突撃
女の付けていたインカムから声が聞こえる。
「おい! 連絡しろ! 目標物は回収したのか?!」
ロックはそれを手に取り
「誰だテメエ! 目標物ってなんだ!」
「な、なんだお前!」
「それは俺が聞いてんだ!」
それっきりそのインカムから声は発せられなかった。ロックがクソッっと言い部屋は無音になる。
ロックはガバッと俺とユイの方を向いて怒りのこもった声で話す。
「間違いなくこれはヤラーンの仕業だ! 目標物は人身売買の証拠! これからタリナーの全兵力を動員してヤラーンの所に攻め込む!」
「無茶だよ! オバちゃんがなんであんな作戦を考えたか、兵力差を考えてよ!」
「じゃあユイ! オバちゃんやみんなを殺されたのを嘆くだけなのか?!」
ユイは下を向き黙り込んでしまう。
「和泉! お前はどうだ!」
「俺は……俺はロックについてくよ。そういう約束だから。でも、もちろん正面衝突じゃ勝てないから作戦はたてないといけないと思う」
「でも! 賢い人みんな今やられたじゃん! ロックもあたしも頭良くないよ……」
当然というべきか、ユイにはロックほどの闘争心は無い。ロックはユイの肩に手をかける。
「失敗するかもしれなくてもなあ、やらなきゃならない時が、理屈じゃなくて気持ちで動かなきゃならねえ時があるんだよ。きっとこの心は否定しちゃいけねえんだ」
ロックは無線で他のタリナー支部に連絡した。
彼の考えた作戦はこうだ。
ヤラーンは巨大な長方形の建物に常に居て、1番上のフロアはまるまるヤラーン専用の部屋らしい。その建物は常に低中能力持ちとスーツの戦闘員が警備しており、用心棒に高能力持ちもいるらしい。
まず建物の正面に数で攻め、次にタリナーの中でも手練れの戦闘員で逆側から奇襲をかける。ヤラーン側も一枚岩では無いので簡単に守られるだろうが、そこに意識が向いた所に、ロックと俺の2人だけで一気に攻め込みヤラーンのところまで駆け抜けるという作戦だった。
お世辞にも頭のいい作戦ではないが、タリナーのみんなはオバちゃんの敵討ちに燃えほぼみんな賛成している。
「この作戦の要は俺たち2人だ。成功させるかとか、自分たちを信じるとか、そんなんじゃねえ。やるしかねえんだ。やるぞ。和泉」
ロックは熱気にあふれている。腹は減っては戦はできぬ、と言うので作戦開始時間まで俺たちはとにかく腹ごしらえをする。
ヒレステーキを赤ワインで流し込み、キチンと水も飲むロックにユイが真剣な眼差しで話しかける。
「あたしもついていかせて」
「なんでだ?」
「あなたたちが心配なの。あたしなら、足を引っ張ることもないし、何かサポートもして、負傷したら連れて脱出できるから」
「なるほど…… じゃあ連れてってもいいけどなあ、一つ約束がある!」
「なに?」
「俺たちが負傷しても、絶対引っ張って撤退させんな! 俺のバスローブはチャチな攻撃には動じないし、どんな傷をおっても死ぬまで戦う! みんな自分が捨て駒って分かってて、玉砕覚悟で戦ってんだ。俺が引いちゃあ示しがつかねえ!」
ユイは彼の心の炎に何も言い返せず俺の方を見て助け舟を求める。だが、俺がついていくのはロックだ。ユイには悪いが彼女を慰める言葉はかけられない。
「きっとロックに何を言っても無駄だよ。これが男の、いや、ロックの世界なんだよ、きっと。」
ユイは悔しそうな顔で目に涙を貯める。ロックは、女の子を泣かすのは趣味じゃねえんだがな、と言いステーキを頬張った。
俺も、とにかく野菜をぶち込みましたって感じのスープを飲み干す。スパイスは入れてあるようで、ただ野菜の甘みと青臭さだけのスープにはならず味に奥行きがあった。
作戦決行の時間が来る。午後1時ちょうどに第1陣が建物の正面に突撃した。銃声がなり血と火薬の匂いに辺りが包まれる。
1時30分に第2陣が建物の真裏に突撃した。敵は予想より第1陣に兵を割いたので、1陣の消耗こそかなり激しかったが、奇襲攻撃がかなり効いている。
その15分後。ついに俺たちの突入だ。
ロックが俺とユイを片腕ずつで抱え、スラスター全開で建物の最上階向けて飛ぶ。屋上にいた兵が狙撃してくるがロックは全てかわし、建物の壁に衝突、強引に破壊し、突入する。
ロックのバスローブは全力で壁にぶつかる程度平気らしい。俺は念のため目の当たりを腕でガードしておく。ユイは服が前方に伸び、鋼鉄のように硬化し壁を破壊、そしてユイを守った。
壊れた壁が出した土煙が落ち着く。中には20人ほどスーツを着た兵士がいた。
その奥、金でメッキされた、成金の好みそうな大きな椅子に右膝を立てて座りこちらを見ている男がいた。
「あいつがヤラーンだ!」
ロックが指を指す。ヤラーンはスキンヘッドで、身長は200センチあろうかと言う巨体に、ボディービルダーでも圧勝できそうな筋肉を上裸で見せつけくる。
「やれえ!」
ヤラーンのドスの効いた声が響くと、スーツを装着した兵士たちは手に持った銃を撃ち、長剣を持ったものはその横で構えて待機する。
俺とロックは銃弾をかいくぐり敵に近づく。ロックは高速で動き、敵のスーツをもろともせず首を跳ね飛ばす。長剣を持ったスーツが突撃するが、鍔迫り合う事もなく身体を切断されていく。
俺は容赦なくスーツに拳をぶつけまくる。拳はスーツを砕き中の人間に致命傷を容赦なく与えていく。
気がつくと起き上がれるスーツは居なくなっていた。ヤラーンの方を向くが、別の男の声がした。
「無能どもでも時間稼ぎにはなるみたいですね」
その男は階段から上がってきた。ガタイが良い以外は特徴がないが、引きずってきたものに驚愕する。
男は金属の鎖を引っ張っており、その先には男の身長とおなじくらい、約直径180センチほどはあるようにみえる鉄球がついていたのだ。
この男はそれを軽々と引っ張る。鎖はまとめてあるだけでそこそこの長さはありそうだ。その武器はいわゆるモーニングスターと呼ばれるものに見えるが、どちらかと言うとガンダムハンマーだ。
ヤラーンは男に向かって指をさし命令する。
「ジョブ、俺が戦うのはめんどくさいからお前1人で片付けろ」
「わかりましたヤラーン様」
男が俺たちの方に歩いてくる。
「こんにちは。私ジョブと言います」
ペコリとお辞儀をしながらそう言うのだった。
熱い戦いを目指してます