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十〇

 去年改装したばかりの図書室には、あの古書独特のカビ臭さはない。代わりにワックスと、建材で使用される防腐剤のにおいがした。床はピカピカに磨かれたばかり。雨降りということもあって利用者の数はそれほど多くはなかった。貸し出しカウンターの横にあるパソコンを使えば、校報の保管場所などすぐに調べられる。

 図書室は中央部分が吹き抜けになっていて、そこから階段でロフトへ上がれるようになっている。校報を綴じたファイルはすべてそのロフト部分に収められていた。

 鉄骨で出来たおしゃれな螺旋階段を上ってゆく。ロフトにあるせまい閲覧スペースには、四人掛けのテーブルがふたつ並べてあるだけ。その片ほうにトムがいた。

「よう、遅かったじゃん」

 テーブルに頬杖をついて、視線だけこっちへ向ける。目のまえには青色のバインダーに綴じたファイルが十冊ほど積まれていた。

「これでも大急ぎで来たんだから。それよりどうよ、なにか分かった?」

「じぇんじぇん、今調べはじめたばかり。ほれ、おめーも手伝え」

 トムはファイルの山を崩すと、半分ほどをテーブルの反対側へズリズリと押しやった。

 校報は『飛翔』という二色刷りのリーフレットだ。A4版のファイル三冊に分けて綴じられている。ただし『飛翔』が発行されたのは市町村が合併する七年前まで。それ以前は『学校だより』というガリ版刷りのザラ紙だった。学校名も、大間々町立第一中学校となっている。こちらはA4ファイルでゆうに七冊ぶん。ここからアキラの情報を探るのは、けっこう大仕事だ。

 しばらくファイルをパラパラめくっているうちに、トムがため息まじりで訊ねてきた。

「なあジュリア……」

 ジュリアと呼ばれるたびに、ひざからカクンとちからが抜ける。

「アキラって、いつ死んだんだ?」

「えと……いつなんだろう」

 ネット掲示板の書き込みを思い出してみる。たしか、自殺したのが何年何月という記述はどこにもなかったはずだ。それでもなにか手掛かりになることはないかと記憶の糸をたぐり寄せ、突然フッとひらめいた。

「あ、そうだ」

「なんか思い出したか?」

「いや、ちょっと待っててね」

 ポケットから携帯電話を取り出し、素早く画面を操作する。検索サイトで、ずっとむかしに活躍した某アイドル歌手のことを調べてみる。彼女の飛び降り自殺とアキラの死を関連づけるブログ記事があったのを思い出したのだ。つまり二人の命日は、わりと近いんじゃないかと思う。

「見つけた」

 ちゃんと没年も載っていた。

「いつだ?」

「えとね……昭和六十一年」

「マジかよっ、今から三十年もまえだぜ」

 『学校だより』の最も古いナンバーでも平成三年の四月号だった。どうやら校報からアキラのことを探るのはムリのようだ。

 二人同時にため息をついた。

「トムの誘いに乗って、のこのこ図書室までやって来たわたしがバカだった」

「なんだよそれ、てめー泣かすぞ」

「あれ?」

 なにげなくパラパラめくっていた『飛翔』に、ある黒枠の記事を見つけた。

 ――生徒ならびにご父兄のみなさまへ。いつも学校のお世話をしてくださった用務員の植村哲生さんが、平成◯◯年◯◯月◯◯日、病気のため永眠なされました。故人のご冥福をお祈りし、謹んでお知らせ申し上げます。

 小さく顔写真も載っている。トムと顔を見合わせ、互いにうんとうなずいた。間違いない。このまえ時計塔で会った、あのおじさんだ。



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