星を撃ち墜とす
日間四位ありがとうございます!
「大丈夫かい?」
そう言って廊下で尻餅を付く私に手を差し出してくれたマルク王子のキラキラと輝く瞳を見た時、まるで星の様だと私は思ったんだ。
母が無くなってから父親を名乗る男爵に引き取られ、貴族として生きて行く事になった私は、貴族の子供達が必ず通わなければならないらしい学園に通う事になった。
入学までの三ヶ月で身に付けろと言われて必死で覚えた礼儀作法は生粋の貴族達からすればやっぱり付け焼き刃で、何かすればクスクスと笑われてしまう。
私が何を間違えてどう失敗して笑われているのかを教えてくれる様な人もいないから顔を赤くして肩を窄めて縮こまるしかなかった。
そんなある日、広い校内に迷って次の授業に遅れそうで慌てていた私は曲がり角でマルク王子とぶつかり、転んでしまったの。
最初はただ私の様な平民上がりの貧乏男爵令嬢が王子様とお話して畏れ多くも手を貸して頂けた事に興奮していただけだった。
それから何の巡り合わせなのか度々顔を合わせる機会に恵まれ、親し気に声を掛けて貰える様になった。
そうして日々を過ごして思い出を重ねていく事で、私がこの学園でマルク様と出会えたのは運命だったのだと気付いたの。
でも、彼には婚約者がいたわ。
公爵家のご令嬢でこの国の筆頭貴族の家系である彼女は生まれながらの貴族としての美しさと気品を兼ね備えており、未来の国母に相応しい完璧な令嬢だった。
私では彼女に敵わない。
誰がどう考えてもその結論に至るでしょうね。
最初は身の丈に合わない分不相応なこの思いを諦めようと思った。
けれども、マルク様と交友を深め、彼の輝く瞳に射貫かれ、彼の人と成りを知る内に胸の内に秘めていた想いがどんどんと強くなり、抑えきれない位に溢れ出て来てしまった。
貴族の蒼い血を持っていると言っても最下級の男爵で、平民として育った私がいくら努力しようとも手を伸ばして届く高さには限りがある。
天で瞬く星に手は届かない。
分かっていたのに、私は諦めきれなかった。
欲しくて、欲しくて、その光に、その輝きに焦がれて手を伸ばさずにはいられなかった。
伸ばして、伸ばして身を引き裂かれそうな苦しい日々の中、そうしてある時に気付いたの「届かないのであれば届く所へ墜とせば良いのだ」と。
彼が私の運命であるのであれば、きっと成功する。
焦がれてこの身が燃え尽きようと、彼が傍に来てくれるのであれば私はきっとこの上ない幸せを得られる。
それに、例え手が届かなくとも彼との思い出があれば私はそれだけで一生を過ごせるだろう。
決心してからは私はそれまで以上に頑張ったわ。
生粋の平民と接する機会が少ない高位貴族の令息達は私の反応や考えを新鮮に捉えて面白がっているのだと分かった私はその興味に乗ってみる事にしたの。
興味を持って貰えればそこを足掛かりに接点を持つ事に繋げられる。
接点を持ち、交流が深まり、その内容が楽しい物であれば誰だって好意を抱く。
私の話をするだけじゃなく、相手にもきちんと興味を持って質問をするとみんな面白い様に楽し気に話をしてくれる様になった。
最初は的外れな質問をする様にして、それを笑われたらこっちも照れ笑いをしながら相手に教えて貰う。
前まではあんなに笑われるのが怖かったのに、今ではそれを手段に出来る様になった。
相手が下だと思っている人達は饒舌になる。
相手の興味がある事や好きな事を知ったら自分も興味が湧いたフリをして相手との会話が楽しくて仕方が無い態度をとっていたらみんな、面白いくらい私に夢中になったわ。
貴族の事を何も知らない奔放さがウケているから学園で教えられたマナーは最低限しか習得しなかった。
知識を入れればそれだけ奔放さを失ってしまうもの。
最初は親切な人が「婚約者のいる方に必要以上に近寄るのは不利益を生む」と教えてくれたけれど、「怖い事を言われた」と令息達に泣き付く姿を見せれば直ぐに遠巻きになった。
中には親切を装って嫉妬から徒党を組んで「身の程を弁えなさい」と言ってくる人達もいたわ。
でも、そう言う方が一番やりやすいのよね。
令嬢達に囲まれた時にちょっと大げさに震えながら涙を流せば私を見た令息達が直ぐに助けに来てくれたわ。
だって、か弱い女の子が怖い女の子達に囲まれて虐められている様にしか見えないもの。
あたかも、怖い人達から助け出してくれた恩人かの様に接すればみんな気を良くして鼻の下を伸ばしたわ。
でも、私が欲しいのはマルク様だけだから彼らにはきちんと私が秘めたマルク様への恋心を吐露したわ。
「私では釣り合わないのは分かっているの、だから今だけで良いからお傍に居たいのよ。共にいるだけで幸せなの」
鏡を見て研究した儚く見える笑顔を浮かべてそう告げるとみんながみんな一様に「君の純真な想いこそが真実の愛だ」と応援してくれた。
こうして私は令息からは「感情を出さない令嬢と違って素直で健気な女」令嬢からは「婚約者のいる男にすり寄るマナーのなっていない女」だと言われる様になった。
マルク様と交流を深めていく内に分かったのはマルク様は婚約者の令嬢と仲は良かったけど、そこに愛は無いみたいだった。
聞いた限りではあくまでも将来共に国を治める仕事仲間って感じだ。
だから私はを本当に好きで堪らなくて心底から愛していると前面に出して彼に接した。
誰だって自分の事を好きな人を理由も無く嫌いにはなれない。
平民と違って貴族は自分の感情をそのまま表に出す様な事をしない。
思った事がそのまま相手に伝わると不利益になるからなんだって。
高位貴族なら尚更で、常に嫋やかな笑みを浮かべて接するのが美徳で当たり前だとか。
そんな当たり前の中に私みたいに表情で、態度で、言葉を使って全力で貴方が大好きですと表す女が現れたのは衝撃だったみたいで、最初は戸惑っていたマルク王子だったけど、次第に私に想いを返してくれるようになった。
ある日、公爵令嬢の取り巻きに呼び出されて「マルク様は令嬢の婚約者でこの国を担う存在なのだから近付くのを止めろ」と口々に指摘された。
言っている事は尤もだと思う。
でも、私は私の星を撃ち墜とすのだともう決めた。
態度を改める気は無かった。
偶々、令嬢達に囲まれているのをマルク様が見つけてくれたのでこれ幸いに涙を流して虐められたのだと縋ると「一人を寄ってたかって囲むのが真の令嬢のありかたなのか?この事は君達の家に抗議させてもらう」とマルク様は彼女達を叱り、私をその場から連れ出してくれた。
後から公爵令嬢がマルク様に「自分の為を思って行動してくれたのだから、責任は自分が取る。だから彼女達を咎めないで欲しい」と彼女達の弁明をしに来たらしいけど、それを彼はそれを公爵令嬢が取り巻きにやらせたと解釈したらしい。
「そんなに心根が曲がった人間だと知らなかった」と憤る彼に着実に計画が進んでいるのを実感した。
そして運命の日
「俺はお前との婚約を破棄して彼女と結婚をする!」
彼は学園の卒業パーティーで公爵令嬢を前に私の肩を抱いてそう宣言した。
婚約破棄を告げられた彼女は取り乱す様子も無く、淡々と「国王はその事を承知しているのですか?」「私達の婚約は国の為に結ばれた物だと理解しているのですか?」とマルク様を窘めるが、そんな彼女の様子に彼は不快そうに顔を顰めた。
「そうやって御託を並べて婚約破棄するのを止めようとしても無駄だ。俺は真実の愛を見つけたんだ。そして、その相手はここにいる彼女だ」
「左様でございますか」
「お前は彼女に嫉妬して取り巻きの令嬢を使い、危害を加えようとしていたな。その様な心根の曲がった者にこの国の行方を任せる訳にはいかぬ。国母には彼女の様な純真な心の持ち主が相応しい!」
「国の行く末を任せられないのは貴方の方です、兄上」
第二王子が現れて公爵令嬢の隣に立った。
彼は令嬢が私に危害を加えようとしたのは事実無根で、この様な事態を引き起こしたマルク王子に王としての素質無しと国王が判断され、廃嫡する事を声高に発表した。
そしてそのまま兄の婚約者だから諦めようとしていたと長年の公爵令嬢への想いを語って彼女に結婚を申し込み、公爵令嬢がそれを受けた事で会場は大盛り上がりになる。
人々の視線は新しく誕生したカップルに釘付けで、唐突に全てを失い呆然としているマルク様の事を認識している人は居なかった。
「そんな……こんな、こんなはずでは……」
二人を見つめながらそう呟くマルク様の傍にそっと寄り添い、丸くなった背に優しく手を添える。
ああ、やっとここまで墜ちてくれた。
廃嫡された彼は断種の為の薬を飲まされて王都から追放され、私も男爵家から追い出された。
憔悴して出会った時の星の様な輝きを失ったマルク様の手を引きながら私は生まれ育った故郷の村を目指す。
「マルク様、二人で幸せになりましょうね」
「どうして……なんで……」
焦点の合わない目でブツブツと呟くマルク様を見て私は心底からの幸福な笑みを浮かべた。
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