15・領主の留学時代(その2)
領主代理、つまりリーゼに関してはまだいい噂も悪い噂も流れていない時期ではある。
しかしそれから数日後、リーゼは悪役女王様のリリスにとその取り巻きに呼びつけられたのである。
この国はなかなか面白いな、とリーゼは言った。
わが帝国では取り巻きがそのような雑用をを引き受けることになっている、さすが民主主義の国だ、首の代わりに鳳梨でも生やしてるんじゃないか。
だいたいはわかった、それでは、と言って立ち去ろうとしたリーゼを、リリスは、ちょっと待ってよ、と、肩に手を当てた。
これは相手のほうが先に銃を抜いたな、と判断したリーゼは、軽くその手をつかんで、腰をかがめ、柔術の投技で相手を前に倒し、立ち上がろうとしたリリスに頭突きを食らわせた。
さらに、再び倒れたリリスを数回踏みつけた。
そのあとリーゼは数人の生徒にボコボコに殴られた。
その間に誰かが教師を呼びに行ったらしく、あわただしくあらわれた教師は、逃げそこなったふたりを校長室に連行した。
校長は、どちらが先に手を出したのかを聞き、どちらが悪いと思うかを聞いた。
その発想はなかったな、と、リーゼは心の中で思った。
帝国内での揉めごとは、伝統的に「どちらが勝ったか」が問われるので、リーゼが返答に躊躇している間に、リリスのほうが先に、わたくしたちのほうです、と言った。
リーゼは次のように言った。
わたしが動きを止められたので振り返ろうとしたら、なにもしないのに倒れ、わが国の軽い謝罪として頭を下げたら、それが相手の頭にぶつかり、わたしもちょっとくらくらして、足元になにがあるのかわからないけど、柔らかいものを何度か踏んづけてしまったことは事実です。
そして校長の前で頭を下げて謝罪した。
そのような謝罪の礼は、共和国では一般的ではないらしく、校長は椅子に座ったまま背筋を伸ばした。
そして校長は、席から立ち上がり、窓から外を眺め、つまりふたりとは目を会わさず、明日までに事件の経緯と反省文を提出するように命じた。
どうも、留学生くんのほうがひどく痛めつけられているようじゃないか。
リリスのオヤはこの市の市長であり、留学生のオヤは帝国の領主と聞いている、国際的・外交的問題になるのは回避したい、と、校長はぶっちゃけすぎな感じでふたりに話した。
*
リーゼは翌日、始業時間の一刻ほど前に学校に行き、鍵のかけられていない校長室の机のうえに、言われたとおり反省文を提出した。
そして昼休みにリーゼはルークと会い、話をしないという約束を守った。
なるほど事情はだいたいわかった、とルークは言い、さらさらと小紙に次のように書いてリーゼに渡した。
『この留学生・リーゼが私・ルークと口を聞くことを許す。
異議のあるものは正規の手続きをもって訴訟に及ぶべし』
ぼくのオヤは州の裁判官をしているんだ、とルークは言った。




