22・領主とウナギ+ヒュドラとの死闘
ここが自慢のウナギ養殖池てあります、と軍事大臣は言った。
それは古くからある、池というよりは沼で、かつては天然うなぎがひっそりと育っていた、緑と茶色の色の濃いところだった。
水の色は紫に変色しており、何やら瘴気のようなものがただよっていて、すこし生臭い。
こんなところで本当にウナギとか取れるの、という領主の問いに、もちろんです、と軍事大臣は自信満々の調子で言い、さらに、一緒に連れてきた精鋭数十名がびくびくしているのを尻目に力強く。
これは訓練ではない実践である。
領主のためにいちばんおいしそうなヒュドラを捕まえるのだ。
え、あんた確かいま、ウナギじゃなくてヒュドラと言ったよね、と、領主は聞き返した。
そういえば領主もいたんだっけ、いやだなあ、ウナギですよ、ウナギウナギウナギ、兵士たちのやる気を煽るための冗談です。
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それから長時間の格闘ののち、へとへとになった兵士とまだまだ元気な軍事大臣は、ヒトの背丈の数倍の長さと、おとなひとりがようよう抱え込めるくらいの太さのウナギを一匹手に入れることができた。
ウナギはぬるぬるしていて、ヒトをしめつけてきて、噛みつかれると痛いけど、ヒュドラでないことは確かだった。
わきのほうで控えていた人事大臣と、まな板・包丁・炭火などを用意していたウナギのさばき職人数人は喜んだ。
この大きさなら、料理して城に持ち帰れば、職員全員がご馳走にありつけるな、と領主は言った。
しかし、これだけの大ウナギを、商売になるほど手に入れて料理してるんだろ、そういうのは誰がやっているのだ。
ふん、と、軍事大臣は、当たり前のことを聞くな、という感じで答えた。
それはもう、漁師とウナギ職人に決まってるじゃないですか。
ウナギ職人、って言いかたも変だけどね、だったらその者たちは兵士たちよりも強いのか。
全然強いですよ、なにしろ、ぬるぬるに慣れてるし、それに包丁持ってますから。
ふーむ、と、領主は考えた。
じゃあウナギ職人を兵士にしたほうがいいんじゃないの。
いやあ、だめですよ、と、軍事大臣は頭をかきながら言った。
なにしろうちらにはウナギはさばけませんので。
たしかに、軍事力をあげるよりは、おいしいウナギをつかまえたり、料理したりして、帝国各地に売ったほうが税収は増えて得なのだった。
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皆の腹がふくれ、ひと休みしたところで、軍事大臣は、それじゃ午後はヒュドラと戦うことにしましょうか、と領主に言った。
これだけの立派なヒュドラが生息している沼地など、他にはめったにありませんからな。
ところでヒュドラっておいしいの、と念のために領主は聞いてみた。
領主、と、軍事大臣は真顔で言った。
なんでも食べられるものだと思ってはいけません。
伝説としては、じゅうぶんに毒抜きをして、じゅうぶんに火を通せば、じゅうぶんに成熟しているものなら食べられないことはない、と聞きます、けれども記録で確認できるかぎりでは、ヒュドラを倒した者はいないのです。
静まり返った沼から、ゆっくり巨大な頭が現れた。
ぬるぬる、ではなくごつごつした、龍のような形状で、まずはじめに黒いのがひとつ。
それに続いて、のこりの6つの頭があらわれる。
色は黒、白、赤、青、黄、紫、緑、と伝説のとおりである。
さあ撮影班、撮影機を回して、実況担当はしっかり実況して、と人事大臣は準備していた映像配信の準備に取りかかった。
こんなん、共和国の太平洋艦隊と比べればどうってことないぞー、しっかりかかれー、と、戦争体験もないくせにえらそうな軍事大臣は言った。
ヒュドラは、首を振り回して兵士をなぎ倒したり、口でくわえて放り投げたり、といったぬるい攻撃しかしてこないけど、予備兵力も含めて生身の兵士はどんどんやられる。
戦車とか加農砲、せめて機関銃ぐらいは持ってきてないのか、と領主は聞いた。
そんな、鉛玉をぶち込むと味が落ちますから、矢とか槍を使う程度にしとかないと、それも鏃は金属製じゃなくて石器で、と軍事大臣は説明した。
そんなこんなで、精鋭部隊の3分の1は、あっという間にやられた。
弱すぎ。
うちの軍隊、弱すぎ。
そんなとき、おれにまかせろ、という声がした。
領主の信頼できる学友で、敵の能力を複写できるという、使える能力を持つタツミである。
ごちそうするから遊びに来ないか、と領主は前もって誘っていたのだった。




