狩にいこう!
レッドリストの生き物を殺しますが、これはフィクションです。現実でしてはいけません。
「ねえ和泉、大丈夫?」
「ホントに大丈夫かあ? 顔真っ青だぞ、一旦車止めて休暇するか?」
「2人とも…… だいじょ、ゥゲップ」
俺は車酔いに襲われていた。肉体が強くなっても三半規管はヘボヘボのままだったらしい。
朝、車が峠に差し掛かってからずっとこの調子だ。もう10時間もグロッキー状態な気がするが、実際はまだ昼ごはんの時間にすらなってない。
峠を登り始めた時は、まだユイが肉を食べれないことを嘆いていたが、俺の具合が悪くなると俺の心配をし始め、峠が下りになるともうすぐ平坦だからと応援し始めた。
「確かに酷道から世界半崩壊前の道には入れたし、道自体かなり綺麗で安全だけどよ、こんなグニャグニャだと和泉が腹の中身全部出して死んじまうぜ」
「ハハ……それぐらいじゃ死なな、ウェップ」
「なんかあたしまで口の中酸っぱくなってきちゃった」
「酔い止めを忘れたのが運の尽き、グォッフ」
「ロック、休憩しないとまずいよー。和泉君が爆発したら、あたし二次災害起こしちゃいそう」
「そうだな。ん? ありゃ川だ! あの河原まだ耐えてくれ和泉!」
俺はフラフラな足で河原に降りた。河原の石で何回も躓きそうになりユイに支えられる。ロックは昼飯の準備をするといい川でバケツに水を汲んでいる。
「どう和泉君、お昼ご飯は食べれそう?」
「だめダァ、胃に物を入れれねえよぉ」
「そりゃそっか。ずっとあんな道みたいだし早く慣れるといいね」
「慣れるのが先か、目的地に着くのが先か、それとも吐くのが先か、ウグップ……」
突然、ヌゥッとロックがイタズラな笑顔を浮かべて俺の前に現れる。片手にはバケツ、もう片手は俺の道着の帯を解き、ズボンを引っ張った。
そして彼は俺の股間めがけて、バケツの中の冷たい川の水をぶちまけた。
「うわあぁ! つ、冷たい、冷たいぞ! な、なにすんだよロック!」
「ハッハッハ! んで和泉、調子はどうなんだよ?」
「あれ、気持ち悪く無い。スッキリした! 車酔いが治ったぞ! なんでだ?!」
「ヘヘッ、これがビックリ民間療法よ。冷たい水を股間にかけると、なんか知らねえが乗り物酔いが治るんだ」
「す、すげえよロック!」
「んじゃ、早速昼飯だ!」
ロックは二台のガスコンロを持ってきて1つはお米を炊き、もう1つには鍋が置かれ、切られた野菜と調味料が目分量で入れられる。一見雑な料理だが美味しくなるのが驚きだ。しかし文句を言う人間が1人、ユイだ。
「やっぱりお肉食べたい」
「なんだ俺の料理がマズイって言うのかよ」
「そうじゃないじゃんー。お肉が食べたいの!おかわり」
ユイは野菜スープを2回おかわりしている。美味しいのは美味しいんだろう。ただ肉が食べたいだけだ。ロックが頑張ってなだめる。
「今日の晩はさ、しいたけステーキするからそれで許してくれ。な?」
「しいたけはお肉じゃないもん……」
「うぅ、じゃあお嬢様は何ならいいんだ?」
「魚」
「それもねえよ。そうだ! なら今日の晩ご飯は狩りするってのはどうだ!」
「狩り?」
「そうだ、猪よく見かけるしそいつを食うんだ!」
「でも猪って獣臭くてちょっと苦手なんだよな俺」
「なんだ和泉安心しろ! 山椒効かせて鍋にしたら美味えんだぞ猪って。それに豚の元になった動物だからか、角煮にもできるんだぜ」
「鍋!」
「かかか角煮!」
ユイが角煮という言葉に興奮しだした。
「んじゃ、これから車で走ってて道で見かけた猪が今日の晩ご飯だ! わかったな!」
「サーイエッサー!かーくーに!」
「でもまた車酔い地獄か……」
「あ、あたしさっきご飯の準備中読んでてこれ見つけたの」
ユイが急に平常になり、本のページを開いて渡してきた。
「なんだこれ、酔い止めのツボ? 手首にあるのか、ツボなんてホントに効くのかな」
「とりあえずやってみなよ」
「うん。おっおっ、お! なんか凄く効いてる気がするぞ! 意識がハッキリして気がみなぎってくる! これなら大丈夫そうだ2人とも」
キリッとする俺の目の前でロックがユイに耳打ちした。
「お、おい。ちょっと効きすぎなんじゃねえか? そんな一瞬で変化ねえだろ」
「まあ、病は気からって言うし、いいんじゃない?」
「ゴホンッ、それじゃあとにかく! 晩飯の猪探しながら出発だ!」
「オー」
「ぅオーーゥッ!」
物欲センサーという言葉がある。これはレアなものや、普段出るものを欲しいと思った時に突然出てこなくなり手に入れられなくなる現象だ。
俺たちは昼ごはんまで何匹も猪をみたんだ。それなのに……
猪を1匹も見かけることはなかった。
「ここは木も多くて暗いし今日進めるのはここまでだ。近くに川もあるしここをキャンプ地とする」
「か、角煮、私の角煮は?」
「川で魚手づかみしてくるから、それで我慢してくれ。和泉もついてきてくれ」
「わ、わかった。ユイは留守番なんだな」
「ああ、猪見つけたら俺たち呼んでくれよ」
「角煮見つけたら呼ぶ、わかった……」
ユイは若干放心状態だ。流石に可哀想なので魚を是が非でも取っていってやりたい。
「でも凄いなロックは。魚の手づかみもできるのか」
「え、全然出来ねえ」
「へっ?!」
「釣りはするけど、魚の手づかみは俺苦手なんだよな。だからお前を連れてきたんだ」
「え、俺も魚の手づかみなんてした事ないよ」
「まあ、2人いればどうにかなるって!」
ならなかった。
「よし、追い込んだぞ! ああ、すり抜けられた!」
「デッカい魚がそっちいったぞ! 捕まえ……ダメだったか」
「はさみうちにするぞ!」
「わかった!」
バシャ!
「ごめん、コケちゃった」
「2人で追い込み漁だ! あの角に追い込むぞ」
バシャバシャバシャバシャ
「1匹もいないぞ」
「だいたい、あれ網ないとむりなんじゃないか?」
日がどんどん傾く。
「ダメだロック捕まえれる気配がない!」
「うーん、よし手分けして広範囲を探そう。1匹くらいマヌケな魚がいるかもしれねえ。もうかなり暗くなってきたし時間もねえ! 急ぐぞ!」
俺はより上流の方に行くがやはり魚を捕まえることはできない。
「わぁ!」
そこで俺は思わぬ生き物に遭遇した。
この生き物確かすっげえ危ないんだよな。腕が食いちぎられるとか。あ、でも確か食べれるって聞いたことがあるぞ。これ持ってこうかな。でもレッドリストだって聞いたことあるし。でもこの2700年って割と無法地帯だし自然守る法律なさそうだしいっか。
俺はその生き物を食材として持って帰ることにした。危ないので一応シメといた。
「おーいロック、捕まえたぞー」
「マジか!よくやった和泉、ってお前なんだそりゃ!」
「これオオサンショウウオ。美味しいんだってさ。食べたことないけど」
「た、食べれんのか、それ? どうやって料理すんだ?」
「わかんないけど、猪と同じ要領で鍋にしたらいいんじゃないか?」
「て、テキトーだな。まあ食ってみるか」
オオサンショウウオをキャンプ地に持って帰った時、女子には爬虫類や両生類が苦手な人が少なくないことを俺たちは忘れていた。
「な、なにそれぇ!」
「これオオサンショウウオって言うんだ。今日の晩ご飯」
「そ、そんな見た目の食べれるの?!」
「おいユイ、食材に失礼だぞ! この、オオサンショウウオってやつ? だって生き物なんだ! 感謝してたべろよ」
「うぅ……、食べる。食べるけど、見た目が……美味しいのそれ?」
「美味しいって聞いたけどなあ」
「なんで和泉は記憶喪失なところあんのにそんなことだけ覚えてんだか」
そのあとロックはあーでもない、これならこーしようなど言いながら悪戦苦闘し、オオサンショウウオを捌いて下ごしらえした。そしてオオサンショウウオを含む具材をぶち込んだ鍋を煮込み、あたりはすっかり暗くなった。
「よし! そろそろ完成だ、食っていいぞお前ら」
「あ、うん結構美味い」
俺はロックが器に注いでくれたものをすぐ食べた。だがユイはまだ箸をつけていない。そしてこちらを見て
「ね、どんな味なの?」
「ん、美味しい」
「だからどんな味なのよ」
「美味しいよ」
「ちゃんと食レポしてよ!」
恐る恐るユイはオオサンショウウオの切り身を口に入れた。
「ん! 結構淡白で美味しいじゃない! なんというか、お上品な味だし、臭みあるかと思ったけど全然ない!」
「オオサンショウウオは綺麗な水で生きるから臭くないんじゃないか?」
「へえ、そんな味なのか。じゃあ俺も食べてみよ」
「ちょっとロック! 毒味役にしないで!」
「ハハハ、モグッ、おっ、美味いなこれ!」
美味しい肉を食べれたこともあり、ユイが機嫌を崩す事なく楽しく晩ご飯は終わった。が、片付け中にこんな言葉を残していった。
「まあ、美味しいもの食べれたし、明日の昼ぐらいはお肉無しで我慢できるかな」
「ヘッ?! そりゃあどういう意味だ、ユイ……」
「フフ、明日の晩も美味しいもの期待してるよ」
「あは、あはははは……」
「明日も頑張らないとね、ロック」
オオサンショウウオって美味しいらしいですね。食べてみたいです。
次回、釣り回です。お楽しみに。




