第四話
ーードガーン!!バキバキ!!ーー
「おい!!ゴナァァ!
テメーこんなもん売りやがって!!
返品だ!返品!!今すぐ出てこいっ!!」
眠りに落ちてどのぐらい経ったのか
何かを壊すような音と
男の人の怒鳴り声で目が覚める
時計がないため時間は定かではないが
部屋の窓から見える外が
薄暗いところをみると
まだ明け方といったところだろう
「……な、なに?」
恐る恐る部屋から出ると
眠そうな様子で
部屋から出てきたゴナがこちらに気付く
「ああ、お前も起きちまったか……」
「…な、なにごと?
怒鳴っているのは…お客様?」
「ああ…
あの声は最近よく剣を見に来ては
買いもせずに帰りやがってた若造だろう
昨日、ようやく買ってったかと思ったら…
チッ…朝っぱらからなんだってんだ」
ブツブツ言いながら面倒くさそうに
階下に降りていくゴナに付いていくと
そこには二階より酷い光景が広がっていた
男性客が怒りに任せて壊したのであろう
店の扉がバラバラになって散らばっているのは
予想の範疇だったが…
店内の様子は想像を遥かに超えている
ニ階と同様ゴミではない物…
おそらく商品…農具や武器、防具
それによく見ると鍋やフライパン…
木製と陶器の茶碗や湯のみ
陶器の食器類は
原型は留めているものの
アチコチひび割れや欠けているところも多い
購入者が使用するかどうか…
いや…購入者がいるかどうかすら怪しい…
それらが床がどこにあるのか分からない程に
乱雑に広がっていて
全て雪化粧ならぬホコリ化粧をしている…
(ちょっ…と…嘘でしょ?
…商品の扱いが雑過ぎるなんてもんじゃない…
いくらなんでもこれは酷すぎるわよ……)
店内のこの様子と先程の怒鳴り声
昨日買ったばかりという点から
購入したという剣に
何か問題があってのクレームだろう
通常考えられる対応としては
売った状態と現状の誤差
クレーム箇所と購入してからの使用方法
それら全部確認後、店側が悪ければ
謝罪をし同じ物があれば返品交換
無ければ返金
ただし、それは<普通だったら>の場合だ
今回の場合は…
商品管理のずさんさによるものからに間違いない
交換希望だったとしても
同様の物しかおそらく用意出来ないことから考えると
返金一択しか考えられない
同じ『商売』に携わっていた側からすると
この状況で店主であるゴナが
どんな対応をするのか
ある程度想像がついた
「お前…朝っぱらから人の店先で何騒いでんだ
あーあー…扉も壊しやがって…」
「やっと出てきやがったな!!
テメーこの剣呪いが掛かったままじゃねーか!!
おかげで魔物に噛まれて怪我するわ
治療占者にぼったくられるわ
討伐先をクビになるわ…
散々な目にあったじゃねーか!!
どうしてくれんだ!!」
そう怒りをあらわにする男性は
頭には包帯を巻き
服は上下ともにアチコチ破れ
腰に巻いているベルトも
魔物に襲われた際に引き千切られたのか
それとも食われたのか、明らかに短い…
そんなボロボロ格好の男性は
購入した剣をカウンターに叩き付けて
更にヒートアップしている
「はぁ…?んなもん、知らねーよ
俺はこの剣を売る時に言ったはずだぜ
扱いには気をつけろってな
それでも買ったのはお前じゃねーか
俺に怒んのはお門違いだと思うがな」
「ふざけんじゃねえ!!
呪いが掛かってる剣を売るやつが
どこにいやがるんだ!!
分かってたらこんな錆びた
汚ねぇの買ってねーよ!!」
「チッ……あーあーはいはい
そうだな、俺が悪かったんだな」
カウンターに置かれた剣を手に取り
鞘から抜いて剣の状態を見ながら
謝罪の言葉を述べるゴナの様子に
謝り方はともかくとしても……
この場ですぐに自分が引いて
非をスッと認められるところは
やはり商売人だと
次の一言を聞くまでは…思っていた
「お前の弱さを見抜けなかった俺が
悪かったんだな
あー悪かった悪かった!
ま、今までの客達は皆
一目で呪いを見抜いてたみてーだから?
まさか分かってねー野郎が
買うと思ってなかったんだけどな!」
「な…なんだとぉ!!
もういっぺん言ってみろコラァ!!」
顔を真っ赤にし青筋を浮かべながら
男性客はゴナの胸ぐらを掴み
今にも殴りかかりそうな勢いだ
考えるより先に身体が動き
思わず男性客をゴナから引き離す
「ちょっ…ちょっと!!
お、お待ちください!!
暴力は…!!」
「な、なんだアンタ…!」
「ラーヤ!!危ねーから出てくんな!」
「ここまで黙って聞いてたけど
さすがにもう黙ってらんない…
店側の落ち度は間違いないじゃない!
まずはきちんとお客様に謝罪すべきよ!」
今回の場合…
お客様に不利益な状況をもたらすかもしれない
リスクの重大さや深刻さ
それが分かっていて
ちゃんと説明しなかった店側に明らかに非がある
『日本版』で例えるなら
発火するかもしれない家電を
発火する可能性は話さないまま
これ使う時は扱いに気を付けてね♡
って販売後
案の定発火して火事になって火傷負って
病院かかったら膨大な治療費請求されて
仕事も失ってしまった
お客様からしたら
発火するかもってことが分かっていれば
絶対買うことはなかった
{この惨事の落とし前どうつけてくれんだ?あ?}
そう思うのはごく自然な感情だろう…
それに…
接客の基本はお客様に寄り添うこと
それを怠ったゴナのせいで
今目の前には傷付いたお客様がいる
(昨日の今日で
何も分かっていない私が出るべきじゃない
分かってるけど…こんなの…見過ごせないわ)
覚悟を決めて
姿勢を正し男性客の前に出た。