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我求む、いつか誠実な恋愛を。  作者: メリーさん。
19/30

どうかありのままを。

「あー、やっぱり早すぎたか・・・」




待ち合わせ場所には、未だ目的の人物はいない。


それもそう。俺自身逸る気持ちがあったのか、待ち合わせした時間にちょうど来るということが出来なかったんだ。


これでも少し遠回りをして辿り着いたんだけど、それでも時間的には早すぎた。




時間まで何をしよっか。


とりあえず近くの喫煙スペースでも行くか?・・・いや、そんな気分にもならない。この後の予定を考えると、気持ちを整理したいのは山々なんだけどな。




この後、これまで慶次と3人でよく遊んでいた安本誠一(やすもとせいいち)に懐いていた、大原茜(おおはらあかね)と直接話し合いを行うんだ。誠一自身が引き起こした事、そして俺や慶次の決断を聞いてもらう。




だけども本当に彼女に話す必要性があるのか?非常に悩んだ。




誠一に懐いていた彼女に、自分はどんな顔をして事の経緯を説明しないといけないんだ・・・?




()()()()()()()()()()()()行動は忌避されるべきだし、願わくばそんな火中に率先して飛び込むような真似は御免こうむる。




ならば別に、敢えてそんな話をしなくてもいいんじゃないか。


損な役回りなど率先して引き受ける理由はあるのか?


こんな風に 楽な方に、楽な方にと考えが揺れてしまった。




悩みに悩んだが、彼女にこそ伝えるべきだと最終的に判断したんだ。


どうしても彼女には、俺、真田涼介(さなだりょうすけ)が伝えなければならないと感じた。




結果嫌われたっていい。いや、嫌われて当然だろうな。


そうなったとしても、俺が何を優先するのか。それだけは履き違えてはいけないんだ。




鉄は熱いうちに打てという。


茜ちゃんへの連絡は昨晩に行った。掛けたのは夜も遅い時間。もしアルバイトだったとしても勤務後ぐらいといった時間帯で、運良く俺の電話に一回で出てくれた。




電話越しに聞こえる彼女の声はいつものように明るくて、その声を聞くと思わず動揺してしまったんだ。


女々しいと笑われるだろうか。決意を固めたように思ったはずが、何とも形容しがたい感情が自分の中を渦巻き上手く言葉が出ない。


しどろもどろになる中、彼女が助け舟を出すように俺の言葉を遮るように告げたんだ。




『あの、涼介先輩。私からもそのことでお伝えしたいことがあったんです。もしよろしければ、明日にでも直接会ってお話しませんか?』




決心したような声色で、ハッキリと俺に伝えてきた。


誠一と何かあったのか?そう察するが明日に聞けばいい。


既に何かを決断したような言葉に、自分との差を恥じた。覚悟が出来ていないのは俺の方だと。




だがそのおかげで、もはや伝える以外に選択肢がないことで自分もようやく迷いを断ち切れた。




「情けないな、俺は・・・」


ボソッと口から漏れ出す。覚悟を決めたってのに無様に動揺しちまって。


情けない自分の状態を思い出すと嫌気が指す。


ぐしゃぐしゃっと髪の毛をかきむしってから頬をバチンと強く叩いた。


―—今はもう大丈夫。自分にそう言い聞かす。





改めて時計を確認すると、約束していた時間まであと10分程度となっており、遠くの方から見慣れたシルエットが近づいてきたんだ。




「こんにちは!涼介先輩早いですねー!もしかして待たせちゃいました?」


人懐っこい笑みを浮かべながら最後は小走りで目の前までやってきた。天真爛漫な振る舞いは、とても好感が持てる。




上は黒いロングTシャツを着用。下はデニム地の短パンで、白い脚がスラリと伸びている。スタイルの良さが際立つコーディネートに不覚にも少し胸がドキッとする。




「ううん、あんまりやることがなくって早く着いちゃったんだよね。茜ちゃんこそ早めに来てくれたみたいで助かったよ」




「ふふっ、それならナイス私ですね」


茶目っ気たっぷりの表情で笑いかけてくる。誠一は居らずともご機嫌のようで安堵する。




「そうなんだよ、ありがとう。じゃあ移動しよっか」




向かった先はこれまで自分が何度も通ってきた近くの喫茶店。奥のテーブル席へ移動し、お互いにドリンクを注文した。




「わざわざこっちまで出てきてくれてありがとうね」


大学構内ではさすがに話すような内容では無かった為、どちらかの地元付近でという話となった。


比較的近所であったので、『私が先輩の最寄り駅までいきますね』という言葉に甘えて来てもらった訳である。




「意外と近所でしたし、そもそも定期券の範囲内ですし全然大丈夫ですよ」


そう、彼女は大学からの帰り道であった訳だ。


それならと言うことでお願いした。




店のスタッフがふたり分のドリンクを持ってきた。コーヒーとミルクティー、どちらも冷たい方だ。暦上は秋に入ったと言うが、まだまだ暑い日が続いているからね。




「それじゃあ昨日の話の続きをしていいかな」




お互いに出されたドリンクを一口飲んだあと、こちらの方から話を切り出す。




「はい、誠一先輩の話ですね」




「そう」




先ほどまで他愛ない話をしてのんびりとした雰囲気が、途端に肌を刺すようなピリッとした空気に変わった。




「涼介先輩からのお話の前に、先に私からお伝えすべきことがあります」




しっかりと俺の目を見つめ、そして力強いトーンで話す姿は、確かな決意を感じさせる。このように真剣な表情はあまり学校では見たことがない。




「わかった、続けて欲しい」




「ありがとうございます。では・・・」




「これから涼介先輩にお話していただく内容は、先日の慶次先輩が企画された合コンでのお話ですね?




・・・実は私、昨日涼介先輩からいただいたお電話の前に、誠一先輩から直接話を聞いていたんです。


と言っても先輩が一方的に話をしていたって感じですけど・・・。




それで、私としては誠一先輩の事を一切擁護するつもりはありません。ただ真実を知りたくってですね。どうか私の事に気を遣わずにありのままお話いただきたいんです」




素直に驚いた。


まず誠一が茜ちゃんに話をした事もそうだし、そして茜ちゃんは誠一の擁護を一切しないという事に。




元々茜ちゃんが誠一に恋というか憧れの感情を持っていることは明白だったし、茜ちゃん本人もそれを認めていたのだから。




だからこそ俺は伝える事を躊躇っていたのだ。


それでも伝えるということを選んだのは、学校で俺たちと仲良くしていた茜ちゃんの知らないところで、いきなり俺たちが誠一と縁を切っていたなんて真似はできないと考えた訳だ。




・・・にしても誠一のやつ、彼女の自分に対する好意を少なからず気付いてたんじゃねえのか?


どんな言葉でそれを伝えたんだ?


気になる事が多すぎるな。




「ちなみに、アイツ話しているときはどんな感じだった?」




「んー、言い訳と悪態ばかりでしたかね」




「そっか・・・」




笑顔を見せる彼女の頬に突如一筋の涙がスッと落ち―—




「全く、私が誠一先輩の事を想っていたのが馬鹿らしいと思いませんか?」




それでも努めて明るくそう言って笑う彼女は、一体どんなに悔しいのだろうか。




「・・・」




流れ落ちる涙を拭おうともせずこちらに向き合う彼女に向ける言葉が見当たらなかった。


一途に想う事が馬鹿な訳ないだろう。それでも自信を馬鹿だと思わせるような行動を働いた誠一にはやはり憤りを感じる。





尤も誰がその事実を伝えるのかは別にして、彼女の心に傷を付けてしまうということは当然覚悟していた事だ。




最終的にどうするか?それを判断するのは茜ちゃんになるのだが、怒りの矛先は一部でも良いから俺に向けばと勝手ながら思っていた。


耳を塞ぎたくなるような話だ。わざわざこんな話を聞くというのは酷だと思うし。




だからこそそんな役目は自分がすべきだと判断したんだけど。




誠一のやり方はどうだ。


自分が如何に可哀想な存在なのかただ伝えたかったのか?まるで意味が分からない。


いつも肯定的に話を受け入れてくれる茜ちゃんに乱暴に吐き出しただけだろ。いつだって無条件に、お前の味方だと思っていたのか?




やはりそんなアイツの本質を見抜けなかった俺たちにも非があったと感じる。


慶次も目の前の茜ちゃんも、傷付くことは無かったんじゃないか。今となってはそう思う。




「あいつのそういった性格については俺たちも気付くことが出来なくって・・・。知らなかったとは言え、結果的に酷く苦しい思いをさせてしまって申し訳ない」




この大学生活でともに過ごしてきた中で、一体俺たちは彼の何を知っていたんだと。


もはや知らなかったでは済まされないレベルの綻びがこの短期間で多く起こっている。





「先輩が謝る必要はありませんよ。私の方が今まで()()()()()()()事でしたから」




「目を背けてきたって?」




「はい、誠一先輩の手癖の悪さは知っていましたから」




「まじか・・・」


またも言葉を失う。




それでも誠一に寄り添ってきた彼女の気持ちは一体・・・




とにかく、当初の目的は忘れないように改めて気を引き締めよう。




「正直驚きというか困惑しているんだけど・・・。その時に何が起こったのか、そして今後の俺たちについてをありのままに伝えたいと思う。


それでも、あまり気持ちの良い話ではないからさ。嫌だと思ったら遠慮なく言って欲しい」




「わかりました」




「OK。じゃあ話していくね」




そうして、当初の想定とはまるで異なり、まるで答え合わせをするかのような話し合いが始まったのである。

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