9・領主のありふれた昼食
昼休みに領主はいつものように出前のそばを3枚受け取った。
受け取り後、いつもの時間にいつもの大臣が来るのを待っている間、領主は自分の執務机のうしろの棚を開け、数種類の大判海苔の入っている箱を取り出し、匂いを確認すると1枚を取り出した。
さらに、領主が特殊な形状の鋏を取り出して、ちゃっちゃっと適当な用紙で切れ味をためしていると、まず人事大臣があらわれ、ぎく、としたように出入り口で立ち止まって言った。
「領主、それは盗作です」
「なんの」
「モリシゲの社長しりぃずの……」
「あいかわらず、チミは変なことを言うね」
そう言って領主は、取り出した海苔を切りはじめた。
この鋏は、不要になった書類を断裁するために、秘書が購入したもので、普通の鋏とはちがって刃先が一枚ではなく、領主の小指の幅ほどの間隔ですき間を開けた刃先が6枚、平行に並んでいる。
処分しなければいけない書類に関しては、秘書の机の横に電気機械仕掛けの断裁機が設けてあり、それを使ったほうが楽なので、特殊形状の鋏は、領主が各地から取り寄せた海苔を蕎麦にかけ、盛り蕎麦をざる蕎麦にするための道具となっていた。
「はぁぁぁ、その鋏でぐんと伸ばした蕎麦を、食べやすい長さで切るんじゃないかと」
「そんなくだらんことはせんよ、なに考えてるんだねチミは」
なんかいつも出前のノリが 湿っちゃったり 味が悪かったりするんで、今後の新商品参考のために、あちこちの領地・業者から集めてるんだ、と、領主は箱の中の海苔を人事大臣に見せた。
「なるほど、よく観察すると微妙に色や匂いも違ってますな」
「そうなんよ、もちろん味も違うよ」
人事大臣は、あ、それけっこう高いんだから、という領主の忠告にもかかわらず、もぐもぐと海苔を食べて、その感想を言い、しばらくすると軍事大臣、および追加の盛り蕎麦10枚がやってきた。
「海苔がむなんかどうよ、こう、がむに海苔の味を混ぜて、酢昆布に対抗できる商品になるかな」
「……技術的には可能ですけど、試食は軍事大臣にお願いしたいところですねえ」
「だめだよ、あいつ何食べても、うまいです、ぐらいしか意見言わないから」
「ごもっともですなあ」
領主が外食、つまり外の店や職員食堂で食事をしないのは、職員と会うとみんな緊張しちゃって、落ち着いて食事ができなくなる、という事実に配慮したためである。
聞いたところでも、けっこう領主とか社長の昼食は、同様にしている者が多いらしい。
この件に関しては、また別の機会にくわしく語ることになるかもしれない




