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神隠し 3

 瑞葉は道に迷っていた。

「どっちを向いても同じ景色。これはあれだ。迷子だ」

 瑞葉はずっと考えないようにしていた事実をついに認めざるを得なかった。田舎育ちとは言え森を歩くことに慣れている訳でもない瑞葉が、雨が降り薄暗い森を歩き回って迷わないはずもなかった。

「どうしよう、むやみに歩き回らない方がいいのかな」

 瑞葉としては、このまま自力で森から出られず警察に捜索されるなどという事態は避けたいところだった。しかしどちらに進めばいいかだなんて、とうの昔にわからなくなっていた。

 全身が雨でぬれているために体も冷え切っている。どうしてこんなことになったのだろう。

 思い出すのはさっきの少年のことだった。

 瑞葉のことを知っているかのような口調だったが、あんな奇妙な人をひと目でも見たならば絶対に覚えている自信が瑞葉にはあった。それにも関わらずどれだけ記憶を巡らせても少年のことはちらりとも思い出せなかった。

「生まれて初めて変質者に会っちゃった。でももう会うこともないよね、それより早くここをでなくちゃ」

 アルバイトはもう不採用決定だった。無理を聞いてもらって取り付けた約束だったが仕方ない。

(この森から出たら一番に謝りに行こう)

 そう思ったとき、瑞葉の視界に何か赤いものが映った。

(何だろう)

 不思議に思って近づいてみると、それは燃えるように真っ赤な矢だった。瑞葉の腕ほどの長さの矢が大きな岩に深々と突き刺さっていた。

(なんてきれいなんだろう)

 瑞葉は薄暗闇の中でもなぜかはっきりと見えるその矢に見入っていた。思わず手を伸ばした瑞葉の指先が矢に触れたとたん、ぱちん、と音がしたかと思うと矢は跡形もなく消え去っていた。

「え?」

 瑞葉は何が起こったのか分からずにさっきまで矢が刺さっていた場所をまじまじと見つめた。しかしどんなに瑞葉がにらんでも矢が再び現れることはなかった。

「うそ、どういうこと?」

「そこにいるのは誰だ」

 突然声がして瑞葉が振り返ると、そこにはひとりの少年が立っていた。暗くて顔はよくわからなかったが、少年は瑞葉を見て驚いている様子だった。

(さっきから会う人たちはどうしてみんな心臓に悪い現れ方をするのかしら)

 瑞葉はややうんざりした気持ちになった。

「どうやってここへ入った?ここは普通の者は入れないんだ」

「この神社の人ですか?ごめんなさい、入ってはいけない場所だと知らなかったんです」

「話はあとで聞く。とりあえず早くここから出よう。俺について来て」

 自分から聞いておきながら、と思ったが、瑞葉はやっと森から出られることにほっとした。

 やはりこの森は一般人立ち入り禁止の森だったらしい。あまりきつく怒られないといいな、などと思いながら瑞葉は早足で歩く少年の後をついて行った。




 森を出て館に着くと、少年は通りかかった女性に瑞葉を預けてどこかへ消えてしまった。女性は瑞葉についてくるように言い、今度は彼女の後を歩いて行くことになった。

 瑞葉は歩きながら前を歩く女性を眺めた。女性は瑞葉よりもひと回りほど年上のようだった。袖の長い白の衣を着ていて、赤い帯を前で結んでいた。

(神社の巫女さんかな。少し変わった格好だわ)

 そうしているうちに女性はある部屋の前で立ち止まった。

「この部屋でお待ちくださいますよう。すぐに健さまがいらっしゃいます」

 そう言ってにこりと笑うと女性はどこかへ立ち去ってしまった。残された瑞葉は仕方なく部屋へ入った。

 その部屋はずいぶんと殺風景な部屋だった。置物などは一切なく、床の上に敷物すらなかった。

(やっぱり怒られるのかな。早く帰りたいのにな)

 健とは誰だろう。この神社の神主だろうか。

 思えば今日はおかしなことが続く日だ。もう何が起きても驚かない自信が瑞葉にはあった。

 しかし、部屋に入ってきた人物を見て瑞葉は驚きのあまりに固まった。

 祠の前で出会ったおかしな少年が瑞葉の前に立っていた。

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