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連作短歌《滅びしものたちのゆめ》

作者: 空木
掲載日:2026/06/05

連作《滅びしものたちのゆめ》


みずいろのゆめがふかぶかとお辞儀をする昨日世界は終わったのだった


ほんとうの青だけが睡る水底にそこはかとなく神さまはひとり


海風が紺青の睡りをさらってゆく回線の切れた電話を置き


人形がひとつまたたく透明な函にかつての人間を納め


さみどりの街はあるとき云いました。街であることはいつもさみしい


みずからの玉座に坐る子らありてそれぞれの王国を守っていたころ


ひさかたの光はとうに消えゆきてさいごの燐寸にゆらぐともしび


青にすむ花には花の睡りがありゆめのなかでみるゆめは


淡墨の太陽が沈む西の果て廻る運命、てのひらのなかで


月の海も碧いだろうかこのしじま貝殻のなかに波音をきく


廃教会、柩のなかでゆめをみる かつて星は青かったのだと


白昼夢のかげにおびえる蝶々は鏡にうつるみずからをみる


まつろわぬ火をうつすステンドグラス煌々と燃える生命の末路


ペガススの羽ひかる淡くかろやかに永久に静止したメリーゴーランド


百合の香に立ちのぼる幻影在りし日の空は青く澄んでいたこと


告解は空虚にひびく波音のよう錆びた銅貨にゆびはわせつつ


永遠に廻りつづけるレコードのサン=サーンスの呼び声をきく


川底に沈んだ墓の前に坐す墓守はきょうも睡りにつく


カンテラの灯を受けし骨の白きことオパアルとなりしひとを思う


風わたる花の葬列あかるみて天使のしかばねをこえてゆく


眼窩より水晶こぼれおちるとき月のひかりのしずかな弔い


びいどろの(かげ)の廻るしじまにて天球の音楽(ハルモニア)はあまく滴る


とけのこる氷砂糖のうちにひびくヴィオロンのさいごのA音


水いろの金魚の泳ぐ箱庭をかきまぜるゆびの無邪気さよ


天国への梯子を探し森をゆく彷徨うたましいたちのささやき


深き森の最奥に睡る墓守の胸に刻まれし懐中時計


たれそかれ 時の止まったアトリエで胸像たちは微笑みを交わす


胸像のティーパーティの招待状 宛先はすべて空白で


遠き日の風葬がふと立ち現れ一葉の手紙をさらってゆく


たゆたうときそれは永遠の旅路 玻璃の小鳥がひよと鳴く

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