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劉安の妻

作者: 胡姫

女は後世に名の残る男の妻になりたいと思っていた。

縁談が来た時、女が卜者を呼んで占わせると、「この男の名は後世に残る」と卜者は答えた。男の名は劉安といった。劉安は善良さだけが取り柄の愚直な猟師だったが、女は占いを信じ劉安に嫁した。

夫は善良な男だった。何でも人に分け与えてしまうため家は常に貧乏だった。うちつづく戦乱に凶作が重なり、夫婦の暮らしは苦しくなる一方だった。それでも夫の善良さを英雄の器と信じ、女は待った。いつか名を上げる日を待ちながら月日は流れた。

山中で猟をして生計を立てる夫婦の小屋に、ある日、一人の男が流れてきた。下邳かひから来たというその男は、破衣をまとっていたが見るからに貴相をしていた。彼を見て夫は驚きの声を上げた。呂布に追われてきた劉備玄徳という男だった。かねてより夫がその名を敬慕していたことを女も知っていた。

夫はもてなしをしたいと熱望したが、たまたま不猟の日が続き、家には獣肉がなかった。

劉安は善良すぎるほど善良な男だった。その善良さは女の想像をはるかに超えていた。

劉安は妻を殺し、狼と偽って彼女の肉を劉備の食卓に出した。


妻の肉を切り、料理し、劉備玄徳を饗応する夫の目には善意しかなかった。女は霊魂になった目で、己の腕が切り取られて料理されるさまを見ていた。男は持てるものを惜しみなく人に供する男だった。妻も例外ではなかった。

女は卜者の言葉の意味を悟った。女は供され、劉備の肉の一部となった。


劉安の名は劉備に人肉を供した男として物語に残る。

女の名は残っていない。


(『三国志演義』より)


          (了)

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