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私と婚約者 1

『子供の頃に出した手紙にも書いたけど、初めて会った時から僕はクロエのことが好きだった。そして今でも会うたびにその気持ちは増すばかりなんだ。


クロエが僕と同じ気持ちだと知り、将来僕の妻になって毎日一緒にいてくれるんだと決まってからは辛い勉強もいっそう頑張れたし、苦しみを乗り越えようと思えた。


父上の裏切りを知った時も、母上とセイディを亡くした時も、君がいてくれたから僕はなんとか挫けずにこうしていられる。僕達は大切な人の死から完全に立ち直ったわけじゃないけれど、母上もセイディもいつまでも嘆いていないで前を向いてと言うだろう。


忘れるわけじゃない。忘れられない大切な人の分も前を向いて君と一緒に生きていきたいんだ。


愛している、クロエ。君は僕の光。僕の唯一の人だ。


クロエ=ノースフィールド嬢、あの日交わした約束通り、君が十八になる年にはどうか私、ルーカス=ヴェルナーと結婚してください』


「うわーーーーっ! うわわ、うわーーーーっ!」


 何度思い返してもあれが本当に本気で現実に私の身に起こったことだなんて信じられない。嬉しいけど恥ずかしい。恥ずかしくて信じられない。けど嬉しい。でも嬉しすぎてどうしていいのかわからない。


 夢かもしれないと思う。まるでセイディがそこにいて、嬉しそうに笑って祝福をくれたような気がしたことまで含めて全部。


 でもあれは夢なんかじゃない。


 本気で本当にあった事だという証拠があるんだから夢であったはずがない。


 セイディの笑顔が見えたと思ったのは、私が思い出すセイディの笑顔はいつも嬉しそうに笑ったあの時の笑顔だというだけなんだ。


 私、クロエ=ノースフィールドは昨晩から何度目になるかもわからない奇声をあげた後、再度あの光景が夢でも妄想でもなかったことを確かめるべく左手の薬指を飾る美しい指輪(証し)を見つめた。


 するとそこへ最近雇われたというメイドが慌てた様子でドアを開け、焦った顔で言った。


「どうかなさったんですかお嬢様!」


「……大丈夫ですよ。今日のお嬢様は少しおかしいんです。だから気にせず貴女は仕事に戻りなさい」


 そうメイドに声をかけたのは辺境の領地から王都の屋敷へついてきてくれた私付きのメイドのマリーだ。


「申し訳ございません、叫び声が聞こえてお嬢様の身に何かあったのではと思い勝手に扉を開けてしまいました。失礼いたします」


「いいのよ、驚かせてしまってごめんなさいね」


 本当に申し訳ない。扉の外まで聞こえるくらいの大声を出した私が悪いのだ。

 まだ年若いメイドが恐縮しながら出ていくとマリーが呆れた声で言った。


「お嬢様、おしゃべりなメイドたちが”うちのお嬢様は大丈夫なんだろうか? 辺境伯家の令嬢として、何れは公爵夫人になられるというのにあれでは先が心配だ”などと言い出さないうちに淑女らしい姿を取り戻してください。王都は辺境とは違うんですよ。万が一にも、お嬢様の評判が落ちるようなことがあればわたくしも教育係としてお館様や奥方様はもとより嫁ぎ先の公爵家の方々にも申し訳が立ちません」


「ごめんね、マリー。でも、仕方ないと思うの。だって私、ルーカス様にあんな……あんな……」


 何度思い返しても、昨日のルーカス様はとても素敵でとても優しくてとてもとても恰好よかった。


「お二人は何年も前から婚約しておいでで、毎週のように手紙のやり取りをし、お会いになった際にはいつも片時も離れずに過ごしてらしたじゃないですか。今更なにをそんなに大騒ぎされる必要があるのです?」


 マリーは心底わからないとばかりに首を傾げている。


「プロポーズよ! ルーカス様は昨日私にとても素敵なやり方でプロポーズしてくださったの!! 初めてルーカス様にお会いした公爵家の美しい庭園で、こうして跪いて私の手を取り、この美しい指輪を持って! これが大騒ぎしないでいられるわけないわ!」


「……その話は昨日から何度も伺いましたけれど、だからと言ってそこまで……?」


「昨日のルーカス様はいつにもまして本当に素敵だったの。まさかあんなふうに、物語に出てくる王子様のように結婚してほしいと言ってくださるなんて。私たちの婚約は家同士が認めた正式なもので婚約式の時にも結婚の意思を確認しあってるんだから、あんなふうに言葉と態度で改めて結婚しようと言ってくださるなんて思ってもみない出来事だったから嬉しくて」


「さようですか」


 そうなの。ルーカス様はとっても素敵だったの。だからね、思い出すたびにうわーーーってなるの、これは仕方ないことなのよ。

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