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23・領主と強力な助っ人

 ウナギの養殖池に住む、伝説上の怪物・ヒュドラはとても強かった。


 龍みたいな頭が7つあって、ひとつを攻撃しているうちにほかの6つが攻撃してくる。


 実践的戦闘として立ち向かった領主の軍の精鋭部隊数十人も、ふたつかみっつの頭を相手にすることがせいぜいで、弓矢と槍、長剣といった前近代武器ではありながら、連携を取って勇猛果敢に戦っていたけど、ヒュドラのほうはなにしろ元の体がひとつだから、もっと連携が取れている。


 もはやだめか、と思われたとき、というより、だめか、と思ったのを待ってたとしか考えられない状況で、領主の学友・タツミはヒュドラの前に立った。


 タツミの能力は、敵の能力を複写できる、という様式美なもので、要するにタツミには、どんなに強いものであっても勝てないのである。


 なおそれは、どんなに弱い相手でも勝てないという、使いかたがむずかしい能力でもある。


 ここはおれにまかせろ、と、ヒュドラの前に立ったタツミは、7つの色の違う体に分裂・分身した。


 そして、それぞれの頭に飛び乗ると、左手で頭を押さえ、右手につけた鋼鉄製拳鍔で連打した。


 なにしろ、ヒュドラが一体ならタツミも元はひとり、すばやさも力もヒュドラと同じである。


 自分と同程度の敵に会ったことはたぶんなかっただろうヒュドラは、沼から出ている部分がぼこぼこになり、明らかに弱って沼の表面から下に沈んで行った。


 やったか、とタツミは言った。


 おお、なんと様式美な、やったか、ですな、と人事大臣は言った。


 そこで、やったか、と言われた敵はやられていない、これが常識であります、領主。


 確かに、いったんやられたかと思ったヒュドラは、再び頭を上げてきた。


 おまけにその頭はどれも蛍光色でぴかぴかするようになって、さらに強そうである。


 出ました、第二段階、さいりうむ・こーで、本番はこれからですぞー。


 お前が実況やったほうがいいんじゃないか、人事大臣、と、領主は思った。


 ヒュドラの7つの首はいっせいに上を向き、口から7色の炎を、天高く吹き出した。


 実にきれいである。


 瓦斯吹管のようにその炎を絞り込むと、7つの色が織り込まれた複雑なものになり、上空に向けて放っていた炎は、ゆっくりと角度を変えて領主たちのほうに向けられた。


 あぶない、と、一同の前に立ったのは、ハリネズミみたいな感じの、領主が通う学園の生徒会長だった。


 生徒会長もタツミと同じく、領主に誘われて来ていたのである。


 生徒会長の能力は、敵の能力を無効化する能力。


 前にタツミの複写能力と戦ったときには、複写・無効化・複写・無効化という、どっちが勝ったかわからない戦闘になってしまったものだけれども、ヒュドラの炎のようなものは確実に無効化できるはずだった。


 生徒会長の前方に、かなり大きな、きらきらした円形の防御障壁が広がり、ヒュドラの吐く炎は完全に食い止められた。


 ま、待たせたな、と領主は言い、ううん、今来たとこ、と生徒会長が答えたあと、ちがーう、と怒った。


 ちょっとちょっとちょっと、ここは私が、待たせたな、で、ミカンが、待ちわびた、っていうのが様式美じゃないの。


 領主の学園内での偽名はミカンなのだった。


 どうやらヒュドラの超爆炎攻撃は一度やるとしばらく休みが必要らしく、はあはあと肩で息をしながら首をくねくねと動かしている。


 どこに肩があるのか、今ひとつわからないけれども。


 だって、待ってただろ、出番まで、だからここはわたしが、待たせたな、でいいんだよ、と領主は言い張り、えーひどーい、待たせたな、は、こういうところでいちばん助っ人が言いたいセリフなのにー、と生徒会長は反論した。


 ここで、めたな世界についての知識を持つという人事大臣に聞いてみると、生徒会長様が正しいです、とのことである。


 そこで、次の攻撃まで力を溜めているヒュドラの黒い頭の額に、切り傷があるのに領主は気がついた。


 なんだ、おまえ、ヨサブローじゃないか、懐かしいなあ。


 よく見ると緑色の頭の頬や、赤色の顎のところなど、いろいろなところに傷がある。


『なんや、あんた領主見習いやおまへんか、いやー、久しぶりでんなー』


 ヒュドラは精神感話で、いかにも上方弁に慣れていないものが無理やり、性格づけのためにだけ使うような上方弁でみんなに語りかけた。


 これは、わたしが幼少のとき、チチから下賜されたヨサブローというヒュドラである、と、領主は説明した。

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