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〇四

 集合住宅の八階にある我が家の玄関には、今日も鍵が掛かっていた。最近ママはよく外出をする。おかげでこっちは鍵っ子がすっかり板についてしまった。

「ただいまあ」

 だれもいないけど一応挨拶してから靴を脱ぐ。ベランダに洗濯ものが吊ってあったので先に取り込んでおいた。たたむのは後でいいや。すぐに自分の部屋へ行ってパソコンの電源を入れた。調べてみようと思ったのだ。アキラのこと。

 検索サイトを開いて、キーワードを打ち込んでゆく。

 学校の怪談

 みどり市立大間々第一中学校

 自殺

 アキラ

 呪い

 検索ボタンをクリックすると、かるく二百件以上がヒットした。すごい。ちょーローカルな話題なのに、いろんなブログや投稿サイトで取りあげられている。

 ざっと見たところ、どれも内容はほとんど一緒だった。

 ――夜の十時に時計塔の機械室で祈りを捧げると、アキラ様の霊が現れてイジメの加害者たちへ復讐してくれる。

 「様」という敬称がつけられてるところが、ちょっとしたカルト信仰だ。それに、どうやら夜の十時に祈るというのがミソらしい。

 携帯電話が鳴った。

「よっ、ジュリア」

 とんでもない過ちをおかしてしまったことに気づく。これからずっと、あいつにジュリアと呼ばれつづけるのだろうか。

「後でもっかい時計塔へ行ってみね? 夜の十時ごろとかどうよ」

「なんであんな怖いところへまた行かなきゃなんないわけ? しかも暗くなってから」

「やっぱ見てみたいじゃん。幽霊」

「いや、べつに見たくないから。あんたひとりで行けばいいでしょ」

 突き放すように言ったけど、なぜかトムはわたしが来ると確信してるみたいで勝手に話をすすめてゆく。

「校門のわきんとこに十分前集合でどうよ。あと建物のなか暗いから懐中電灯ヨロシク」

「行かないって言ってるでしょ。ひとの話聞けよ」

「肝試しってなんかワクワクするな。おれらの身近にあんな有名な心霊スポットあるとかちょーラッキーじゃね?」

「ふざけんな、わたしはぜったいに行かないからな」

 トムがフッと鼻で笑った。

「心配すんな、おめーは必ず来る」

「なんでよ?」

「だっておれら、友だちじゃん」

 勝手に友だちにすんな、と言うまえに電話が切れた。ついでにわたしもキレた。その場のノリとはいえ、あんなやつに携帯の番号教えるんじゃなかった。なにが悲しくて夜ふけに学校へ忍び込まなきゃなんないわけ。しかもあんな不良と一緒によ。だれが友だちだっつーの。

 ひとりでむかっ腹立ててたら、目のまえの窓ガラスをポッ、ポッと水滴が叩いた。空がいつの間にか暗くなっている。

「あれ、雨だよ」

 いよいよ梅雨入りしたことを知らせる小暗い雨が、街の景色をひっそりと濡らし始めていた。

 洗濯ものを取り込んでおいて良かった。

「ふん、バカバカしい」

 机のうえに突っ伏して目を閉じる。サラサラと窓を洗う優しい雨音が聞こえてくる。かすかに水のにおいも感じる。じっと耳をかたむけているとしだいに眠くなってきた。こけむした岩肌をぬって流れる谷川のせせらぎを想像して、意識がしだいに翡翠色をした水底へと沈んでゆく。眠りに落ちる寸前の例えようもない幸福感……。

 ふと、意識の片すみでだれかの呼ぶ声を聞いた。それは、かなり幼い感じのする男の子の声だった。

 ――ふうちゃん。



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