覚醒した悪役令嬢カレンの暗躍 3
花蓮がこの物語に強く引き込まれたのは、何もヒーローとヒロインの活躍や恋物語に共感したからではない。ヒーローとヒロインはいわば添え物だった。
花蓮は二人の恋の当て馬役となる辺境の騎士ノア=バートンに惹かれた。
必要とあらば数多の女性を口説き、時に冷徹に辺境伯家の騎士としての任務を熟すノアが時折見せる人としての優しさは、花蓮が思いを寄せる男性を思い起こさせるところがあった。
また、サラに対するノアの恋は実らずに散る。それがまた花蓮の心をぎゅっとさせた。
”私だったら、第二王子じゃなくて絶対にノアを選ぶのにな”
しかも花蓮の気持ちはそれだけに留まらなかった。
”というか、このヒロインってなんだか好きになれないところが多いんだよね。どうしてノアはヒロインの事なんて好きになったのだろう? ノアとヒロインのサラってあまりお似合いに見えないんだけど。
ヒロインはこの優柔不断でどこか傲慢なところのある第二王子とお似合いだと思う。
だってサラ自身が天真爛漫で正義感が強いとか言うと聞こえがいいけれど、なんだかただの自己中心的思考のお子様に見えるし”
本を貸してくれた友人には悪いと思って言わずにいたが、花蓮は物語の花形であるヒロインとヒーローのことが好きではなかった。
もっとノアの出番が多かったら、なんならノアが主人公なら良かったのにとすら思っていたのだ。
”ノアにはもっと相応しい人がいると思う。ヒロインとなんて結ばれなくて正解。彼に似合う素敵な女性が出てくる話を読みたいんだけど、叶わぬ夢なのかな。作者がノアを主人公にして続きを書いてくれたらいいのに。いやそれより、ノアがヒロインを好きにならないバージョンがあったらよかったのにな”
というようなことを願っていた日々のことがまず思い出された。
それから、同時に通学途中の道端で突進してくる車から小学生の子供を庇って跳ねられた記憶が蘇り、前世の花蓮の死を悟った。
そして、気づけば自分が「ただ一人の君へ~僕だけのプリンセス~」の中で第二王子に婚約破棄され、父親の悪事を暴かれたのちに親子ともども処刑される悪役令嬢カレン=バーンスタインとして新たな生を受けたのだということを理解したのだった。
頭を打って眠っている間も目覚めてからの幾日かも、これらの情報が波のように小さなカレンの脳に押し寄せたかと思うと混ざりあい、反発し、荒れ狂っていた。