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葵 2

 瑞葉と健は北野姫の元へと向かった。そもそも健が瑞葉の部屋を訪れたのは北野姫の館へと瑞葉を連れて行くためだった。ふたりは昨日と同じ廊下を通って進んで行った。

 瑞葉は歩きながら健とのさっきの会話を思い出していた。

(祠の前で会った人が神様だったなんて。健は神様のお兄さんだから神様の森に入れるんだ。あのとき尊は女神の国へ帰ろうと言っていた。この世界のどこかに女神の国があるのかな)




「ここで瑞葉は健と出会ったのですね」

 瑞葉と北野姫は雷神の森へと来ていた。雷神の巫女である北野姫は森に入ることができるようだった。

 確かめるようにこちらを見た北野姫にうなずくと、瑞葉は答えた。

「それから、この岩に赤い矢が刺さっていたんです」

 瑞葉の視線を追って北野姫は草が少なくなっている場所にある岩に目を向けた。

 岩は瑞葉が寝ころべるほどの大きさがあり、裏側へ回ると小さな丸い穴が開いているのがわかった。

「やっぱり矢はありませんね」

 瑞葉は肩落とした。

「ごめんなさい。私のせいで矢がなくなってしまった」

「いいえ、瑞葉のせいではありません。あの矢はもうずっと昔に失われているのです」

 でも、確かに瑞葉は見たのだ。燃えるような赤い色の()の先には白い矢羽が付いていてとても美しい矢だった。

 しかし、今目の前にある岩には矢は刺さっておらず、ここに来れば雷神につながる手がかりが何かあるだろうと思っていた瑞葉はがっかりした。

「そういえば、この近くに祠が建っていませんか?」

「祠ですか?」

「はい。昨日ここで健と会う前に、祠の前で健とよく似た人にあったんです。健に話したら、その人は尊だって言うんです」

 瑞葉は今朝健と話した内容を思い出していた。尊がこの森の雷神だというのなら、尊と会った祠にも行ってみる価値はあるのではないか。北野姫もまた同じ意見だろうと瑞葉は振り返って姫を見た。

 北野姫は硬い表情でしばらく沈黙していたが、やがて口を開き静かな声で告げた。

「祠は確かにあります。この道の先を少し下ったところに、鏡を祀っているのです」

「鏡を?」

「昔、水の女神がこの地を訪れた時に落とした鏡です。鏡とは言え女神の持ち物ですので、こうしてお祀りしているのです。ですがそれだけです。わたくしは大君と祠に何かつながりがあるとは思いません。祠へ行く必要はないでしょう」

 北野姫の声は感情のこもらないもので、どこか冷ややかな口調だった。

「瑞葉が大君と会ったのは、瑞葉をこの地へ呼んだのが大君のご意思であるということでしょう。ですからわたくしは、これで長らく不在だった大君の行方も何か分かるのでは、と思っているのです」




 部屋に戻ると中には健がいた。

「どうして一緒に来てくれなかったの。あなたも森へ行くものだと思っていたのに」

 顔をあわせるなり突っかかってくる瑞葉を気にした様子もなく健は答えた。

「なんだ、そんなに瑞葉に好かれていたとは思わなかった」

「ふざけるのは止して。北野姫とふたりですっごく気まずくなったのよ」

 途中までは普通だったのだ。それが瑞葉が祠の話をした途端に北姫の様子が変わった。そして帰りの道ではどちらも必要以上に口を開くことはなかったのだった。

 健はおもしろそうに片方の眉をあげた。

「へえ。あの北野姫のポーカーフェイスを崩すだなんて、瑞葉もなかなかやるんだな」

「おもしろがらないでったら。そういう健は一体何をしていたのよ」

「そう怒るなって。俺だってやることがあったんだよ」

「なあに、やることって」

「まだ秘密。それより瑞葉はこれからどうするの」

 健は突然まじめな顔をして瑞葉を見た。瑞葉も姿勢を正して健を見返した。

「もちろん、元の時代に帰りたい。北野姫は私に何か期待しているようだけど、それは買い被りだわ。私には何もできないもの。健は何度もあちらとこちらを行き来しているのだから、私だって帰れるのでしょう?」

「それはできないんだ」

 期待を込めて言った瑞葉に、健はすまなそうに目を伏せた。

「俺は北野姫に呼ばれてここへ来たんだ。いなくなった雷神を探してほしいからと。だから元の時代に帰るときも北野姫の力で帰してもらっていた。誰かがその意志で人を呼んだなら、元の場所に戻すときもその人の意志で成されなければいけないからね。だから瑞葉がもといた時代に帰るなら、瑞葉をこの地へ呼んだ尊に頼むしか方法がないんだ」

「そんな」

 瑞葉は茫然とした。

「だって、尊はどこにいるかわからないんでしょう」

 震える声でそう言うのがやっとだった。声だけでなく体も震えていたが瑞葉は気付かなかった。

「だから、俺がいるんだ」

 そう言うと健は瑞葉の手を握った。氷のように冷たい手だった。

「俺は必ず尊を見つけてこの地へと戻す。だから、瑞葉にも協力して欲しいんだ」

「協力?」

 健は瑞葉を落ち着かせるように大きくうなずいてみせた。

「ああ。瑞葉は尊が直々にこの地に呼んだ。こんなことって今までなかったんだ。きっと、瑞葉なら尊を探すことができると思う」

 瑞葉は身じろいだ。

「そんなこと言われたって、私は何もできない。私は健のように神様の血をひく訳でもなければ北野姫のような巫女でもない。普通の人間なのに」

「俺だってそうだ。過去はどうであれ今は、昔だって普通の人間だよ。だから誰かの協力が必要なんだ。危険なことがあったら必ず瑞葉を守るし、尊が見つかるまで俺も元の時代に帰らない。どうか俺と一緒に尊を探すのを手伝って欲しい」

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