第六話 VS王子
「よーし!それじゃあまずローズ君の番ね。この木刀を持って」
「ふん。メッタメタにしてやるよ」
大体サッカーコート程の中庭で私達は木刀を構える。城の裏にある庭園はもっと広くて戦うにはうってつけなのだがメイドさん達が頑張って育てた花に被害が及びそうなので止めておいた。もし花に何かあったらメイドさんに殺されてしまう。
「どちらかの木刀が相手に当たった瞬間終わりです。それでは行きます………レディー、ファイト!」
ベリー君の合図で模擬戦が始まる。先ずはロクに何も教わっていない王子はどう戦うのか確かめたい。
「うおぉぉぉ!!!喰らえぇぇえ!!!」
彼は木刀を頭上に持ち、そのままこちらへ向かってくる。そして飛び上がりながら剣を私の頭部目掛けて振り下ろす。
ガンっ!
「なに!?」
「ふっふっふ。詰めが甘いよローズちゃん」
当然子供の単純な攻撃等油断してても受け止められる。私は木刀を弾き返し、ローズは体勢を崩して木刀と一緒に吹き飛ばされる。
「お…大人気ない…」
ややベリー君が引いているがそんな事お構い無しに試合は続行される。ローズ君は直ぐに立ち上がり、再びこっちに走ってくる。
先程とは違い刀を下に持ち、しっかりと私を見定めている。しかし所詮初心者。私に敵う筈もない。
ガンっ!
難無く彼の刀を受け止める。ローズ君の悔しそうな顔を見てると何だか罪悪感まで感じてしまう。流石に大人気無かったか?
「……おい、なに勝った気で居るんだ?」
む、ローズ君の雰囲気が変わる。これはもしやガチ切れしてるのか?ここはわざと負けるのも……
「俺の本気を…見やがれ!」
「うっ!?」
次の瞬間、私の刀が弾かれる。今まで私の方がローズ君の刀を力で抑えていたのだが、彼の力は急に強くなり大人の私が力比べで負けてしまった。女性の私どころか一般男性よりも強いんじゃ!?
私は弾かれた事によってバランスを失い、数歩を後ろに下がる。その隙をローズ君は見逃さなかった。
「いっけぇえぇぇえ!!!」
彼は私の腹部に刀で攻撃しようとするが何とか刀で防ぐ。ローズ君は一歩引き、刀を滅茶苦茶に振る。剣を振る速度が尋常じゃなく早い!
しかも一発一発の威力もある為訓練された騎士の私でさえ防ぐのにはかなりの苦労を強いられる。
「この調子で行けばローズが勝ちます!アリスさんは反撃する事が出来るか!?」
期待の眼差しでベリー君が私を見る。正直勝てるかどうか自信が無い。だがここでまた私の評価を下げる訳には行かない!
深呼吸して彼の動きを冷静に観察する。早くて捉えるので必死だがよくよく見るとかなりワンパターンな動きだ。上、中、下をかわりばんこに攻撃してるのだ。
「見切った!」
「な…!?」
彼が中段に攻撃した時、私は刀を受け流しローズ君の懐に入る。後はこの木刀でローズ君に触れるだけだ!
「そう簡単に負けるかよ!」
触れようとした瞬間にローズ君は空へ飛び上がる。常人とは思えぬ脚力のせいで触れる事すら叶わず彼は2m先に着地する。
「中々やるね。戦いにおいて正に天才だよ!」
「だろ?さぁて、仕切り直しだ!」
ベリー君は手に汗を握りながらこの戦いを観戦している。まさか互角の勝負になるとは思ってもみなかっただろう。
暫くローズ君との睨み合いが続く。彼はことごとく動きが読まれてる為動けないのだろう。それなら私から行く!
「君に私の攻撃が防げるかな!?」
ローズ君の周りを囲む様に走る。彼は見た事の無い戦い方に動揺し、段々小さくなっていく輪に焦りも生じていた。
(普通はこんな戦法を取るのは馬鹿げている。だけどもローズ君にはきっと効果がある。彼はせっかちだから段々耐え切れなくなって攻撃してくる筈。そこが隙となる!)
私の思惑通りどうやらいつ何処から攻撃されるか分からない事に苛立ちを覚え始めている。彼は木刀を強く握り締め、今にも襲いかかって来そうだ。
ベリー君はどうやら私の作戦に気付いた様で、彼も固唾を飲んでこちらを見ている。
「ああああぁぁぁぁああ!!!!もうめんどくせぇ!」
やはり彼は耐え切れず向かって来た。初心者にカウンターするのなんて卵かけご飯を作るのよりも簡単な事だ。突撃してくるローズ君を見て私は勝利を確信した。
ローズ君はどんどん近付いて来る。私は彼に悟られないようこっそりとカウンターの構えに入る。
遂に彼はもう剣先が届く程近くに来た。もうそろそろ攻撃してくる頃合いの筈だが………一向に剣を振る素振りを見せない。
もうほぼ接触状態の様になった時、私は耐え切れず剣を振り下ろす。すると…
ガンっ!
「う、防がれた!?」
「俺が我慢出来ずに突撃した時、あんたは勝ち誇った様な顔をしていた。そこであんたがカウンターを狙っている事が分かったんだ」
まずい、彼の方が私より力がある。よってこの剣の押し合いは私の方が不利だ。どうする?何か策は……
「うおぉぉぉ!!!」
どんどん押されていく。私は一か八かあの作戦を取る事にした。
「えぇい!」
「は!?」
私は思いっきり後ろへ倒れる事で、この押し合いを回避する。そして勢いを殺しきれずよろけたローズ君を俵返の用量で後ろへ飛ばす。
目を回して地面に倒れたローズ君の元へ行く。そして彼の方を木刀で触れる。
「私の勝ちだね」
「く、クソっ!まさか俺が負けるなんて…」
彼は悔しがっているがこれでも十分過ぎるほど良く戦った。もし彼が少しでも剣術を習い始めたら私なんて一瞬で追い抜かれてしまうだろう。やはり彼は天才だ。
パチパチパチ!!!
倒れたローズ君の手を取って立ち上がるのを手伝っていると、周りから拍手される。
そこには何だか騒がしい中庭を見に来た執事さん達とメイドさん達が涙を流して立っていた。
「うぅ……まさかローズお坊っちゃまがこんなに戦いの才能があったとは…」
「凄いです!感動しました!」
「今まできかん坊で何にも興味を示さなかった坊っちゃまがここまで出来る子だったとは…」
メイドさん達は一瞬にしてローズ君を取り囲み、それぞれ何かを口走っている。ローズ君は中心部分でベリー君に助けを求めるがベリー君はただ微笑みその光景を見ていた。
私もたまには褒めてやろうとメイドさん達に混ざろうとした時、廊下に見知った人物が立っている事に気が付く。
私は皆を放って彼の元へ歩く。
「…どうしてあなたがここに居るの」
「やァ、久しぶり。魔法使いは何処にでも現れるノサ」