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神隠し 1

 洗濯と部屋の掃除をすませると、瑞葉(みずは)は部屋着からカットソーとショートパンツに着替えて家を出た。空は気持ちのいい五月晴れで、近くの公園からは小学生たちの遊ぶ声が聞こえてくる。

 今日は日曜日だ。

 瑞葉はアルバイトの面接を受けるために、大学のそばにある喫茶店へと向かった。

 瑞葉はこの春大学に入学し、念願のひとり暮らしを始めた。家族と離れて初めてひとりで眠った夜はさすがにさびしく感じたが、新しい生活に慣れるのに必死になっている間に一か月が過ぎ、今では大学に友人もできてそれなりに楽しくやっている。

 面接先の喫茶店は瑞葉が通う大学の近くにあるのだが、大通りからはずれた細い道を入ったところにあるため意外と学生たちには知られていない。

 レトロな雰囲気のその店は瑞葉より少し年上の若い夫婦が経営していて、店内に飾られている置物を始め使われているティーカップや食器にまで彼らのこだわりが感じられた。瑞葉はまるで骨董品かのような食器で奥さん自慢のチーズケーキを食べるのが好きだった。

 そして先日、店主の旦那さんにアルバイトとして雇ってもらえないか頼みこみ、今日面接をしてもらう約束を取り付けたのだった。

 張り切りすぎたのか、店に着いたのは約束の時間より三十分以上も前だった。

(どうしようかな、いくらなんでも早すぎるよね)

 何気なく辺りを見渡すと、道の突き当たりに鳥居が見えた。

(こんなところに神社なんてあったかな。ま、いいか。面接の時間まで少し時間があるし、お参りしていこう)

 何度かこの喫茶店に来ているにも関わらず今まで神社の存在に気がつかなかったことを不思議に思ったが、瑞葉はその神社へ参ることにした。

 その神社は丹羽神社というらしく、瑞葉のほかにも何人かの参拝客がいた。拝殿へ参ったあと、境内の景色を眺めながら瑞葉は参道を戻った。

 手水舎まで戻ると、脇の方にメインの参道とは別に細い道があった。その道に沿うように、これまた細い川が流れている。瑞葉は少し迷ったが、その川に沿って歩いてみることにした。

(面接に間に合うかな。でも、お店はすぐ近くだし大丈夫よね。そんなに広そうな神社にも思えないし)

 道と呼んでいいのかわからないほど細い道の両側には、瑞葉の知らない木が奥の方まで生い茂っていて森のようになっている。森はそのまま神社の裏にある山へと続いているらしかった。初夏の日差しは汗ばむほどだったが、木陰の下は驚くほど涼しく、今歩いている所だけがまるで切り離された別の空間のようだ。

 瑞葉が歩いて行くと、やがて左手に小さな鳥居が現れた。そうとう古いようで所々朱がはげている。横には姫宮神社と書かれた札が立っていた。鳥居の向こうは土を固めて作っただけの階段が続いていて、段は山を登るようにのびていた。瑞葉は少し立ち止まると、鳥居をくぐり進んで行った。

 すぐに終わるだろうと思っていた道は、瑞葉の予想を裏切ってどこまでも続いていた。しばらくすると、瑞葉はだんだん不安になってきた。

 こんなに広い神社だったのだろうか。歩けば歩くほど町から離れていくような気になる。途中でまったく人と出会わないことも瑞葉の不安を大きくさせた。

(入ってはいけない場所だったのかしら)

 突然、歩いていた瑞葉の頬に一滴のしずくが落ちてきた。見上げるとさっきまで晴れていた空一面に重たい雲が広がっていた。

「雨?うそでしょう」

 やっぱり引き返そう。そう思ったとき、長かった階段の先についに終わりが見えた。

 ほっとして登りきると、やっとたどり着いたそこには小さな祠があった。薄暗い場所にひとりでいることもあって、その祠は何とはなしに不気味に感じる。

 とりあえずせっかくここまで来たのだから、と、瑞葉はお参りだけしてすぐに戻ろうと思った。祠の前にある賽銭箱に五円玉を入れて二礼二拍のあと一礼して、顔を上げたときだった。

 視界が一瞬不自然に明るくなったかと思うと、隕石でも落ちたのかと思うほどの轟音がなった。

「今のはなに?」

「雷だよ」

 突然聞こえた声にぎょっとして瑞葉が振り向くと、瑞葉が登って来た階段とは反対側にある細い道の入り口に瑞葉と同じ年頃の少年が立っていた。

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