16・領主の留学時代(その3)
用がなければこれで、と、立ち去ろうとリーゼに対し、ルークは食堂の壁、正確には太い柱にドン、と手をかけて動きを止めた。
逃げるなよ。
リーゼは真顔になって、ルークのほうに顔を近づけたので、ルークの顔は赤くなった。
ち、近い。
それはわたしのセリフです、と、リーゼは言った。
ごめん、ちょっとやってみたくなっただけなので。
ふん、それでは話を聞きましょう。
「きみはまいのりてぃ・くらぶというものには興味はないかな」と、ルークは言った。
まいのりてぃ、とは少数派という意味ですね、つまりそういう者たちに関する理解を深めたいヒトのためのくらぶですか、確かに、この国をより理解するためにはそのほうが……どうしましたか。
いや、ぼくたちがきみたちような国の文化や歴史を知るためなんだけど、逆に考えてないかな。
リーゼは腕を組んで考えた。
こいつら、自分らをまいのりてぃとは思っていないのか、その発想はなかったな。
「まず、わが国は2000年の神国としての歴史、120年の帝国の歴史があり、帝国語の起源となる古代帝国文化を共有するものは、世界の4分の1を占めます」
現在の列強は世界の辺境より生まれ、生産力と工業力、それに強力な軍隊と指導者を持っているだけで、ちょっと国力のある民族によるまいのりてぃ、です。
たとえば、と、リーゼは低国語の重要部分を占める、古代語を書いた。
「山」
この一字で、ひとつの意味を持ち、さらに、
「岩」
これでまた別の意味を持ちます。
なるほど、と、ルークは言った。
それでは、まいのりてぃ・あんど・まじょりてぃ・くらぶに改める方向にするよ、顧問の教師と、現在のくらぶ員の意見も聞こう。
くらぶ活動に協力はしますけど、ひとつ条件があります、と、リーゼは言った。
*
その日の放課後、リーゼがくらぶ室に顔を出すと、ルークが約束したとおり、リリスが、ぶすっ、とした表情と態度で先に来ていた。
ほほお、さすがにわたしにルークを取られるのではないかという懸念があるだけのことはあるな、と、リーゼは言ったので、リリスは……怒るかと思ったのに、いささか寂しげな表情に変わった。
そんなこと考えてねぇよ、きんかん頭。
おまえにお近づきの印として、古代帝国語で一字を献呈する。
『乳』
これは、賢者の意味だ、と、リーゼは正々堂々と嘘を言った。
胸のえんぶれむにその字を刻むといい、まじょりてぃ組はみんな、おまえを尊敬の目で見るだろう。
数日後、それはあんまりだということで、別の字を与えた。
『嬢』
ところでさあ、リリス、わたしのどこにむかつく要素があるのよさ、と、リーゼはふれんどりぃに聞いてみた。




