俺は多分能力持ち
肌寒さを感じて眼が覚める。
ここはどこだろう。
大きな窓だ、外を見る。遠くはどんよりと曇って今にも雨が降りそうだが、太陽の周辺だけは雲がないので晴れている。
俺の身体に何か刺さっている。点滴だ。そして清潔感のあるクリーム色の布団。
おそらくここは病院だろうが、それにしてはベッドは木でできているし、地面も木のタイル。壁のペンキは少し剥がれているし、テレビや冷蔵庫も無い。
扉が開く
「お、お目覚めかね。おはよう」
気の良さそうなおっちゃんだ。きっと医師だ。俺はこんな医師を見たことがある。
そう、確か金曜の深夜番組によく呼び出される医師、あの人にそっくりだ。
そんなことを考え込んで黙ったままな事に気付き慌てて挨拶を返す。
「あっ、おはようございます」
「まあもう昼なんだけどね。気分はどうだね?」
「肌寒くて眼が覚めましたよ」
「ああ、今服を誰かに用意させてるんだけどね、なかったらすまんね」
「へ?」
かぶっていた布団を少しめくる。
たしかに裸だ。しかしそれより大きな事に気付いて思わず大声をあげる。
「なんだこれは?!」
俺の腹にはデッカくヒビが入っていた。窓ガラスに何かぶつかったみたいに一点から5、6本デッカくヒビがあって他にも小さくたくさんある。
気付いてなかったが左腕にも腹ほどのヒビでは無いがガッツリとヒビが入ってる。
「ああそれね。顔にも1、2本ヒビ入ってるからね。古傷みたいだけどね、特に問題無かったからね」
俺の反応に対しておっちゃんの対応は冷静だ。
俺も腹のヒビを触ってみるが特に痛くも無い。そして自分の身体に違和感を覚える。俺の身体ってこんなに……
「それでね、僕お医者さんなんだけどね、君意識なかったから運ばれてきたんだよね。村外れで倒れたらしいね、裸で。何してたの?」
おっちゃんはやっぱり医者の先生らしい。先生に怪しむ顔で質問されてしまったが全く記憶が無い。このままでは変態の不審者と思われるかもしれないが正直に答える。
「その、昨日普通にやる事やって寝て、起きたらこんな感じになってて、なんにも覚えてないって言うか……」
「はあ、記憶は無しっとね。まあ知り合い探すから名前だけ教えてね」
「はい。島村和泉です。あ、漢字は和って書いてから泉です」
「はいはい和泉くんね。漢字の名前って珍しいね。んまあ、とりあえずいろんなところに連絡してみて、なんかわかったら教えるからね」
ようやく語尾にねーねーうるさい先生もドアに向かって歩きどこかに行ってくれそうだが、それは叶わなかった。
「あっ、あとねえ……ね?!」
何か言い忘れたことを言おうとしたのだろうが、こちらをしばらく見つめたあと、驚きの声をあげる。ってビックリした時も『ね?!』って言うのかよ。
「ね?! 君なんかした?!」
「いえ、何も……」
この先生は『え?!』って言えないのか。あと何に何をしたのかぐらいキチンと尋ねてほしいし、何にそんなに驚いてるんだ。
思わずそんな気持ちが顔に出てたのか先生が答えてくれた。
「いやね、キミ栄養不足に水分不足も見られたから点滴しておいたんだけどね、1時間で終わるようにしといたのよね。でも、まだ点滴始めて15分たたない程度しか過ぎて無いのよね」
俺が点滴の袋を見ると点滴は既に空だった。確かさっき見たときは入っていたはずだ。
「ええっと、何かミスでもしたんじゃ」
「いやね、こういうことはシッカリ確認してるのよね、時には死に繋がるからね、ここも病院なわけだし」
「はあ」
「だからね、キミの身体が吸い取ったとしか考えられないのよね」
「はい?」
どうやらハズレの先生に当たってしまったらしい。まさか患者に責任転嫁するとは。少し呆れながら俺は言う。
「そんなことホントにあるんですかぁ?」
「普通の人なら無いけど。あるのよね、能力持ってる人なら」
「能力?はい?何言っってんすか?」
思わず話し方が悪くなる。能力?物語の中の話か?ここは現実だぞ?しかし先生は俺より呆れ驚いた顔をして言う。
「能力も忘れちゃったのね!これはもう何を覚えてるか分からないな。とりあえず1から教えるよ」
「え、はあ。ありがとうございます?」
俺は大人しく話を聞く事にした。俺は期待してしまったんだ。非日常に。
昨日までの俺は普通の高校生で……何年だったっけ、おかしい覚えてない。でも1年ではC組、2年はB、3年はA。それは覚えてる。でも自分が何年かは覚えてない。部活もだ。毎日のように打ち込んでた部活の事も覚えてない。何部だったっけ……
中学までのことはハッキリ思い出せるのに高校からの事が思い出せない。
でも、わかることがある。昨日までは普通の高校生で休み時間に友達と昨日のアニメの話をしたり、授業中に隣と喋りすぎて先生に問題を答えさせられたり、昼休みに何かを賭けてトランプしてたり……
とにかく普通の男子高校生だから憧れ、期待してしまったんだ。あのアニメの異世界や、あの漫画の超能力バトルに。
だから俺は先生の話をしっかり聞く。
「まずね、能力持ちは三種類に分かれるのね。低能力、中能力、高能力の三種類。もちろん高い方が強い。んで全員とにかく身体能力が強化されるのね。回復能力も異常に高いし、エネルギーも溜め込めるのよね」
「じゃあ、その回復能力の高さで、勝手に点滴を吸い取ったと?」
「そゆことね。よくわかるじゃない。でもね、真の能力持ちは高能力持ちだけなのよね。低中能力持ちなんて彼らと比べるとただの超パワー筋肉ダルマだからね。うちの村にも低能力持ちがいるんだけど、農作業や建設なんでも役に立ってくれるのよね」
高能力持ち以外はすごく強い肉体を持ってるだけみたいだし、そこまで珍しいってわけでも無さそうだ。
なら高能力持ちの事が聴きたくて思わず急かしてしまう。
「じゃあ高能力持ちは何ができるんですか?」
「ああ、高能力持ちはね、言ったら特殊能力を持ってるのよね」
「特殊能力?」
「そうそう。私も見たことないけどね、すごく強いし、低中能力持ちやスーツ着た奴らが束になっても勝つのは厳しいことが多いらしいね」
話を聞いてるだけでワクワクしてくる。なんたって俺が能力持ちなのだ。高能力なら言わずもがな、低中能力でも努力と工夫で高能力持ちを倒すサクセスストーリーを作ることができるかもしれない。
そんな気分で妄想に浸っていた俺にも聞こえるデカイ声が部屋に響く。
「大変です村長!!」
「なんだね」
どうやらこの先生は医者だけでなく村長でもあったらしい。今部屋に来た若者に対して村長は凄く落ち着いている。
「あいつらが取り立てに来ました! いつもより3人多いです! 村人も男が3人殺されて女が2人取られました! あいつら本気ですよ!」
「ねねぇ?!?!」
落ち着いていた、過去形になった。今はすごく取り乱している。だがそんな中、俺は笑みを浮かばずにはいられなかった。しかしまずは事態の把握だ。若者に聞くより村長に聞く。村長の方がまだ冷静に答えられるだろう。
「何があったんですか?」
「いつもうちに取り立てにくる中能力持ちの蛮族、いつも手下に低能力持ち2人だけなんだけどね、今回は5人でしかも被害者がもう5人も……しかしこの村にももう食料は無いしね、この村はもう……」
「つまりあなたたちはただの被害者ってわけですね」
「な、何を言っとるんだね君は。な、な、なんで笑っとるんだね?!」
俺は布団をはねのけ、ベッドから降り立ち、腕を組み、足を肩幅ほど広げる。そして自信満々の顔で言う。
「相手が能力持ちなら、(おそらく)能力持ちの俺に任せやがれ!」
「……」
「……」
2人が俺を見つめる。
「キミ、服を着てから言ってはどうかね」
熱いバトルを書こうと思い書き始めました。
次回は少し主人公がイタいです。
ちゃんとしたバトルは4話からです。