旅、初日はごちそう
結局、俺個人の準備はほとんどすることがなかった。この道着にも穴が空いて血も染みているので服を買いに行こうとしたら、ユイがなぜか両手いっぱいに道着を持って来ていた。
カプカム中の柔術道場を廻って貰ってきたらしい。なぜか2700年では柔道から一周して柔術が浸透している。俺がきていいのは道着だけとなった。
買い出しに3人でいくと、力だけはある俺は物持ちを任された。最終的には重くて持てないわけではなく、これ以上高く積めなくて持ちきれなくなり、店とロックの宿を何往復かするハメにあった。
そして出発日当日。
「お、おいロック、この車って……」
「なにこれ……」
「カッケーだろコレ!」
「確かに、荒れた道でも進みやすそうだけどさ、モンスタートラックって…」
青の背景に炎の絵が描かれてる、多くの人のイメージ通りなモンスタートラックの運転席から、ロックは手を振っている。三列シートの1番後ろと真ん中の片方の座席は荷物で埋め尽くされている。
ユイはぽかんと口を開けっぱなしにしているし、俺だって言葉が出ない。通りの真ん中に止めているので通行人からの視線も集中する。ロックだけはテンションが高い。
「見た目だけじゃなくて馬力もすげえんだ! コイツは旅程がかなり短くなるかもな!」
「その、ロック、ちょっといいかな?」
「なんだユイ」
「高くて、車に乗れないんだけど……」
「なんだそんなことかよ。安心しな、ちゃんとハシゴ持ってきたぜ」
ロックが後部座席からハシゴを取り出す。が、しかしそれは……
「それキャタツじゃないか?」
「え?」
「だからそれ、キャタツだよ」
「まあ、どっちか知んねえし、どっちでもいいんじゃねえか?」
「いやでもハシゴとキャタツでは形が違ってさあ、ハシゴの形は……」
「う、うるせえ」
そう言ってロックは窓を閉じユイもドアを閉じて、車は走って行ってしまった。俺とキャタツを残して。
「待ってくれよぉ〜」
情けない声が響いた。
無事出発した俺たちはとにかく車を走らせ続けた。ずっとロックが運転で俺が助手席、ユイが後ろだ。
カプカムを出て初めこそはユイが何かを見つけるたびに
「あっ! 昔の建物だ!」
「別の車だ! 旅仲間だよ! 手振らなきゃ、こんにちはー」
「え、もうここからトツカ森林地帯?! イェーイ! トツカに入りましたぁー」
「みてみて! キツネだよ!」
「タヌキだ! ぽんぽこぽん、ぽんぽこぽん!」
「野生の馬だ! 珍しい!」
「飛んでるのタカかな、ワシかな、トンビかな」
「リスだ!」「イノシシだよ!」「イタチ!」「サルは嫌い」「野良犬だ!」
とテンション上げまくりで反応していたが、もう見飽きてしまったらしく、今は本を読んでいる。俺も暇だ。運転手が疲れないようにと暇つぶしにロックに話しかける。
「結構いい道だな。もっと酷いかと思ってたよ」
「ここら辺まではみんな狩りに来たり、山の恵みを収穫しに来るんだ。なんならこの先キャンプ場もある。今日泊まるのはそこだ」
「へえ、結構良い旅になりそうじゃないか」
「でもな、明日からは酷道って呼ばれるところを通る」
「コクドー?」
「酷い道って書いて酷道だ。年に数人しかカフーク村まで行かねえから道がほとんど整備されてねえ。今みたいな砂利道どころか、岩が転がってて落石注意だったり、森の中を突っ切ることになる。視界が悪いからちょっとでも暗くなったらすぐ野宿なんて事もありえる」
「心配になってきたぞ」
「でもな、安心できるルートから、世界半崩壊前の道が残ってるって聞いたんだ。なんでもグニャッグニャの癖に安全安心最速なルートらしい」
「ほ、ほんとか? その情報もちょっと心配だな……」
「心配性だな和泉、だが唯一安心できる情報があるぜ。それはこの俺が運転手ってことだ!」
「あははは……」
日に照らされ少し空が赤みがかって、夕暮れになり始めた時間に俺たちはキャンプ場についた。
キャンプ場の管理人らしき人が近づいてきてロックはお金を払う。そして俺とユイは聞き捨てならない言葉を聞いた。
「あとバーベキューセットも一つ」
「はーい。これお釣りねー。あ、最近炭も用意してみたから。トイレの横の建物に置いてあるから自由に使ってねえ。他の物は前と同じところにあるから」
「ありがとよ! これで1日分炭を節約っと」
「な、なあ、今バーベキューって言ったか?!」
「肉!肉!肉!肉!」
ユイは壊れて、肉連呼botになった。
「おう! 今日はたらふく食えや!」
「や、やった! 久しぶりだなバーベキューなんて」
「肉!肉!肉!肉!肉!」
「ちゃんと野菜に、海老も用意したぞ」
「おお! 俺エビも好きだ!」
「肉!肉!肉!肉!肉!」
ロックが手際よく準備し、炭に火をつける。ユイはずっと肉と言っていた。網に豚トロがのり、炭に脂を落とし燃え盛る。
そこからはずっと楽しい時間だった。みんなで楽しく野外でバーベキュー。ユイと肉の取り合いをしたりもするが、俺の好物のしいたけには興味無いらしくすんなり手に入った。ロックは缶ビールでほろ酔いになりながら肉を焼く。素敵な時間だった。
そのあと、すっかり暗くなってしまったのでかなり手こずりながら、忘れていたテントを設置した。女子なのでユイは1人で1つテントを使い、俺たち男2人は同じテントだ。それは良いが同じサイズのテントなのが気にくわない。ユイのわがままが押し通った結果だった。
焚き火を囲いながらユイの入れた紅茶を飲む。周りのキャンパーも似たような感じだ。
「いやあ、今日は美味かったな! ま、これでしばらく肉は食えないからしっかり栄養に溜め込んどけよ」
「え」
「そうなのか」
「ええええええええええええ!!!!!」
「ユ、ユイ静かにしろ! どうしたんだ、周りの人に迷惑じゃ無いか!」
俺とロックが周りにペコペコ頭を下げる。
「ど、どうもこうも、明日からお肉食べれないの!?」
「だ、だって腐っちゃうぞ?」
「でもクーラーボックスがあったじゃん!」
「クーラーボックスだってずっと冷やせるわけじゃ無いんだ」
「うええん。肉がないなんてあたし生きてけないよぉ」
「ま、まあ落ち着けよ。そうだ! 干し肉ならあったぞ、全部お前にやるから。な!」
「干し肉美味しくないもん……」
ユイは泣きながらテントに引っ込んでしまった。
「ハハ…… 仕方ないよロックこれは。まあ、ドンマイ」
「あのお嬢様、明日からぜってー機嫌悪くなるぞ……」
そして俺たちは2人だけで後片付けをすることになった。
この時無関心のような態度をとった罰だろうか、明日俺は地獄を見るのだった。
三連続平和回です。
つまりあと二回は戦闘無しです。




