17・領主の留学時代(その4)
なんかあなた、わざと凡庸なふりをしているでしょ、と、リリスは的確に指摘したので、リーゼはとりあえず一呼吸置いて、紙盃の紅茶をひとくち飲むと、ぶっ、と吹いた。
なんでそれを。
というか、凡庸なわたしに対し、学園の王子様(仮)であるルークが好意持ってるのがむかつく、じゃないのか。
リーゼは動揺した。
次の領主候補であるとはいえ、凡庸すぎて使い物にならん、と、現領主には思わせることには成功していたのに。
あなたのはねえ、並はずれて凡庸なのよね、運動も学業も、そういうのってずるくない、と、リリスは言った。
なるほど、この国では秀でた者が指導者になるのか、と、リーゼは納得した。
次の学年定期考査ではまじめにやってね、あと運動競技も。
しかし、この時期、つまり初等教育の段階ではそんな勉強ばっかりしてても仕方ないんじゃないのか、それに運動は、個人競技はともかく団体でやるのは苦手なのだ。
ていうか、あんた、できるコだったんかい、単にオヤとかこいつ(ルーク)のひいき背景があるだけかと。
高等教育は共和国でいちばんの法科を目指してるから、中等教育からは地域の選抜校にいくつもりなのね、と、リリスは言った。
次の試験で、お互いの答案を見せあった結果、リリスはリーゼにちょっとの差で負けた。
これは教師とわたしたち、ふたりだけの秘密にしておきましょう、ということに、リーゼはしてもらったのだった。
*
「まずこう、相手から目をそらさないで体を屈折させる、でもって片手はぐー、片手はぱー、で両手を合わせる、ぐーぱーの手がちがーう」
リーゼは、まいのりてぃ・くらぶのくらぶ員のうち、共和国の者を対象に、帝国風の礼儀を教えていた。
まいのりてぃ・くらぶは、約半数が共和国人、半数はそれ以外の国の者で、帝国人はいないけれども、嘘の礼儀を教えるには、共和国人以外の者が混じっていると邪魔なのである。
先頭の、一番真ん中にリリスはいて、師匠であるリーゼの教えを忠実に模倣していた。
「それからぁ、片手を出して、指2本立てて、くいくい、とやるの、つぎに、こう言う、サアコイ」
「サアコイ!」と一同は言った。
だめだよお、そんな嘘教えてちゃあ、と、戸口のところから声がした。
声の主は帝国人と国は違っているけれど、同じ人種の人間で、黒い髪と黒い瞳をした、なかなか、すまーとな人物だった。
「ぼくの名はルルイエ、リーゼ師匠より2学年上だ」
どうしてここでは誰も、自分で自分の名前を名乗って自己紹介するのだ、と、リーゼは思った。
「まず、両手と両腕を床の上につき、頭を深く下げる、ああ、だめだめ、足伸ばしてたんじゃただの腕立て伏せだから」と、ルルイエは正しい指導をした。
ヨロシクオネガイシマス。
コノタビハドウモモウシワケアリマセンデシタ。
簡単に、ドウモ、だけでもいいけどね、それじゃ、リーゼとふたりで向き合って、手本をお見せしよう、とルルイエは言った。
ふたりはいつまでもお辞儀もしくは土下座をしていた。
いつまでも。
いつまでも。
いつまでも。
だめだよ途中で寝ちゃ、と、リーゼはリリスに扇子で頭をどつかれて、はっ、とした。
いつのまにかルルイエはいなかった。
*
ところであんだも能力持ちだよね、どんな能力なの、と、リーゼはリリスに聞いてみた。
名前すらぶっちゃけてる国なんだから、ほかの誰かに聞いても平気だろう、と思っていたけど、リリスは自分でも、取り巻きでも教えてくれないのである。
え、もうとっくにみんな、あなたは知ってると思ってたんだよ、死なない能力、あ、ぶっ、って吹くのはやめて。
いやそれ、いくらなんでもありふれてるでしょ、先の大戦でも、戦闘中行方不明になった兵士はだいたいそうなのでは。
んなわけあるかよ、と、リリスはむきになった。
あと、たいていの負傷は半日あれば治るよ、内臓がはみ出たり、骨折ぐらいだともうすこし時間がかかるかな、死んだときは翌日。
学園の七英雄を相手に、毎日喧嘩してたらしまいにはあきらめてくれてさー、と、リリスはいかにも悪役令嬢らしい武勇伝を語った。




