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我求む、いつか誠実な恋愛を。  作者: メリーさん。
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友人「私が男なら目の前で吐いている」

「ねえ、カラオケルームでの出来事、何か憶えてる?」






ドキッ。


一瞬、私の心臓が跳ねた――





「ううん、私ったら爆睡してた!飲みすぎちゃったかも。ごめんね、でも楽しかったよー」




何とか波風が立たないような返しができたと思う。我ながらナイスだ。




大学のキャンパスで偶然すれ違った時に質問してきたのは同じ学部の桐生めぐみちゃん。


「昨日はありがとねー」なんて気軽に話しかけてきたかと思えば直ぐに本題に入った。


少しいつもと雰囲気が違う?ようだ。


化粧の仕方や服装に普段と異なる点は見当たらない。だけど、纏っているオーラというのか、本能的にイエスとは言ってはいけないような迫力があった。人懐っこそうな微笑みを私に向けてきているが、目元が笑っていないように見える。あまり積極的に絡んだことがないから、何となくそう思うだけ。




めぐみちゃんとは、二人で遊んだりはしないが、同じ学部に所属しているので当然顔は知っているし、共通の友達が何人もいる。それをきっかけで合コンにお招きしてもらった。




少し珍しい形ではあるが、めぐみちゃんとその彼氏である慶次さんが主催するという飲み会に参加することとなった。


何でもその慶次さんの友達である誠一という人が失恋したとのことで、ひどく落ち込んでいたそうな。それを励まそうと企画したみたいだ。私も特に彼氏はいないし、友達に誘われるがまま好奇心に釣られて参加した。




「本当?まあ確かにいっぱい寝てたもんね!それだけだよ!また今度一緒に遊ぼうねー!」




「了解!いつでも待ってるね!」




キラキラした笑顔で手を振り返すめぐみちゃんへ「じゃあまたね」と言って、お互いに背を向け次の講義へ歩みを進めていく。




少し安堵したような表情を見せた彼女とは裏腹に私は少し複雑な心境だった。




正直に言うと、あの夜のことは鮮明に憶えていたのだ。


もっと直接的な言い方をすると、今のめぐみちゃんが、カラオケルームで自分の彼氏でない男と絡み合っているところを私は目撃している――





さて、どうするか?流石に気が重くなる。




彼氏である慶次さんは凄くいい人だった。何よりめぐみちゃんのことを優先してあげていて、参加した皆が沈黙になったり孤独を感じたりしないように気配りする姿勢は凄く好感が持てたし、良い彼氏をもてて本人も幸せだろうなと、私はその席で思ってすらいたのだ。




だけどどうしてだろう。


お店の人の小さいミスがあって、慶次さんがめぐみちゃんに怒られるシーンがあった。配膳ミスだったか注文ミスだったのか上手く思い出せないが、自分の注文が滞ってしまったようだ。私が知る限り彼に何の落ち度もなかったし、理不尽に怒る彼女を見て、私はこれ以上仲良くできないかな、なんて考えていたんだ。




だけど怒られても、変わらない穏やかな笑みでニコニコと話す彼を見て、興味が沸いた。


一体どれほどの理不尽な経験を積み重ねて、この人はこんなに優しくなれたんだろう。そんな興味だった。




少なくとも私の知っている限りだが、いくら彼氏彼女の関係であっても、小さなことでムッとしたり声を荒げたりすることもあって、それが普通なのかと思っていた。


だけどこの人は根っからが優しいというのか、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()




あの思い出すのも(はばか)られる場面でもそうだった――


私たちが二次会としてカラオケルームに移動した際、恥ずかしながら私も慣れないお酒を飲んだせいでウトウトしてしまい、他のメンバーと同様に寝落ちしてしまった。




目を覚ましたのはちょうど、めぐみちゃんとその彼氏ではなく、友達の誠一という人が絡み合っているシーンだった。


私はというと、何を見ているのか信じられなかったし、あまりの光景に声を失っていた。




彼氏である慶次さんは私たちと同じように寝ていて、二人が絡み合う光景は見ていないと思っていた。


このままじゃマズいと、何かしらのアクションを起こさなければと焦った。だけど、方法が思いつかない………。




悶々と時間が過ぎていくだけで、どんどんと大胆な行為を続ける二人だった。


そんな時、唐突に彼氏である慶次さんがバッと起き上がった。自らの荷物を手早くまとめ、恐らく一人分であろう現金を机に置き二人や他には目もくれず出口に向かった。


流れるような動きに、私は悟った。きっとすべてを見ていたんだろう。薄暗くてあまり表情を窺うことができなかったが、一瞬モニターで映し出されている映像が変わって表情が見えた。




無だったのだ。あれほどニコニコと優しい笑みを浮かべていた慶次さんは瞳に何も宿していなかった。怒りの感情は、相変わらず存在していないかのようだったが、むしろ怒りを通り越したかのように冷たい目であった。




それからというと、事情を知っている私にとってはとんでもないカオスであった。


めぐみちゃんはというと、あたふたと彼を追おうとしていたし、誠一という人は意味もなく頭を抱えて部屋を右往左往している。


起き出す人もちらほら出てきて、今の状況をお互いに(たず)ねている。私もそのタイミングで起きることにしたのだった。




めぐみちゃんはその後、姿が見えなくなった慶次さんを何とか引き止めようとしていて、携帯にずっと電話を掛けている状況が続き、その横で挙動不審な動きをしている誠一という人を相手にしている暇はないようだ。




ああ、勿論誠一という人も、もう一人の友人である涼介さんに事情を聞かれていたが、わからない、俺に聞かないでくれと何とも微妙な対応だった。




流石に周りの皆も慶次さんとこの二人が何かあったんだと疑うというか、悟っていたんだと思う。私のようにこの場面の一部始終を見ている人は他にいないと思うが。





ハア・・・


同じく参加していた友達である千鶴(ちづる)は今日は二日酔いみたいで講義には出れていない。彼女の成績的には問題ないのだろうが。




私ひとり、とんでもない爆弾を抱えてしまっている状況で、迂闊に彼女の不貞を公にすることはできないだろう。


頼りになるはずの千鶴は私の(がわ)なのかめぐみちゃんの(がわ)なのかハッキリしない。




控え目に吐き出す。


きっついぜあのクソ女。私が男なら目の前で吐いているところだ。




自慢の彼氏と言っても問題ないだろう。それなりに頭のいい大学に通い、容姿も整っていて性格に問題もない。むしろ人当たりが良く友達思いのいい男の子だと思う。それにめぐみちゃんとは昔からの付き合いとも聞いたことがあった。なのに彼氏の目の前で他の男と浮気とかふざけてるな。




私が憤りを感じても仕方がないのかもしれないが、あの優しくニコニコとしていた慶次さんの去り際の誰も寄せ付けないような表情がどうしても頭から離れなかった――




ピコン。


唐突に携帯の通知が鳴った。




『昨日はお疲れ様。またよければご飯でも!』


真田涼介。慶次さんの友達で昨日の男の子側のもう一人が涼介くんだ。


そういえば一次会の後半に皆で盛り上がってSNSのグループを作ったんだっけ。


ということは、全員分の連絡先がある状況か。




『お疲れでした〜。ぜひ行きましょう!』


あまり絡んだ時の印象はないが、もう少し情報が欲しかったので、ランチの約束をして次の講義に向かう。


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