彼の名はロック
一面の草原の中をバイクが飛ばす。
「ーーってことがあってワンバラ団を潰しに行くところで」
「はあ、和泉、お前変わったやつだな。寝起きに普通そんな考えしないぜ」
「んまあ、正義感ってやつかな、俺曲がったことが許せなくって!」
嘘だ。少し舞い上がって、軽めの風邪のひきはじめに逆にハイになってきたみたいな気分だっただけだ。
その時俺のお腹が鳴った。思えば起きてから点滴以外栄養を補充していない。
「お、腹減ったのか? ま、もうすっかり1時だしそろそろ飯にすっか! 和泉もなんも持ってなさそうだしお前の分も作ってやんよ」
「ありがとう」
どうやらこのロックという男は走行中のバイクの上で後ろにいる人間のお腹の音を聞き取れるらしい。只者ではあるまい。
ロックはバイクから降りるとその中から、簡単に折りたためる三脚のキャンプ用のガスコンロのようなものにガス缶をセットすると火をつけ、お湯を沸かし始める。
そしてパンと何かのパウチを持ってくる。パウチの中身はシチューらしい。
「ロックもワンバラ団に用があったのか?」
「これだ」
そう言い何か投げてくる。それは指名手配犯の載ったいわゆる手配書で、その羊皮紙にはワンバラ団頭領ツネヒコと書かれている。
眉間にしわを寄せて、ギョロリとした目、痩せてはないはずだがすこしこけた頬の顔が荒くプリントされている。
「討伐対象なのか…… ロック、そのバイクなんか凄いギミックでもあるのか?」
「んあ? ねぇけど」
「じゃあ、どうやってこいつを倒すんだ?」
「オイオイ、何もバイクに乗ってるのは食べもんだけじゃあねえぜ。スーツがあるんだ。」
スーツがあるからなんだ。キングスマンじゃないんだからスーツを着ても、仕事以外の戦闘はできないだろう。
ところがスーツは俺の思っているような物では無かった。ロックはバイクの中から金属片を取り出す。それは手から離されると地面まで落ちることは無く、なんとどんどん身体に張り付いていくではないか!
「世界半崩壊前の遺跡で俺が見つけた『スーツ』だ。並みのスーツの何十倍の機動力がある最強のスーツ、俺はこれを『バスローブ』って名前にしたんだ」
なんだこのオーバーテクノロジーは。いや、それよりも気になる言葉があった。凄く嫌な予感がするが、聞かなくてはならない。俺は恐る恐る口を開く。
「そ、その、世界半崩壊って、なんだ?」
ロックは俺に記憶が無いと言うことを受け止め、とても丁寧に全てを説明してくれた。
600年以上前、日本にだけ突然能力を持った人間が生まれ始めた。そのことは世間に衝撃を与えすぐ認知され始めた。
しかしそのことと、異常な政治的状況から日本は隣国と戦争が始まった。その戦争は能力のおかげで圧勝に終わったが、そのせいで能力の脅威も大きく浸透する。
そして能力持ち同士による抗争は気がつくと日本全国で始まっていた。その抗争の最終決戦で恐るべき能力を持った者が、死ぬ間際で地球を破壊したのだ。
大地は剥がれ裏返り、場所によってはプレートまで地表に上がってきた。皆、地球は壊されて崩壊したと言ったが、偉い学者さんによれば、破壊はプレート程度までなので地球が壊れたわけではないと言った。
よってこのことは世界半崩壊と呼ばれるようになったのだ。
そして当時日本を治めようとしていた新日本軍は能力持ちを殲滅しようとするが、アッサリ返り討ちにあう。そしてその後から現在西暦2700年まで超東京を中心として、地方を強力な能力持ちが守護となり治める形を続けている。
「せっかく軍を倒したのに、今の形じゃ結局力を持った奴が幅をきかせてんだよな」
ロックは言う。確かに軍が国を治めることの危うさを歴史は語っている。
それよりも、俺は2700年にタイムトラベルしてしまったようだ。しかも能力持ちが力をふるう世の中に。
どうすれば俺の生きていた時代に帰れるんだ。
「な、なあロック! その、時間を操ったり自由に過去とか未来へ行ける能力ってあるか!?」
「んあ、聞いたことねえなあ。だいたい能力ってそんな人にバラさねえし。戦いで不利になるからなあ」
希望は無いのか……
「あっ、でもよお! 超東京ならなんかあるかもな」
「そっ、そっ、その超東京って凄いのか!?」
「お、おう。何興奮してんだ。そりゃスゲえよ。なんせそもそも人口数がとんでもねえんだ。良い女は少ねえけどよ。隣の科学都市の産物をそのまま持ってきてすぐ使えるし、セントラルタワーの地下ではそれ以上の研究が行われてるってもっぱらの噂だしな」
希望はまだあった! 思考がどんどんポジティブになる。そもそも知られてないだけで、時間を移動できる能力持ちもいるかもしれない。ロックは俺の顔をみながら
「な、なんだあ? そんな目キラキラさせて。超東京に行きてえのか?」
「うん! 俺、超東京行きたい!」
「そんなら、俺の仕事手伝ってくれるってんなら案内してやっても良いぜ」
本当に、村を出て最初に出会ったのがロックで良かった。俺の答えはもちろんイエスだ。
「もちろん手伝うよ! 連れてってください!」
「わかったわかったぁ。割と強い能力持ちなら役に立つだろうし別に良いよ」
頼りになる男ロック。この時俺はこいつについて行く事を決めたんだ。
「んで何の仕事なんだ?」
「ああ、その手配書よく見てみな」
「発行はタリナー?」
「タリナーはいわゆるところの過激派反政府組織だ」
「でもなんでこんな荒くれ者を?」
「このワンバラ団頭領ツネヒコってやつは村々を荒らして人攫いしてんだ」
ロックはパウチの中の感想シチューを器に入れてお湯を注ぎながら喋る。
「その攫われた人間は、この地域カプカムを治める守護ヤラーンに売られてるって話だ」
「人身売買か……」
「んで、奴らのアジトでその黒い繋がりの証拠を探そうってわけ」
味の濃いレトルトシチューと固く焼きしめられたパンをたいらげた俺たちはまたバイクに跨り移動を開始する。
エンジン音は、傾いて半分ほどが地面に埋まった、田舎の国道の横にありそうな小型ショッピングモールの前にとまった。これがワンバラ団のアジトらしい。
ロックはスーツを『着る』というより『装着』していく。それはいわゆるパワードスーツと呼ばれる物で、全身に装着していた。
基本的に白を基本として次に青色が使われている。ふくらはぎの部分には大型のスラスターがついており、背中にも大型と小型のものが1対ずつ羽のようについている。
目を引くのは前腕部に付いていて、肩の近くまで伸びたそこまで広くは無いが分厚く長いシールドだった。
「凄いな、そのシールド」
「実はこのシールド、攻撃からのガードのためが1番の理由じゃねえんだ。この腕の部分にスゲえ威力の銃が内蔵されてんだ」
ロックはヘルメットの下から、付けていない時と同じように声を出す。高性能スピーカーらしい。
「砲身が短いから命中精度は低いんだが、威力はとんでもねえ。だが威力が高い分反動もハンパないから、手から出る弾の反動を打ち消すために逆っ側の肘の方にスラスターが付いてる。これが剥き出しじゃ危ねえからシールドが付いてんだな」
「普段はその剣で戦うのか?」
「そうだ。頑張りゃ金属まで叩き斬れる」
そのスーツの腰の両側には、分厚いがシンプルなデザインの剣が付いている。刀身は70センチほどだろうか。
モールの中から2人のお出迎えがやってきた。こちらに殺気を含んだ声をかける。
「オメエら誰だあ?今日は客はお呼びじゃねえぞ」
俺は迷い無く2人の目の前まで跳び、拳を浴びせて吹っ飛ばした。
「ヒュー! 和泉、お前かなりやるじゃねえか! それぐらい強けりゃ仲間にしたかいがあるってもんだ」
「まあちゃんと働くよ」
「だが、次からは俺のスーツ『バスローブ』の力みせてやる。よおく見ときな」
設定説明をダラダラ書いてしまいました。もっと文章がうまくなりたいものです。