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我求む、いつか誠実な恋愛を。  作者: メリーさん。
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能天気な友人を持つと安心する。

「これって脈ありだよな?」




そうムカつく顔で話すのは真田涼介。聞いている僕の顔は今、きっと酷いことになっているに違いない。




「昨日グループからTALKを送って、今日でもうランチデートの約束ができるってさすが俺じゃね?」




僕はというと、ふんふんそうだねなんて適当に相槌を打ちながら話を聞き流していた。




確かに涼介は、好みが別れる少し癖のある顔だけど男前と呼べなくはない。それを真っ向から褒めるのは気が引けるけど。入学式の頃に仲良くなった以来、ずっと遊んでいる自慢の友人だ。それにしてもランチとは、顔に似合わず意外と紳士的なんだなと少し見直した。




事件があった当日の記憶は僕と同じくあまり定かではないらしいが、ピンと来たという理由で、めぐみと同じ大学の友達である陰山瞳(かげやまひとみ)さんに連絡を取ったみたい。




……はて、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が。


僕としては、こいつはその隣の千鶴さんとの方がお似合いに見えたし、会話も弾んでいたように思う。僕の洞察力は当てにならないことは理解したよ。まあ、色々とお酒が混ざって構成されている記憶だ。きっと僕が記憶を無くしている間にでも仲良くなったんだろう。




根拠のない自信で雄弁に語る親友の姿を見て話しているだけで結構楽しかったりする。昨日のアルバイトのことであったり、友人には恵まれているように思う。その友人の一人に裏切られた僕だけど……。


まっ、目の前の涼介はそんなことを知らずに延々と話を続けている。




「講義が終わったら当日のデートに着ていく服を見に買い物でもいこうぜ」


ネガティブな思考に寄っていた僕だったが、涼介のまるで頭にお花でも咲いたような誘いについ笑ってしまった。




「てめえは女子かよ!ひとりで行けよ!」


「誰が女子だってんだ!そんな寂しいこと言うなよー。頼むからさあ。」




ついに泣きまねをも始めたこいつは、中庭での視線を独り占めにしている。簡単に言うと超目立っている状態だ。




「駅近くのショッピングモールにさあ、気になる服屋が出来たんだよぉ…。お願いだよー……」




まあ、今日は講義が比較的早く終わるし、帰ってもやることがないからついて行ってもいいんだけどね。お茶を濁して放置することにした。




その後も女々しい寂しがり屋の友人を適度にあしらいつつ、真面目に講義を受けた。彼女がいない身分というのは自由そうでいいもんだ。




ん?……あ、すっかりと失念していたが面倒くさいめぐみのことはどうしよう。さすがに放置するのも時間の無駄だと美鈴に釘を刺されたんだったな。


あと誠一に関しては今のところ会っていない。一応涼介にも聞いてみたが、特に連絡を取っていた訳ではなかったそうだ。学校にも来ずに何をしてるんだよってさ。




まあ、敢えてこちらから連絡を取る必要性を感じないし、仮に僕に連絡があったとしても無視でいいだろう。今必要なのはめぐみへの対処だ。これは出来ることなら早く手を打たないと余計に面倒臭そうなことになりそうだもんね。





そんな訳で、携帯の電源をオンにした。


…………案の定っていうか、メッセージの異常な数にため息が出る。大教室での講義は、やる気のない僕たちはいつも最後列に座っているが、そのおかげで周囲の人からの干渉もなくストレスフリーだ。途中から一切の音も聞こえなくなり、TALKのメッセージに集中できた。




流すように見ていく。




ちなみに着信履歴は一目見て見るのを辞めた。留守番電話にメッセージを残していたようだが、今は聞く気にもなれなくて一切を消した。


音声メッセージって、ゾワッとするでしょ?無機質なオペレーターの案内が終わると、音声が伝わるんだけど、どうしても僕は苦手だった。




事件当日の日付が突出して多い。


『今どこにいるの?』


『電話に出て下さい』


『お願いします』


『話を聞いて欲しい』




これらのテキストを見ても何も感じることはなかった。ただただ気持ち悪い。焦って単発的に打ったであろうメッセージが、時間が経てば情に訴えた文面に変わっていき、より一層内容の凝ったものに変化していく。


よくもまあそんなことをいけしゃあしゃあと。




『わたしはもう、ケイ君の隣にいてちゃあだめなのかな』


『もうすぐあなたと付き合ってから4年が経とうとしているね。これまでの日々、私は幸せだったよ。これからも一緒にいたい』


なんて書いているの。ほんの一部であり大きく割愛しているが、他にも色んなメッセージがあった。




まあその4年間を壊したのはてめえだろと。悲劇のヒロインぶるのはやめて欲しい。やはりこれらのメッセージは見てもめぐみに掛ける情というは湧かなかった。できることならもう連絡を取りたくもないかな。




恋愛をしていくにあたって最も大事な要素である“信頼”が欠如してしまうと、全てがダメになるんだと思うんだ。って、そんなことを語る僕だけど、めぐみの他に彼女はいたことないんだけどね…




さて、自分の中でキラキラと輝いていためぐみという人物は既に死んだ。今はもうこの世に存在しない。長い時間を過ごしてきたことに感謝はあれど、それは過去のめぐみに。




確かに4年という年月は長かった。恋愛なんてお互いに初心者だったし、不器用だった僕を引っ張ってくれためぐみの存在は大きかったのはある。




しかし、これからの僕の人生にめぐみという彼女は存在しないし、もう元には戻るつもりはない。これは確固とした想いであり、揺るぎはしない。




『別れよう』


そんなメッセージを入力しかけて止めた。


少し短すぎるか?できればもう顔を合わせて話をしたくない僕は少しだけ考える。




『あの時、すべてを見ていた。だから弁解は必要ない。めぐみに出会えたことに感謝はしているが、今、君のどれもが信用できない。信用ができない人とは一緒には居れない。だから、お別れにしよう。それじゃ』




ふう。まるで一仕事を終えたような気分になる。確かに送信されたメッセージを見てそんなことを考えていた。これであっさりと引き下がってくれればいいんだけどね。


そういえば、振られるよりも振る方が辛いなんてセリフを聞いたことがあるが、僕に取っては嘘だと思っている。まあ、人それぞれなんだろう。




隣を見れば友人である涼介が一生懸命に携帯を見ていた。気になって携帯を覗いてみると、【デート1回目 告白】なんてググっていたのだった。




何ともまあ気が早いことで。そんな自信がどこから湧いてくるのだと。


真剣に調べる彼の表情を見て、買い物くらい付き合ってあげるかと思い直し、そこからは少しだけ真面目に講義を受けたのだった。



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