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2・領主の作業

 領主の館を出て領主は職場、要するに公共の執務室がある役所へ向かう。


 役所は戦国時代は砦、帝国の自治領時代になってからは城として使われたもので、濃い緑色をした堀をまたいで複数の橋と門がかけられ、数世代前は職分に応じて使用される橋が決められていたらしい。


 城もまた、共和国の爆撃機の攻撃目標とされたため、木造部分はすっかり焼け落ちてしまった。


 整理されていない瓦礫の山は一区画に積み重なれていて、更地になった跡地には、新造の、素材が粗い、しかし見た目は白くて、今のところは見栄えは悪くない、硝子と鉄の共和国式建築が建てられていた。


 使い心地に関しては、無駄で急な階段がなく、電気式昇降機も設けられているため、中で働くものの評判は悪くない。


 産業の復興や人口の増加により、そのうち増築しなければならないかもしれないけれども、そのための空き地は十分にあり、今はそこにも暖期の草花が生い茂っていた。


 橋や鉄道のように細長いものは、爆撃機が狙って破壊するのは、どうも難しかったらしく、延焼で燃えた木造のものはともかく、石造りの橋は簡単な修復でほとんど使えるようになり、役所で働く者は、担当部署に近いどの橋を使ってもいいことになった。


 しかし、大半のものは、かつて大手門と言われた一番大きい門のあとを通ることにしている。


 役所は領主の館から歩いて5分ほどのところにあり、領主も以前、まだ領主補佐・代理のころには、徒歩で7分ほどかけて通ったこともあった。


 しかしそのための護衛が必ずつきそわねばならないのはお互い面倒であり、手間もかかるので、今はすこし贅沢かもしれないけれども頑丈な公用車を使っている。


 車を使うもうひとつの理由は、護衛がいるにもかかわらず直訴におよぶ公民がいることだった。


 実際のところ、公民の声は領主に対して直接、窓口を通して通知をすることが一般的であり、また行政に不満がある場合には公の選挙その他の手段で新領主を立てることも可能である。


 ただ直訴に対しては、領主は、読みました、というくらいの対応と、各担当部署にこのようなものが公民から寄せられた、と連絡をすることぐらいしかできないのである。


 それに、直訴が一般公民の、一般的な意見なのかもわからないのであった。


     *


 朝早く、領主が役所に着くころには、出勤している職員はまだ誰も誰もおらず、領主は領主および業者専用の出入口から専用の昇降機を使って執務室に入る。


 領主は、他の自治体の領主と比較して、特に仕事熱心なわけではないけれども、執務室に入ると、秘書官が前日の夜に自分の机に置いて行った紙の書類に目をやる。


 机の横には前日に、翌日回しにしても大丈夫そうな書類も、箱の中に積み重なっている。


 書類その他の情報共有・許諾は、ずいぶん前から、別に紙で�回す必要はほとんど皆無にもかかわらず、こう、明らかにこんだけの物量、ってのがわからないとどうも調子が出ない、というのが歴代領主の主張だった。


 机の書類は、上のほうが新しく、下のほうが古い、つまり下のほうから順番に見ていかないといけない。


 領主はまず、「翌日回し」だった書類を机に戻し、新着の書類を重ねる。


 つぎに肘を机の上にのせ、くき、と手首をひねると、それより上の書類は「未決済」の箱に置き、つぎに肘から手首までの書類を、えいやっ、という感じで上下をひっくり返す。


 分量があるので、3回ぐらいに分けて、だけれども。


 一度だけ、まとめてひっくり返そうとしたら、手首を痛めたうえぐしゃぐしゃになったのだった。


 領主は、領地の自治長であると同時に、領地に本社を持つ国内でも有数の近代工場の最高責任者であり、地元の農業組合の理事長でもあるため、行政に関しては白、産業に関しては薄い青、農業に関しては薄い赤で書類は印刷されている。


 さらに、学校の課題は薄い緑で、これは不規則に、業務用の書類の間にはさまっている。


 領主が責任者であるのはなんの工場かというと、護謨、つまり、えすとらまぁの一種で、適度な弾性を持つ合成物質として処方面に使われるものを作るためのものだ。


 もちろん軍事関係でも、護謨靴から航空機のすき間を埋めたりするものや、輸送用自動車の車輪など、戦争を支援する重要物資なので、末期には役所をはさんで領主の館の反対側にある生産施設は爆弾が落とされて全壊した。


 そして戦後は戦争協力者として、今の前の領主は公職およびそれに準ずる企業の役職につき続けることは禁じる、と、占領軍から指令が出てしまった。


 農業に関しては、大地主が管理していたところを、小作人が協同組合、つまり会社経営と同じようにやれ、と、これも占領軍の指示が出され、新領主は当然のことのように管理業務を押しつけられた。


 さて、と、領主は腕まくりをして、その体には似合わぬ大きな机を前に、大きな椅子に腰掛け、必要な作業をはじめる。


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