イナーシャルコントロール
朝ご飯を食べた俺たちは予約しておいた渡船のフェリーに乗る。
フェリーは中型で、1番下は車を止めるスペースで、その上が1階。3階まであり、1、2階は外にも出れるが船内に座ってゆっくりできる。3階は屋根しかなく、子供が海に落ちないように柵があるだけで景色がよく風もよくふく。
「ハマナ大工業地帯に着くまで4時間だとよ」
「あたし3階で景色見てくるー」
「ロックは何するんだ?」
「やることねえし寝る」
「じゃあ俺もユイと景色見てこようかな」
「仲のよろしいことで」
ロックは緑のアイマスクをしてしまったのでおれは3階に上がった。
「あ、和泉! 海しかないよ。カモメはいっぱいいるけど」
「なんでこんなにカモメが、ってユイめっちゃ懐かれてんのな」
「しろいーカモメが肩に、とまりにきーたよ♪」
ユイはご機嫌にカモメと戯れながら歌っている。俺は柵に肘をかけて海を見る。たしかに海しかない。これではユイは飽きるだろう。しかし思わぬ物を見つけ俺は声をあげた。
「おおっ! イルカじゃないかあれ!」
「え、どこどこ!? ほんとだ、イルカだ! いっぱいいて可愛い!」
「へえ、2700年も悪くないな」
「あのイルカスッゴイ速いよ!」
「へえ、飛沫上げて他のイルカと一味違うな……ってアレ、イルカか?」
「なんかコッチ向かってきてない?」
「ホントだ! 真っ直ぐこの船、俺たちに向かって来てる!」
その何かは水面から跳躍して俺たちの真後ろに着地した。そいつの見た目は一言で言い表すと獣人だった。鱗と毛が全身に生え、尻尾に凶悪そうな爪まで生えている。そしてそいつは牙を剥き喋った。
「島村和泉ぃ!」
「え、和泉の知り合い?」
「し、知らない知らない。あの、どなたでしょうか……」
「俺だ! 河内飛鳥だ! まさか忘れたのか?!」
「なんか僕記憶喪失らしくって、で、飛鳥? 俺たち友達? なんで追いかけて来たんでしょうか」
「ああ、友達みたいなものだ。カフーク村でお前のことを探し回ったら、顔にヒビの入った人間を見たと聞いて、お前だと思い泳いで追いかけて来たんだ!」
「ゲッ」
俺はすっかり忘れていた顔のヒビを触る。
「ちょっと和泉、あのヤンホモ近づかない方が良いよ」
「ああそうだな。ちょっと帰ってもらおう」
「こそこそ話をするな! なら和泉、お前自分の能力も忘れたわけじゃないだろうな」
「え、超パワーかなあ」
「思い出させてやる!」
そういうと飛鳥は俺に向かって爪を振り下ろして来た。後ろに飛び俺は避ける。
「反撃してみろ!」
また飛鳥が飛んできたので、俺は言われた通りカウンターで腹に拳を入れる。飛鳥の腹が拳の形に陥没するが、見る見る間になんと元に戻った。
「な、なんだそりゃ!」
「俺の能力も忘れたのか、俺の能力は再生能力、不死身の肉体だ!」
そう言いまた飛鳥が凝りもせず爪を振りかざしながら飛んでくる。しかし身をかわしたので、爪は俺ではなく後ろの柵を斬り裂いた。その隙に左ストレートを飛鳥の顔面に決める。しかし数秒でまた傷が再生して起き上がる。
「違う! お前の力はそんなものじゃない!」
「ならこれでどうだ!」
飛鳥の目の前に飛び、全力のボディーブローを繰り出す。飛鳥の腹を腕が貫通して身体が吹っ飛び、飛鳥は屋根を破壊して真っ直ぐ上に消えた。そのパワーに俺の足元の床が壊れて2階に落ち、フェリー自体も揺れる。
「おい和泉何してんだ!?」
「ああロック、ちょっとお客さんが来てさ」
俺は3階に飛び上がり戻る。ドサリと音がして飛鳥が落ちて来た。腹の穴がだんだん塞がっていく。その傷はまだ再生途中だというのに俺の目の前に来て話す。
「違う! 力で殴れということじゃない! 能力を使うんだ! もうすぐ、またお前の手助けが必要な時が必ず来る。いいか? 吹っ飛ばさず殴るんだ。お前の能力は」
その瞬間飛鳥の頭がはじけちった。俺はいつのまにか現れた、そこそこの距離を空けた黒い船を見る。剣みたいに先っちょがとんがっていて黒い船。船上には大型のライフルを構えた男がいた。
男がこちらを狙う。ライフルのトリガーを引くのを感じ取り銃弾をかわす。次はユイが撃たれるが、服の布に当たるスレスレで銃弾の軌道がそれて直撃しない。バスローブを身につけたロックが飛び上がって来て船を指差した。
「あれがお前の言ってたお客さんか?」
「いやお客さんはそこで頭撃たれて寝転がってる方だ」
「死んでんじゃねえか」
「いや、不死身らしいから大丈夫。あと悪いやつじゃなさそうだった」
「うお、マジでちょっとずつ再生してやがる、キモちわりい…… じゃああの船は敵ってことか?」
「そういうことだと思う」
「おうおう、俺の姿みて慌ててやがる。俺目当てみたいだな。モテる男は辛いぜ。んじゃいっちょ潰してくるか」
そう言いロックはフェリーから飛び立った。黒い船に向かってスラスターをふかす。船上に何人かライフルを持って出てきてロックを撃ち落そうとするが、ロックは上下左右、不規則に動いて狙いを定まらせない。そして剣を抜き彼らを切り裂く。
いつのまにか船尾に搭載された機銃を人が持ち、銃口がロックを向く。そして機銃が火を吹く。ロックは右腕のシールドでそれをガードする。正面から受け止めるのではなく、銃弾を受け流すように斜めにシールドを構えてガードする。その間に左腕の銃は機銃を構えた人間の眉間を貫いた。
その後も船から人が出てきてロックを狙って返り討ちにされていく。そんな様子を見ていると飛鳥の傷が再生して起き上がった。
「クソッあいつらか俺をやったのは」
「ああ、でももうロックがどうにかしてくれるよ」
「ロックとはあのスーツを着たやつか。ほう、たしかに表向きは有利に見えるな」
「表向き? どういことだ」
「みろ、船首がこちらに向いてきてる。ロックは人員に圧倒されて船室に入り込めてない」
「ああ、敵は誰もロックに敵わない」
「そうだ。なら弱い奴を狙えばいい」
「何!?」
ロックの叫び声がする。
「マズイ! フェリーに突撃する気だ! 船員が危ない! 和泉、ユイ、船長にどうにか避けるように言って、他の乗員を非難させてくれ!」
「わかった! ユイ、お前は乗員の誘導を、俺は船長に」
「必要ない!」
「は!?」
飛鳥が立ち上がり息を吸い込み、ロックに大声を飛ばす。
「おーい! ロックと言ったかお前! この船は任せろ!」
「ああ?! なんだ誰だテメエ! お前に何ができんだよ!」
「俺ではない、和泉がなんとかする!」
「ええ?! 俺がぁ?!」
「名も知らぬ俺は信用できなくとも、和泉なら信用できるだろう!」
「チッ、わかった! 任せたぞ和泉!」
「いいか、時間がない。あの船はもう突撃を開始している。単刀直入に言うぞ」
飛鳥は俺の肩に手を置き、目を見て話す。
「和泉、お前の能力は慣性支配だ。お前自身と、お前の手で触れた物の慣性を自在に操れる。それも言葉尻を捉えたようにいやらしくだ」
「い、慣性支配?」
「動いてるものは動き続け、止まってるものは止まり続けようとする。それが慣性。あの敵の船はもう加速は十分で、最高速に乗っている。あの船は動き続けようとしているんだ。だからその慣性を無くせ」
敵の船はこのフェリーの側面に衝突しようとしている。俺はそのちょうど衝突地点かと思われるところに立たされた。
「慣性を無効化させる……」
「そうだ。逆に慣性を強めて、他の力に関係なく動かせ続けたり、その場に止まらせ続けたりできる。それを応用すると、空中を重力の影響なく真っ直ぐに飛んだり、パンチで相手を吹っ飛ばさず、打撃の速度を全てダメージに変換することも可能だ」
「つまり、相手は吹っ飛ばずに、壁に挟まれたみたいな感じで、パンチの威力が2倍になるって事か」
「さっき戦いでそれを思い出さそうとしたがダメだったな。慣性支配を応用した打撃ができればお前はかなりパワーアップする」
「なるほどなあ」
「さあ慣性支配の実践だ!」
船が近づいてくる。敵の船の装甲はだいぶ硬そうだ。こちらは装甲も何もただのフェリーなのでおそらく、突撃されると真っ二つになるだろう。
俺はフェリーから手を伸ばす。そしてしっかり敵の船を見つめながら叫んだ。
「イナーシャルコントロール!」
ピタリ。俺の腕に全く負荷はかからない。手のひらだけが敵の船の冷たさを感じ取り、そして消えた。フェリーが船を置いて進んだのだ。ロックと飛鳥が歓声を上げる。
「よし! さすが和泉だ!」
「よくやったぞ、これで自分の能力を思い出してきたか?」
「いや! まだ終わらないぞ!」
そう叫び、置いていかれる敵の船に向かって走り、そしてフェリーから飛んだ。そして船首のちょうど頂点を殴った。
「もいっちょ、慣性支配!」
フェリーから飛んだので海に落ちそうになるが、ロックが俺を捕まえてフェリーに戻した。
「お、おい無茶だなあ。なんで殴ったんだ」
「見ろ! ただ殴っただけじゃないぞ!」
飛鳥がそう言いながら指差した敵の船を、ロックは見て驚く。なんと敵の船がドンドン後退して離れていくのだ。
「そうか! また慣性支配で、あの船はあの方向にしか動かない! 水の抵抗など関係なく、あの速度であの方向にしかあの船はもう動けなくなったのだ!」
「へ? い、いなーしゃるこんとろーる? なんですかそれ」
「ま、そういうこと」
ロックは飛鳥の解説についていけない。あとで俺の能力の慣性支配について教えてあげなくてはいけない。
そして3階で柵に腕をかけ見つめるユイが小さくこう呟くのが聞こえた。
「へえ、凄いな、和泉君」
鉄球を軽々止めれたりしたのはこの能力だったんですねえ




