14・領主の留学時代
中等教育初期の一時期、領主になる前の領主見習いだったころ、領主は共和国の学園都市で留学生として学んでいたときがあった。
当時の学内偽名はリーゼロッテ、略してリーゼである。
帝国民のおおくは黒髪・黒い瞳なところを、リーゼはそうでもなく、また特にそのころは、共和国民基準でも小さいということもないため、自己紹介時以外は目立たない学生でやりすごそうと、ただし学業は倍速設定でさくさく進めていた。
なにしろ、帝国語と共和国語では根本部分が違うため、大変なのである。
とはいえ、昔からオヤのせいで、というよりおかげで、共和国語は帝国の初期教育時代から仕込まれていたため、共和国の学校教育における教科書、および生徒同士のやりとりには、そんなに難しい語が出てくるわけではない。
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留学して間もないある日の昼休み。
リーゼは留学先の食堂で、教科書と紙束を広げ、3倍速設定で読み書きしながら、肉はさみ麺麭を片手でひとり食べていた。
戦争以前にはまだ、個人で持ち運べるような携帯端末は普及しておらず、というか、宇宙人が技術提供をしていなかったため、高等教育の学生ですら紙と筆記具を使って、授業も教師が黒板に文字を書いて教えていたのだった。
ちょっといいかな、とリーゼに話しかけたのは、いつも歯をキラリとさせる学園の王子(仮)であるルークという人物だった。
その日のリーゼはわざとらしく片腕と頭に包帯を巻いていた。
これは別に厨二病とかのせいではなく(そのような病はまだ普及していない)、学友とのすこし激しいやりとりのせいである。
聞きたいことがあるんだけど、と言うルークに対して、リーゼは小紙に字を書いて見せた。
『わたしは話すことはありませんし、話すことが禁じられています』
えー……誰に。
『みんなに』
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前日の放課後にリーゼは、取り巻きと一緒だったリリス、この学園内の悪役令嬢であるリリスにそう言われた。
だいたいどこの国でも、初等教育の後期ぐらいまでは、異なる文化・考えを持ったヒトに対して、大多数のヒトは違う扱いをする。
それは差別とはかいじめとかいったものではなく、たんに虫が好かないとかそういう漠然とした理由を根拠とするものであり、リーゼは特にひとりでいることになんら不満はなかったし、腕力でも学力でも負ける気はしなかった。
ルークに対しても、この国ではああいう者ががかっこいいとか言われるんだろうという程度にしか認識していなかった。
出会いの様式美は、図書室で本が取れなかったときに本を取ってもらったり、あるいは球技場でボールが転がっていって、それを手もしくは足で送りかえしてやるときに会話するくらいのものだったのである。
きみ、名前は、とリーゼは聞かれたので当惑した。
帝国の領地内では、偽名だったとしても誰かに聞かれたことはなかったので、そのふれんどりぃさにためらいながら名乗ると、相手は、ぼくの名前はルーカス、ルークと呼んでくれたまえ、と言うのに、リーゼはさらに驚いた。
この国は、聞かれもしないのに、たとえ偽名であっても自分で名乗るのか。




