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イベント・春 (2025)

七つのふしぎが過ごす夜




「ベートーベンさんいるー?」

「いますよここに。最近どうです?花子さん」

 ここは夜の学校の音楽室。

 そこで花子さんとベートーベンが会話している。

 

「もー聞いてよ!小中一貫校に変わってからさあ!」

「変わりましたね。今年から」

「中学生がトイレで動画撮るのよ!」

「あー確かに今は中学生からスマホOKですね」

「人間の法でいう肖像権の侵害よ!」

 花子さんの我慢は限界を迎えていた。


「人間でいう頑張りすぎというやつですな」

 花子さんを真似てベートーベンは優しく答えた。

「頑張りすぎ?」

「ワタシたちは子どもを恟然(きょうぜん)させるためにいます」

「ええ。驚き怖がらせるのが妖怪の本位でしょ?」

「なら返事をしてそれっきりで、十分ですよ」

「そっか。怖がってくれればいいのよね」

 花子さんはベートーベンの案に納得して反芻する。

「はい。ワタシもピアノを弾くだけですよ」

「音楽室でピアノ弾いても音漏れるのかな?」

「防音と遮音と吸音がごっちゃになってますな」

 ベートーベンは花子さんの問いかけに言葉を返す。

「要はコンサートホールや収録スタジオと同じです」

 ベートーベンの最中、音楽室の扉が自動的に開く。


   ☆      ☆      ☆


「いたいた。そろそろ会合なんで呼びに来ました」

「あら魔の13階段さん。こんばんは」

「こんばんは。花子さん、ベートーベンさん」

 和気あいあいと挨拶を交わす。

「いい夜ですな。場所はどこでしたかな?」

「今日は保健室って聞いてます」

「ならいこっか。今日はいい夜だし」

 

 静かに扉が開く保健室に入ると水栓が流れた。

「こんばんは。いい夜ですな」

「こんばんはプールの怪さん。そっちは最近どう?」

「プール自体廃止の動きがありますね」

「え?泳ぎは?」

 花子さんは頭に浮かんだことをプールの怪に聞く。


「スイミングスクールで」

 プールの怪との会話で花子さんはがっかりした。

「まあプールの老朽化もありますから」

「あとは炎天下のコンクリートは危険ですし」

 花子さんが持つベートーベンとプールの怪が話す。

「白は熱を反射するからな」

「人体模型さん!今は保健室だっけ?」

「おう。保健室の隅で布をかぶせられてるぜ」

 シーツをポンチョ風に着た人体模型が話に加わる。

 

「炎天下のコンクリートは暑いからなあ」

「そうですね。紫外線や赤外線も反射しますし」

「白内障になっちまうな」

 保健室にいるからか人体模型は医学知識が増えた。


「防火用水としても今は消防車が進化したし」

「おかげで夏場は流れるプールや海に出稼ぎさ」

 

「みんな苦労してるのね……」

 花子さんが言葉をこぼす。

「時代は変化してきてますからな」

「昔は夜は暗かったのが今は明るいし」

「オレたちの役割は昔も今も一緒だぜ?」

 花子さんの胸に三者三様の言葉が響く。

「ありがとうみんな」

「して今回のお題は?」

 花子さんがお礼を言ったあとベートーベンが問う。

「まあだいたい片づいたし」

 魔の13階段がベートーベンに答えた。


   ☆      ★      ☆


「なんだよもう終わりかよ」

 人体模型が口を開く。


「まだなにかありますかな?」

「議論を深めようぜ!怖がらせるのにどうするとか」

 人体模型が意気を込めてベートーベンに告げる。

 

「面白い話をしているな。参加しても?」

 

 保健室の机の中から声がする。

「良いぜ。姿見せて参加しな」

 謎の声に人体模型が答えた。

 

「ありがたい。ならお言葉に甘えて」

 机の引き出しがガタガタと震えて開き始める。

 中にあった鬼のお面が宙に浮く。

 鬼のお面の目が光ると首から下があらわれた。


「なんだだれかと思えば。節分ぶりか?」

 空気が張り詰めていく中、人体模型が気軽に言う。

「そうだな。節分以来かな」

 ギロリと鬼は人体模型を見て答える。

「……意見って?」

 警戒した様子で花子さんは鬼に質問する。

 

「ようは子どもを怖がらせればいいのだろう?」

「だからそれで悩んでるんですよ」

 鬼の言葉に魔の13階段が答えた。

「簡単なことだよ。頭を使いたまえ」

 鬼は一笑し頭を人差し指でつついて話を続ける。

「今の時代は鬼とも仲良くしましょうだからね」

 鬼は少し遠い目をして過去に思いをはせた。


「昔は鬼ごっことかあったもんね」

「鬼成敗の童話もありましたね」

「それだけ身近だったんだろ?鬼が」

 花子さんと魔の13階段と人体模型が小声で話す。

「それはある意味いじめにもつながりますな」

「だからこそ鬼と仲良くといわれているのだよ」

 ベートーベンが話したところで鬼が口を開いた。

 

「節分では福は内鬼もうちとも言われている」

 鬼が口を開くたび、空気がピリピリしだす。

「だから俺が家に行く。それですむ。すべてな」

 

 それだけ言うと鬼はまた鬼のお面に戻る。

 ガタガタと震える引き出しの中へ帰っていった。


   ★      ☆      ★


 鬼が帰るとピリピリ感も消え、全員が一息つく。

 

「これでよかったのですかな?」

 ベートーベンはみんなに確認をとる。

「うーんどうだろう」

「節分で鬼はうちかあ」

 魔の13階段とプールの怪は言葉を濁す。

「節分で鬼は招くでしょ?絵本で見たことあるわ」

 花子さんが魔の13階段とプールの怪に告げる。

「そもそも節分とはなんでしょうか?」

 ベートーベンが身をのりだして尋ねた。

 

「豆まきですね」

 簡潔に魔の13階段が説明する。


「本来は鬼がまとう邪気を払う神事になります」

 その説明をプールの怪が補足する。

「そうなの?」

「魔を滅する豆で家内安全を願う伝統行事です」

「それならなんの目的で鬼を家に招きいれますか?」

 驚く花子さんとさらに問うベートーベン。

「いじめになるから招き入れるんだろな」

 魔の13階段が簡単に話す。

 それを聞いてベートーベンは悩み始める。

 

「人間と仲良くしようとして泣く鬼の童話もあるし」

 花子さんは空気を変えようと明るく話しかけた。

「そうだね、良い鬼も悪い鬼もいるってことだね」

「問題はあの鬼がどっちの鬼かですかな」


「えーとつまりこのままいくとどうなるの?」

 花子さんは話の重大さをようやく理解した。

 震える声でみんなに問いかける。

 

「まずは家庭内暴力や虐待がでてくるね」

 魔の13海岸が口火を切った。

「次は上京してそれっきりとか」

 プールの怪が続く。

「あとは結婚だけする仮面夫婦とかありえますな」

 ベートーベンがそれぞれ花子さに答えた。

「え?それだと子どもの数減る?」

「減りますな」

「それだとこの学校廃校になっちゃう?」

 花子さんはおろおろしはじめる。


「もう賽は投げられたんだ」

 どんと構えて人体模型は花子さんに話す。

「鬼が出るか蛇が出るかってね」

「あとは結果を御覧じろ、かな」

 人体模型の言葉にプールの怪が続く。

 

「学校が廃校になったら私たちどうするのよ!」

 花子さんの悲痛な叫びがこだまする。

 

   ★      ★      ★

 

「ねえ知ってる?新しい七不思議?」

「知ってる~保健室で響く悲痛な叫びでしょ?」

「大方手当てした子が騒いだだけだったりして」

 学生たちは新たな七不思議の話をしている。

 今日も昼の学校は平和な時間が流れていく。

 


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