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乙女ゲームのヒロインに転生したので逆ハーレムを目指したら、攻略対象が全員ポンコツだった件

作者: 白昼夢
掲載日:2026/08/05




 ステラ・リンドベル(十五歳)は、鏡の前で自分の顔を見つめながら、静かに頭を抱えていた。


「いや……どう見ても『ヒロイン』のツラじゃねぇだろ、これ」


 鏡に映っているのは、透き通るような銀髪に、吸い込まれそうな蒼の瞳を持つ絶世の美少女――のはずだった。

 だが、その目つきが決定的に悪い。

 眉間にうっすらとシワを寄せるクセ、口角を片方だけ上げて「あぁん?」と威嚇するような笑み、そして何より、立っているだけで醸し出される「夜の国道沿いのコンビニ前に溜まっているタイプの空気感」。


 そう、私――ステラ・リンドベル前世は、下町の暴走族やヤンキーたちを腕力と男気で束ね、「姉御」と慕われながらも男性経験ゼロのまま二十代半ばで死んだ、生粋の元ヤン喪女である。



 そして現在。

 記憶が戻ったのは、この『聖ルミナス魔法アカデミア』に入学する直前のことだった。


「思い出した時は跳び上がったね。『しゃあっ! 乙女ゲーム転生キタコレ!』ってな」


 ここは大人気乙女ゲーム『薔薇色アカデミア』の世界。


 私は男爵家という低位貴族の生まれでありながら、数百年に一人と言われる『伝説の白魔法の使い手』として特待生入学した、正真正銘のヒロインである。

 前世の私は、後輩の男どもから「姉御! 一生ついていきます!」「姉御、バレンタインの義理チョコです!」「姉御、いい男紹介してください!」としか言われず、甘い浮いた話など皆無だった。


 だが! 今世は違う!

 私を取り巻くのは、国でも有数のハイスペックイケメンたち!

 俺様系王太子、脳筋騎士団長男、クール天才魔術師、腹黒腹話術(?)宰相の息子!


「逆ハーレム、いけるな……?」



 前世で掴めなかった恋の花道。

 イケメンたちに「君は僕の特別だ」「俺のそばにいろ」とか言われちゃったりして、あっちでドタバタ、こっちでキュンキュンするような、甘甘甘甘(甘味増し増し)な学園生活が幕を開けるはずだった。



 そう。

 彼らが「まともな男」であればの話だが。





♢♢♢



 入学式が終わり、絢爛豪華な大講堂から中庭へと抜け出た時のことだ。

 春の陽気が心地よい噴水広場で、私は早くも「イベント」に遭遇した。


「ステラ・リンドベル嬢。君を探していた」


 すっと差し出された手。白銀の刺繍が施された王家の制服を纏い、金髪をなびかせる眩しい男。


 第一攻略対象・王太子アルフレッド・ド・バルディア。


 完璧な容姿、圧倒的な魔力、そして将来の国王。

ゲームでは「俺様だが一途で、主人公にだけ見せる甘い顔がギャップ萌え」という触れ込みだった。


(おおっ……! キタキタキタ! 王道ルートのイベント発生じゃん! やっぱイケメンのツラは目の保養になるわぁ……)


 私は胸を躍らせ、前世で培った「かわい子ぶりっ子」の素振りを脳内でリハーサルした。


「まぁ、アルフレッド殿下……私などに何かご用でしょうか?」とか言えばいいのだろうか。


 だが、アルフレッドの口から飛び出した第一声は、私の期待を木っ端微塵に打ち砕くものだった。


「君こそが私の運命の人だ。あんな気取り取った女ではなく、君のような素朴で輝く原石こそ、私にふさわしい。……婚約者など関係ない。私は君を選ぶ」


「……は?」


 私の脳内で、暴走族のクラクションがブォンブォンと鳴り響いた。



 ちょっと待て。


今、なんと仰いました?



 アルフレッドの隣に目をやると、そこには一人の美しい少女が立っていた。

 艶やかな漆黒の髪に、シオンの花のような紫の瞳。公爵令嬢イザベラ・フォン・ローゼンベルク様だ。

 彼女は顔面を蒼白にし、震える唇を必死に噛み締めている。手にした扇子が、かたかたと悲痛な音を立てていた。



 状況を整理しよう。


こいつ(王子)は、幼少期から国のために政略結婚の準備をし、王太子妃としての厳しい教育に耐えてきた公爵令嬢の目の前で、出会って数分の新入生に向かって「婚約者など関係ない」「運命の人だ」と言い放ったのだ。


(……あ?)


 前世の私の脳裏に、昔の苦い記憶が蘇る。

後輩の女の子を妊娠させておいて「いや~俺たち運命じゃなかったわ」とか抜かして逃げようとしたクズヤンキーの顔が。

 体の底から、ドス黒いマグマのようなものが沸き上がってくる。



甘い恋? ギャップ萌え?

ふざけんじゃねぇぞ。



「おい、王子」


「ん? 王子ではない、アルフレッドと――」


「おい王子、ツラ貸せ」


「な、なんだ? ステラ嬢、言葉遣いが……っ!?」


 私は無意識のうちに踏み込み、アルフレッドの胸ぐらを掴みかけて――間一髪で思いとどまった。

ダメだダメだ、私は貴族の令嬢。暴力を振るったら一発退学だ。落ち着け。冷静になれ。


 代わりに、私はすばやく腕を伸ばし、アルフレッドの右耳をガッチリと掴んだ。


「ひぃっ!? 痛い! な、何をする、離せ! 無礼者だぞ!?」


「あぁん? 無礼なのはどっちだこらぁ!」


 私は耳をぐいっと引っ張り上げ、王太子の腰をかがませた。


「痛たたたたたた! ち、ちぎれる! 耳がちぎれる!!」


「いいか、よく聞けポンコツ王子。婚約者ってのはな、家と家、人と人の『約束』なんだよ。相手の女人がお前にふさわしくなるためにどれだけの血反吐吐くような努力をしてきたと思ってんだ? それを『運命』とかいうふわっとした単語ひとつで踏みにじってんじゃねぇぞ!」


「が、我が王家の決定に口を出すか! 私は次期国王だぞ!?」


「責任取れねぇなら軽々しく口開くな!! 女を公の場で泣かせる男がな、この世で一番ダサいんだよ!!」



 私の怒号が中庭に響き渡る。


周囲の生徒たちが「ヒッ……!」と息を呑むのが分かったが、知ったことか。


「謝れ」


「な、なぜだ!? 私は王太子――」


「謝れ(低音)」


「……っ!!」


前世で何十人ものヤンキーを締めてきた「ガチの凄み」を視線に込めて睨みつけると、アルフレッドはヒッと短い悲鳴を上げ、膝をがくがくと震わせた。


「す、申し訳……申し訳ありませんでしたぁぁぁ!!」


「私にじゃねぇ! イザベラ様にだろ!!」


「イザベラ! すまない! 私が愚かだった! 許してくれ!!」


 地面に膝をつき、耳を押さえながら叫ぶ王太子。

私はフッと息を吐き、手を離して制服の乱れを整えた。



 ……あ。

やってしまった。


これ、ヒロイン失格どころか国家逆賊罪とかで首が飛ぶのでは?


 恐る恐るイザベラ様の方を見ると、彼女は紫の瞳を極限まで見開き、固まっていた。

そして、小さく、本当に小さく頭を下げる。


「ありが……ございます……ステラ様……」


「え? いや……あの、私、でしゃばった真似を……」


「いいえ。……私、幼少期からずっと、殿下の我儘に付き合わされてまいりましたの。『王太子妃になるのだからこれくらい当然』と自分に言い聞かせて……でも、今日ほど情けなく、悔しかったことはございません。……それを、貴女が……」


 イザベラ様の目から、ぽろりと大粒の涙がこぼれ落ちた。

それは悔し涙ではなく、長年の呪縛から解放されたかのような涙だった。


(いや……私、ただの怒声放っただけなんだけど……?)




♢♢♢




 王太子の一件から数日。


私の学園生活は、まったく甘い展開を見せていなかった。

第二の攻略対象、レオン・フォン・バークレイ。

騎士団長の息子であり、若くして剣の天才と謳われる赤髪の熱血漢である。

ゲームでの設定は「男気あふれる野性味。強引だけど守ってくれる頼れるヒーロー」。

そのレオンが、ある放課後、私のもとへドカドカと歩み寄ってきた。


「ステラ・リンドベル! 俺は強い女しか興味がない!」


「はぁ」


「噂は聞いているぞ! 殿下の耳を引っ張り回したそうだな! 気に入った! だから今から魔物討伐デートだ!」


「……は? デートの意味知ってる?」


「男と女が二人で行く場所、それがデートだろ! 行くぞ、学園の裏の『迷いの森』だ!」


 強引に袖を引っ張られ、私は呆れ果てながらついていくことになった。

まあ、魔物討伐なら私の白魔法(というか前世で培った物理)でサクッと終わらせて、早々に帰ればいいかと思ったのだ。



だが、森に入ってわずか五分。



――グギャオオオオオオン!!



草むらから現れたのは、体長三メートルを超える巨躯の「アーマーベア」。ランクBの危険な魔物だ。


「出たな魔物! 俺の剣技の犠牲に――」


レオンがカッコつけて大剣を抜いた、その瞬間。

アーマーベアが「ガウッ!」と咆哮を上げた。


「ぎゃあああああああああああ!?!?!?」


レオンは絶叫した。

そして、手にしていた高価な大剣をポイと投げ捨て、全力で私の後ろへとダッシュし、私の制服の裾をぎゅっと掴んで震え始めたのだ。


「……お前、何してんの?」


「む、無理! 今日のアクマ(熊)は顔が怖い! 目があった! 絶対俺のこと食べようとしてた!!」


「魔物は人間食うために襲ってくるんだよ! つーか、『強い女が好き』なんじゃなかったのかよ!?」


「俺より強い女が好きって意味だぁぁぁ! 助けてステラぁぁぁ!」


「情けねぇぇぇぇぇ!!」


呆れを通り越して頭が痛くなってきた。

アーマーベアが鋭い爪を振り上げ、私たちに向かって襲いかかってくる。


「ハァ……マジでめんどくさ……」


私はため息をつくと、足元に転がっていた直径一メートルほどの巨岩に手をかけた。

そして、白魔法(筋力強化)を全身に通わせる。


「フンッ!!」



どかーん。



巨岩をヒョイと持ち上げた私を見て、レオンが「え?」と声を漏らした。

私はそのまま、迫りくるアーマーベアの脳天に向かって、巨岩をフルスイングで投げつけた。



――ドカァァァァン!!



地響きと共に、アーマーベアは即死。文字通りチリとなって消え去った。


「……。」


「……。」



静まり返る森。



私は腕組みをし、地面に座り込んで腰を抜かしているレオンを見下ろした。


「お前さ」


「ひ、はいっ!」


「婚約者のリリア様……あの子、華奢な子爵令嬢だよな? これ、毎週付き合わされてたの?」


「……はい。俺の格好いいところを見せようと……毎回、森に引っ張り出して……」


「で、毎回お前が逃げて、リリア様が恐怖で泣き叫ぶのを『可愛いな』とか思ってたわけ?」


「……う、ウソです! 本当は俺が怖くて、リリアを置いて逃げたことも何度か……」


「最低かよ!!」


私はレオンの胸ぐらを掴み上げ(今度は物理で)、至近距離で睨みつけた。


「いいか? 男が女を守るんじゃない、お互いを尊重し合うのがパートナーだ! 自分が怖いからって女をダシにすんじゃねぇ! ブラック企業の圧迫面接かよ!」



森の木陰から、恐る恐る顔を出した少女がいた。

レオンの婚約者、リリア・フォン・メイザース様だ。彼女はレオンに無理やりついてこさせられ、隠れていたらしい。顔色は紙のように白い。


「リリア様!」


「は、はいっ! ステラ様!」


「今日から、こいつの『討伐デート(失笑)』の誘いは全部断れ! 断っていい!」


「で、でも……バークレイ公家に睨まれたら、我が子爵家が……」


「大丈夫だ! 文句言ってきたら私がこの岩でもう一回殴る!」


「はいっ!!」


リリア様の顔に、ぱあっと明るい花が咲いたような笑顔が浮かんだ。

彼女が心から笑った瞬間を、私は初めて見た気がした。




♢♢♢



三人目の攻略対象。


エリオット・フォン・シルバース。

十代にして魔導院の特別研究員を務める、青髪眼鏡の天才魔導師。


ゲームでは「クールで知的。主人公の献身的な支えによって心を開く繊細な天才」。


……うん、献身的って言葉の解釈を間違えるとどうなるか、私は思い知ることになる。



ある日、私は魔法薬学の課題で、エリオットの研究室を訪れた。

扉を開けた瞬間、激しい激臭と、なだれ落ちてくるゴミの山に出迎えられた。


「うおっ!? なんだこれ、ゴミ屋敷!?」


部屋の奥から、ボサボサ頭の青髪男が顔を出した。エリオットだ。


「あぁ……ステラ・リンドベルか。ちょうどいい、そこにある資料を整理してくれ。それと、お腹が空いたから厨房で温かいスープを作ってきてほしい。あ、あとこの実験器具の洗浄もね」


「……は?」


「僕は研究が恋人だから。君が僕のサポートをしてくれるなら、特別に恋人未満のポジションをあげてもいいよ」


「……誰が家政婦だボケ」


私は眉間をピクピクとさせながら、部屋の隅で必死に書類の山と戦っている少女に目を向けた。

エリオットの婚約者、シェリル・フォン・アルノー様だ。

彼女は目の下に深刻なクマを作り、手はインクで真っ黒、震える手で魔導書を書き写していた。


「シェリル様……」


「あ、ステラ様……すみません、散らかっていて……エリオット様のご研究の邪魔にならないよう、片付けていたのですが……」


「これ、全部あなたがやってるの?」


「はい……エリオット様は『研究以外の雑務は君の仕事だ。婚約者ならこれくらい当然だろう』とおっしゃるので……ここ一週間、まともに寝ていなくて……」




過労死寸前じゃねぇか!!



私はすっとエリオットの間合いに踏み込んだ。


「エリオット」


「何だい? 早くスープを――」


「テメェ、自分でやれ」


「は? 何を言っているんだ。僕の時間は一分一秒が世界的な損失なんだよ? 雑用は能力の低い人間がやるべきだろ――」


「時間が」


「え?」


「『ある』んだよなぁ、お前には。自分で掃除する時間が」


私は拳を握り締め、メキメキと音を立てさせた。

前世で培った、壁を一撃でぶち抜く正拳突きの構えである。


「五分止めろ。研究を」


「な、何を根拠に……! 僕は天才魔導師だぞ! 魔法で君なんて一瞬で――」


「正拳突き食らうか?(至近距離)」


「やります。掃除します。スープも自分で温めます」



即答だった。

メガネをガタガタ震わせながら、エリオットは雑巾を手に取った。

私はシェリル様の肩を優しく抱き寄せた。


「シェリル様、もういい。帰って寝ろ」


「えっ……でも、エリオット様のお手伝いをしないと、嫌われて……」


「こんなゴミ屋敷の住人に嫌われて何か困るか? お前はメイドじゃない。立派な貴族の令嬢だ。自分を安売りするな」


シェリル様はぽろぽろと涙を流し、泣きそうな、でも清々しい顔で笑った。


「……はい! 私、帰って十時間寝ます!」




♢♢♢




四人目。


ルシアン・フォン・グラザード。

宰相の息子であり、常に穏やかな微笑みを絶やさない腹黒貴公子。


ゲームでは「大人の色気と策略家。主人公だけに見せる本音と、甘い束縛」。


……うん。ただの性根の腐った男だった。


ある日の放課後、サロンのテラスで、ルシアンは私を呼び出した。

紅茶を優雅に嗜みながら、彼は甘い声で囁く。


「ステラ嬢。君は実に特別だ。他の浅はかな令嬢たちとは違う……君だけを、私は深く愛している」


(お? おお……? ついにまともな甘い言葉が来たか……!?)


私は一瞬、乙女心が復活しそうになった。

だが、続く彼の言葉で、その淡い期待は瞬時に塵となった。


「だからこそ……婚約者のイザベラ(※アルフレッドと破局寸前でルシアンとも政略的な話が進んでいた)とは、このまま政略結婚の形で結婚させてほしい。政治のためにね。……そして君には、私の『愛人第一号』になってほしいんだ」


「……。」


「安心していい。日陰の存在にはさせない。君のために豪華な別邸を用意しよう。本妻よりも君を愛すると約束するよ。……どうだい? 光栄だろう?」


ルシアンはフッと余裕の笑みを浮かべ、私の頬に手を伸ばそうとした。



パァァァァン!!!!



静かなサロンに、実に乾いた、そして重厚な音が響き渡った。

ルシアンの顔が真横を向く。

彼の頬には、くっきりと鮮やかな真っ赤な手形がついていた。


「がっ……!? な、何をする……!?」


「誰がなるかボケぇぇぇぇぇ!!」


私は手持ちのハンカチで自分の手を汚いものでも触ったかのように拭い去った。


「愛人第一号? 本妻を蔑ろにして陰で女を囲うのが『大人の余裕』とでも思ってんのか!? ただの浮気男だろうがクソ野郎が!!」


テラスの陰から、ガタッと音がした。

イザベラ様だ。またしてもこの女難の相が出ている公爵令嬢がそこにいた。


「イザベラ様!」


「は、はいっ! ステラ様!」


「これ、浮気の証拠として慰謝料請求できる!?」


「できますわ! 我がローゼンベルク家の法務部門をフル稼働させれば、グラザード家の政治的立場を失墜させ、多額の損害賠償を毟り取ることが可能ですわ!」


「よし! 今すぐ法務官呼べ!」


「待ってくれステラ嬢! 冗談だ! 今のは試すような真似を――」


「待たねぇよカス!!」


その日、ルシアンの「スマートな腹黒貴公子」としての社会的地位は完全に終わった。




♢♢♢



学園のカフェテラスにて。


私はアイスティーをすすりながら、遠い目をしてつぶやいた。


「……逆ハーレム、どこ行った?」


おかしい。

乙女ゲームのヒロインとして転生し、イケメンたちに囲まれて「キャー! どっちを選べばいいの!?」みたいな甘い悩みを抱えるはずだったのに。



蓋を開けてみれば、攻略対象は全員ポンコツ。

王太子は責任感ゼロの浮気男。

騎士の息子は度斤の臆病者。

天才魔術師はヒモ以下のゴミ屋敷住人。

宰相の息子は勘違い愛人囲い男。



「全員、ただのクズじゃねぇか……」


むしろ、彼らに虐げられていた婚約者の令嬢たち――イザベラ様、リリア様、シェリル様の方が、頭脳明晰で、気高く、そして何より根性が据わっていた。



すると翌日。


私の席の周りに、華やかな影が重なった。


「ステラ様! 今週末、我が家の別荘でお茶会をしませんか!?」


イザベラ様が目を輝かせて提案する。


「ステラ様! 私、ステラ様にお礼がしたくて……温泉旅行のチケットを手配しましたの!」


リリア様が可愛い笑顔で身を乗り出す。

「ステラ様! 最新の魔導具(肩たたき機)を開発しました! ぜひお試しを!」


シェリル様が目を爛々とさせて差し出してくる。


「……え? なにこれ」


逆ハーレム……じゃなくて、女子会?

そこへ、姿を小さくした元・攻略対象の男たちがワラワラと集まってきた。

彼らは青ざめた顔で、私の前に並ぶ。




「……ステラ嬢、反省しました。私は王太子としての自覚を持ち、イザベラに誠心誠意謝罪します……」


「俺も! もう『強い女好き』とか言わない! 自分が強くなるために剣術を一からやり直す!」


「僕も……部屋を掃除して、シェリルに頼らない自立した生活を送ります……」


「……私も、愛人などという戯言は撤回し、改心します……」



私は冷たい視線を彼らに向けた。


「……。」


「「「「……。」」」」


「まず、婚約者に土下座してこい」


「「「「はいっ!!」」」」


即座に床に膝をつき、綺麗な土下座を決める男たち。

それを見下ろしながら、イザベラ様たちは冷ややかに言い放つ。


「今後の改善が見られなければ、正式に婚約破棄とさせていただきますわ」


「当然です。次は容赦しません」


「私の研究を手伝うなら、最低限の清掃スキルを身につけてからにしてください」




強い。



この世界の女性たち、覚醒したら強すぎる。

私は思わずクスッと笑ってしまった。


「恋愛ってさ」


令嬢たちが、一斉にこちらを振り返る。


「相手を幸せにできねぇ奴は、恋愛する資格ねぇんだよ。男も、女もな」



静寂が流れた。





一瞬の間をおいて――



「「「ステラ様ぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」」



ドバァッ! と三人の美少女が私に抱きついてきた。


「ちょっと待て! 重い! 私はヒロインだぞ!? 男にモテる側だぞ!?」


イザベラ様が、いたずらっぽく微笑む。


「では、改めて宣言いたしますわ」


「?」


「『ステラ様親衛隊』、結成ですわ!」


「なんで!?」


リリア様が嬉しそうに頷く。


「隊長はもちろんイザベラ様です! 私は副隊長を拝命しました!」


「組織化すな!!」


シェリル様が素早く羊皮紙にメモを取る。


「活動内容は、ステラ様とのお茶会、視察旅行、およびステラ様の尊いお姿の観察・記録とします」


「最後の項目なんだよ!? プライバシー侵害だろ!!」


こうして、私の「甘い逆ハーレム計画」は完全に潰え去った。





……だが、悪くない。

周りを見渡せば、自分を解き放ち、凛とした笑顔を見せる美しい仲間たち。

そして、彼女たちに頭が上がらなくなり、必死に更生しようと汗を流す男たち。

後に学園史には、こう記されることになる。



『伝説のヒロイン・ステラ・リンドベル。

彼女は攻略対象と恋に落ちたのではない。

世界のポンコツ男どもを叩き直し、最強の令嬢たちを従えた、絶対的女傑である』



――まあ、たまにはこういう異世界転生も、悪かねぇか!


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― 新着の感想 ―
そのまま自分を慕う女性のハーレムを作ればいいのではないかと思います。ついでに舎弟も従えて。 面白かったです。
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