キス釣りに行こう
「海だ!」
それは弧状の砂浜でちょっとした湾のようだった。しかし砂浜の左右の端に行くにつれ砂の粒が大きくなり、だんだんゴロゴロとした石となり最終的に岩場、いわゆる磯だ。ロックが釣りの仕掛けの準備が終わり、俺とユイに釣竿を渡しレクチャーが始まる。
「いいか? この虫が釣り餌だ。針は2本あるからそれにつけるんだぞ。餌つけなきゃ99.9%釣れねえからな。餌は千切って子のくらいの長さにして使ってくれ」
「滑ってつけにくいなあ…… うあ! 噛まれたぞ!?」
「ハハ! 死肉を普段食ってる奴らだからそこそこ立派な牙があるんだぜ」
「つけたよー」
「ん、じゃ次は投げるぞ。コレ、なんだっけな、そうだベールだ。ベールを立てると糸が自由に出るようになるから、糸を指で押さえてからベールを立てる。んで竿を背中に回して、フンッ! わかったか? これがチョイ投げ釣りだ」
「うーん分かんないけど分かった」
「ところでロックと俺たちの仕掛け違うくないか?」
俺とユイの仕掛けはおもりの下に針が2本ある。だがロックの仕掛けは魚の形をしたものに針が付いているだけだ。
「ああ、これはルアー釣りだ。テクニックもいるしエサ釣りの方が釣れるから初心者向けじゃねえ。でも大物は狙えるんだ」
「へえ」
「あ、あとな、投げたらリールを巻いてそこをズルズルさせて、止めて魚が食いつくのを待つってのを繰り返すんだ。魚に誘いをかけるんだな。ちょっと巻いて待つんだぞ」
ロックは磯の向こうに消えてしまった。とりあえず俺とユイは仕掛けを投げて釣り始める。するとすぐにグッと竿先が重くなる。
「お! なんか釣れたぞ?! お、重い!」
「え! 良いなあ、何釣れたの?」
「まだわからん!」
必死にリールを巻いて見えてきたのは
「え、何これ、やっぱ良くないや」
「か、海藻か? 岩に生えた……」
そして投げて巻き上げて、また投げてを繰り返すこと30分。
「おっ当たりだ」
「こっちも来たよ!」
同時に当たりが来た。そして俺が釣り上げたものは……
「なんだフグかよぉ〜」
「ヘッヘーン、こちとら狙いのキスだよー」
「あ! 羨ましいなぁ」
そう。今回の狙いの魚はキスだった。釣り場に到着する前にロックが写真を見せてくれていたので、俺たちはすぐこれがキスだと分かった。なんなら魚図鑑を置いていってくれたので知らない魚もすぐに分かる。キスは大丈夫だが、知らない魚は迂闊に素手で触るなと言われた。調べてヒレや粘液に毒のある魚は火挟みたいな魚つかみで掴めとも言われてある。
「確か、キスは群れでいるって言ってたな、俺もそこに投げる!」
「あ、また釣れたよー」
「お! 俺もようやく釣れた!」
ようやく俺も綺麗な魚体のキスを釣り上げた。ガンガンガンッとその大きさからは想像できない強い当たりだった。そこからポンポンと釣れる
「よしきた!」
「あ、ちょっとデカくないこれ!」
「うお、最小金冠だ、リリースしよう」
「2匹かかった! ダブルだね、ダブル!」
そしてパタッと釣れなくなったが、ここまでで23匹釣り上げた。全部10から15センチチョイまでのキスだ。釣れず退屈したユイは昼寝を始める。着ている服がパラソルのようになり彼女を日差しから守る。あの服の布は質量保存しないらしい。
俺も仕掛けを投げ、釣竿を手に持ったまま、砂浜に座り海をぼーっと見ていたが、いつのまにか傾きかけていた太陽が地平線に交わろうとしていた。
その時、竿先に今日1番の当たりがゴンゴンと来た。その引きを楽しむのもほどほどに巻き上げる。20センチ以上はあろうというキスだった。
「おい、ユイ! 起きろ!釣れだしたぞ!」
「うーん、え、結構デカいじゃん。あたしも釣るぞぉ……」
寝ぼけ目をこすりながらユイが餌をつけるまでに、俺はまたデカめのキスを釣り上げる。
「へっ、何これ、なんか釣れたよ」
「うお、なんだその魚?!」
「おっ、そりゃカワハギだな。結構美味しいんだぜ」
「お、ロックおかえり。これカワハギって言うのか。ロックは何か釣れたのか?」
「ジャジャーン! ご立派な真鯛だ!」
「おお! カッケェ!」
「ロック、お腹減ったよお、早く食べようよ!」
「わかったわかったユイ。宿の台所貸してくれるらしいから行くぞ」
俺は魚の入ったバケツと釣竿を持って歩く。ロックは釣竿と魚をよくわからないもので口を挟んで持ち歩き、ユイは釣竿とその他の荷物だ。
宿に着くとユイは釣竿を洗いに行かされた。俺はロックの魚をさばく手伝いをすることになった。
「でも俺魚なんて捌けないぞ」
「それは捌いたことがないってだけだ。ちょっと人が捌くの見りゃできるようになるって。んじゃこのペットボトルの蓋、これでキスの鱗を全部剥がしてくれ。手本を見せてやる」
「はあ、それぐらいならできそうだ。全部やれば良いんだな。任せてくれ」
俺はペットボトルの蓋でキスの鱗を剥がす単純作業をしながら、ロックが真鯛をさばくのをみる。まず包丁で鱗をベリベリと剥がした後、頭を切り落として三枚おろし、なんかうじゃうじゃっとして身が4つになり、気がつくと刺身だ。ちょうど俺もキスの鱗を剥がし終わった。
「よし、んじゃ次は頭を切り落として、腹のなかを綺麗に洗ってくれ。黒いのが無くなるまでだ」
切って洗ってをキスの数だけ繰り返す。ロックはカワハギをさばき始めた。ぺりぺりと一気にカワハギの皮が剥けたので、その気持ち良さに俺は思わず、おおっと声を上げる。カワハギの名前の理由は皮を剥ぎやすいかららしい。俺は言われた事が終わったのでロックに次は何をするか聞く。
「よしじゃあキスは背開きにしていくぞ。まず背びれのすぐ横にちょっと切り込みを入れるんだ。そんで、包丁で骨を感じながらどんどん深く切ってって、腹で止める。そんで、また同じことして背骨を断ち切る。これで背開きだ」
ハッキリ言って説明じゃよくわからなかったが、俺は同じようにしてブサイクだが背開きを作った。2匹め、3匹めと上手くなっていく。
ロックはカワハギをさばき終わりキスをさばきだした。俺の何倍も速い。結局俺は10匹も捌くことはなかった。
「このキスはどうやって食べるんだ?」
「キスはもちろん天ぷらだ。刺身とかも良いんだけどな、フライにする奴は死刑だ。キスの淡白で繊細な味を1番活かせるのはやっぱり天ぷらだぜ。あとは食器を出して待っといてくれ。すぐ天ぷらを揚げて持ってく」
食器が並べられた机を前に俺とユイは待機する。待ちきれないユイは目が血走っている。
「釣りって楽しいなあ」
「なんたって釣ったあと食べれるのが良いねジュルル」
「しかも宿と砂浜こんなに近いなら食べた後も行けちゃうな」
「あ! 和泉それいいね! 食べたらまた行こうよ! 餌の虫もまだ余ってたし、でもロックはまたお酒飲んで寝ちゃうかもね。んじゃ10時に行こう!」
「お、おう」
冗談のつもりだったが夜釣りをする事になった。
そしてロックが刺身と天ぷらを持ってきた。キスの天ぷらはとんでもなくふわっとしていて、上品な旨味だ。天ぷらで1番好きかもしれない。
真鯛の刺身はコリコリとしていて噛むたびに甘みが口に広がる。ロック曰く、もう少し日にちを置いておくとさらに旨味が増すらしい。
カワハギの刺身は肝醤油で食べる。カワハギの肝を湯通ししてこしてから醤油と混ぜる。肝には海の旨味が凝縮されている。苦手な人は苦手かも知れないおいしさだ。
案の定ロックは酒を飲んで寝た。俺とユイはせっかく洗った釣竿をまた持って海に向かう。
「でも本当に夜もキス釣れるのかな」
「やっぱ、夜は大人の大きいキスが釣れそうじゃない?」
そして砂浜に着く。海をみて思わずユイが叫んだ。
「わああ! う、海が光ってるよ!?」
「な、なんだこれ! 海ってより、波が光ってるな」
「綺麗……」
打ち寄せられる波が光る。ほんのりとした、派手ではない暖かい光だ。
俺もユイも釣りをしに来たのを忘れて見入ってしまう。
試しに石を海に投げてみると、ボチャンと音が鳴ったところがしぶきを上げながら光った。どうやら刺激に反応して光るらしい。この事をユイに言おうかと思ったが、彼女のきらめく瞳には無粋な事だと思い黙っておく。今理由など知ったところでどうでもいいどころか興ざめしてしまうだろう。
ただこの海が光る幻想的な風景だけに意味があるのだ。代わりに、俺は一言だけ言う。
「本当に、綺麗だな」
「うん。綺麗……」
実際釣りに行ったところ釣果がショボくて凹んでました。
夜光虫は初めて見たときビビりますよね。




