夕陽を拒絶していた。
フェンスに囲われ切り取られた屋上。
俺はそれなりに老朽化していそうなフェンスに後ろ手で触れる。内側の人間を間違っても外にはみ出させないように設置されたそれは、学生たちの身の安全を思っての事だとは思うがどこか過剰でまとわりつくような愛も連想させる。フェンスがなければ学生は勘違いした一歩を踏み出し四階建の屋上から落下してしまうだろう、という、生徒を馬鹿にしているのかと言いたくなる認識が透けて見えるような気がした。
目の前に立つ女性生徒、淡井美羽は、そういう類の危うさとは無縁に思える。
変に不良がいたりするようなレベルの学園ではない中で、外国人でもないのに金髪で押し通すのは、いくら服装自由の私立学校だといっても目立たないわけもない。学校で髪を染めているのは淡井を除けば一人だけだ。
にもかかわらず、気負いや当てつけを感じさせず自然さを印象付けさせるというのは、これはもう才能にも近いものがあるだろう。
また、彼女は金髪だからという理由など霞むレベルの有名人だ。
淡井美羽と言えば日本人ならそれなりに知っている名前で、だから学園で最も有名なのは彼女だろう。
しかし。
そんな事は今どうでもよく、何より問題なのは、何故彼女がこの場にいるのかという事だ。
この場というのは、つまり、何故接点のない俺の前にいるのか。
そもそも何故俺は屋上にいるのかすら覚えていない。
よく考えてみると……なんだろうか? この不自然さは。
大体、自分が今どうしてこの場にいるか分からないなんて事がありえるだろうか?
俺はその点について強い疑問を感じたような気がしたが。
そんな事を考える暇を、淡井はくれなかった。
淡井はつかり、と一歩でこちらに迫る。殆ど目鼻の先に迫った淡井は、身長差から少しだけ俺を見上げるようにして見つめてきた。
彼女はイタズラ心を抑えきれない、という感じの表情をすると、
ドンッ、と、俺を突き飛ばした。
不意打ちに対応できないまま、俺はフェンスに背中をぶつけ、
―――フェンスが派手な音を立てて、壊れた。
俺は声を出す事もできず、
何が起きたのかもさっぱり理解できず、
そのまま夕日が視界から逃げていくような感覚。
落下。
最後にもう一度ドンッ、と衝撃を感じたかと思うと、殆ど同時に俺の意識は消えた。
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世川和也………淡井美羽に飯悟学園の屋上で突き飛ばされ、転落死。
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