命賭の勇者
目の前が真っ暗になった。
死んだのかと思ったが違った。
突然、眩しくなり変な場所に放りだされた。
いや、やっぱり死んだのかもしれない。
それか夢か。
しかも、いきなりいかれたコスプレ女に睨まれた。
ファンタジーゲームのヒロインなみに派手で綺麗な服を着ていた。
20歳くらいか。
「命賭の勇者」
やばそうな女はおれにそう言った。
正確に言えば脳内にその言葉響いた。
確かに俺はギャンブルが好きな男だ。
なぜかはわからないが、あの高揚する感じがたまらなかった。
とはいえ、命を賭ける勇者というのは皮肉が過ぎないか?
女は急激に顔色を悪くしていった。
下手なホラーゲームかよ。
それでも振り絞るように俺に向かって叫んだ。
腕を犠牲にして杖をだせと。
意味が分からなかった。
女はそのまま気を失った。
駆け寄ってきていた父親らしき男が体を抱きかかえた。
なぜかはわからないが、忘れたいはずの娘のことを思い出した。
俺は20歳ときの結婚した。
そして娘が生まれた。
ギャンブルはやめられなかった。
この小さな命を大切にしないといけないと、わかっていた。
そう頭ではわかっていた。
だけど、体が勝手に動くのだ。
2歳の時に離婚した。
愚かだとわかっていた。
だけど変われなかった。
それから20年余りがたち、1通の手紙が届いた。
娘からだった。
20年あっていない娘からの手紙だった。
結婚する。
会いたいと。
結婚式に出席して、ともに歩いてほしいと。
理解できなかった。
ちょっとうれしかった。
同時に恐ろしかった。
俺はあの頃と何一つ変わっていなかった。
唯一の友人に相談した。
同じ町に生まれ、ずっと友達だった。
見捨てないでずっと友達でいてくれた不思議な奴だった。
50万円くれた。
祝儀としてわたしてやれと。
それでも足りないが、それくらいあればかっこはつくだろと。
そしてよかったなと、おめでとうと。
友情というものは不思議でしかたない。
なぜ俺のような人間を信じて、そして大切にするのだろうか。
頭ではわかっていた。
言われた通りにするべきだと。
頭では明確にわかっている。
だけど違うんだ、体が勝手に動くのだ。
今向かっている場所が最も場違いな場であると、適さない場であると知っている。
それでも体が勝手に動いた。
俺は、金も友も家族もすべてを失った。
綺麗なドレスを着た娘を支え歩く、そんな未来があったのだろうか。
目の前の親子のように俺にも、、、、
「ふざけんな」
呟いた。
目の前の幸せ親子に腹が立った。
しかも腕を差し出せだと。
腕をそんな簡単に、しかも変な杖のために捨てられるか。
こんなにも大切なものを、、、
一度失ったら二度と返ってこないんだぞ。
そんな馬鹿な話があるかよ、、、
だけど体が先に動いた。
何をしているのかわからなかった。
(表と裏どちらを選択しますか?)
目の前に選択肢が浮かぶ。
腕は2本ある、だから2分の1で成功するわけだ。
無意識にすべてを理解し、直感で(表)を選んだ。
左腕が破裂する。
初動は痛いではなく、熱かった。
杖が俺の残骸の上に現れた。
俺の勝ちだ。
この高揚感やっぱりやめられないよな。
すべてを失っても、俺の体が意思を貫く。
痛みは最高潮、高揚感につつまれ気を失った。