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神隠し 5

 瑞葉は、健の言ったことを理解するのにたっぷりと時間を使った。

「昔の日本?」

 瑞葉が繰り返すと健はうなずいた。

「そう。不思議には思わなかった?ここで会う人たちみんな変わった格好をしていただろう」

 瑞葉は納得したくなくて言った。

「それは、ここが神社だからだと思っていました。それに、健はさっきまでシャツとジーンズ姿だったじゃないの」

「それは俺も君と同じ、平成の日本からここへ来ているからだよ」

「え?」

 瑞葉は目を瞬いた。

「それにしては、やけに冷静ね」

 健は苦笑いを浮かべた。

「俺はもう何度もここへ来ているからね。初めての瑞葉と比べれば冷静だよ」

 瑞葉は健をじっと見つめた。健も瑞葉を見つめ返してきた。

 健の様子は嘘を言っているようには思えなかった。

 瑞葉は小さく息を吐いた。

「ひとまずあなたが言う通り、ここが元いた時代とは違う日本だということにしましょう。でも、一体どうしてこんなことが起きたの?私はただ神社でお参りしただけよ」

 健は困った顔をした。

「俺たちもそれを君に聞きたかったんだ。今まで未来からやって来た人間は俺だけでほかはひとりもいなかった。俺にはここへ来る歴とした理由があるけれど、瑞葉は本当に何も心当たりがないの」

「そして、なぜあの森にいたかもです」

 それまで黙って話を聞いていた北野姫が口を開いた。

「先ほども申しましたが、あの森は神の住まう森。生身の人間が入ろうものなら無事では済まされないのです」

 瑞葉は申し訳なくなって目を伏せた。

「ごめんなさい。私、本当にわからないんです。神社でお参りをしたあと境内を散策していたら、知らない間に森で迷ってしまっていて。そして岩の前で健に見つけられたんです」

「岩の前?」

「ええ、大きな岩の前よ」

 聞き返した健に瑞葉はうなずいた。

「そういえばあの森が神様の森だっていうのは少しわかる気がする。私がその岩の場所へ行ったとき岩にきれいな矢が刺さっていたのだけど、ほんの一瞬のうちに消えてしまったの。見間違いかと思っていたけど、神様の森なら不思議なことが起こってもおかしくないわね」

 健と北野姫は黙って瑞葉の話を聞いていたが、やがて健が言った。

「それは本当か?どんな矢だった」

 真剣な健の顔に瑞葉はたじろぎながら答えた。

「ええっと、燃えるように真っ赤な矢で矢羽は白い羽だった。刺さっていた岩には穴が残っていたわ」

「俺が瑞葉を見つけたとき、矢なんてなかった」

 健が信じられない様子でぼうぜんと言った。

「その矢はこの地の雷神だ。俺はずっとそいつを探していたんだ。本当に見たんだな?」

 今にも館を飛び出して行きそうな様子の健の腕を瑞葉は慌ててつかんだ。

「でも、矢はなくなってしまったわ。私が触った瞬間に消えてしまったの」

「触った?」

 健は素っ頓狂な声をあげた。

「雷に触っただって?それで君は何ともなかったの」

 健はまるで珍獣でも見るかのような目を瑞葉へ向けた。

「だって一瞬だったもの」

 瑞葉は気まずげに目をそらした。健の言い方にひっかかるものがあった。

(何よ、丸焦げにでもなっていたらよかったっていうの)

 そのとき、黙っていた北野姫の笑い声がした。瑞葉と健は北野姫の方を見た。

「どうやら、瑞葉をこの地へと誘ったのは雷の大君のようですね」

「そうみたいだな」

 軽くため息をつくと、健はうなずいて北野姫に同意した。瑞葉は首を傾げた。

「どういうこと?」

 北野姫は柔らかく微笑むと言った。

「雷の大君はこの森に住まう神。わたくしは大君にお仕えする巫女なのです。この地の民は古より大君をお祀りしてきました。しかし、あるとき突然大君はこの地より姿をお隠しになってしまわれたのです」

 北野姫は悲しげに笑って続けた。

「瑞葉は赤い矢を見たと言いましたね。その矢こそが大君自身なのです。しかし、矢はもうずっとこの森にはありません。そして瑞葉は矢に触れたと言った。そのようなことを成せるのは、瑞葉が大君のお導きでこの地に来たからでしょう」

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