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「沼田さんの死体を調べたのは狩場さんでしたよね。どうでした?」


「首から下に傷らしきものはなかった。多分、頭部をやられたのだろう」


「とするならば、なぜ、沼田さんは頭部を隠されたと狩場さんは考えます?」

「銃だろうな」


「その銃ですが、井田さん。沼田さんの部屋と中井さんの部屋に有りましたか?」


 井田《怒り》が言った。「無かった」


「部屋ではなく、沼田さん自身はどうです。部屋でなくとも沼田さんは大切に身に着けていたのかもしれません」


 おれは間違いなく、沼田の体をしっかり調べた。「いいや」


「つまり、犯人が持って行った可能性があると言うことですね」


 とするならば、おれも問わなくてはならない。「近藤。死人が銃を使用していない場合、銃は回収されるのか? どうなんだ?」


「ルールによりますと」 近藤が言った。「いえ、これは我々どもでは裏ルールと言っているものなんですが、回収はしません。見つけた者勝ちです。ですから、殺しておいて奪うっていうのもありです」


 やはり、と思った。犯人の目的は銃弾なのかもしれない。そして現時点、犯人は自分のも含め銃弾を三つ持っているって可能性がある。


 大家《貪欲》が言った。


「七対一で俺らが優勢だと思ったら、これはとんだ大誤算だ。銃弾でいうと四対三。それにルールだ。主人が殺されれば従者は自動的に消される。ってことは、まずいぞ。犯人と我々の力関係は拮抗してきている」


 井田《怒り》は当初からその計算は出来ていた、ってことか。大家《貪欲》や田中《姦淫》と違って、従者がいないのだ。頭数で敵わないなら、と考えるのは当然だ。


 小西が言った。


「まだ、犯人が銃弾を三つ持っていると決めつけるのは早計です。たった一個かもしれないのです。皆さん、銃声を聞きましたか?」


 犯人は自分の弾丸をまず使い、死んだ者から弾丸を奪って、それをまた使っているっていう可能性もないわけでもない。逆を言えば、弾を補充するために人を殺している。


 だが、と思った。「銃声は聞いていない」


 リビングルームの面々は揃いも揃って頷いた。絶望感が丸出しだった。皆、こわばっている。


 小西が言った。


「と、いうことは、犯人は殺害に銃を使わなかったということですか? 例えば、枕を銃口に当てるとか、羽毛布団を拳銃に巻いて撃つとかすればサイレンサーの役割を果たすんじゃないでしょうか。銃声は小さくなる」


 それについて、おれは多少知識がある。「テレビで見た。ある事件でその犯人は銃を使用したんだが、銃声はしなかったらしい。それで番組は枕やら布団で事件を検証したんだが、音はほんの少し小さくなっただけ。結局、番組は犯人をプロと結論付けた。銃声が聞こえなかったのは、暗殺目的に使用する高性能サイレンサーを犯人が使用していたってわけだ」


 井田《怒り》が言った。


「少なくとも布団も枕も、ソファーのクッションも、無傷だった」


 中小路《怠惰》が言った。


「撲殺だろうな。部屋にいくらでも凶器はある」


 小西が言った。


「中井さんの遺体はどうでしょうか? やはり撲殺でしょうか?」


 中小路《怠惰》が言った。「沼田さんと違って何も無いんだ。刺殺と言うのもあり得る。あるいは、中井さんは抵抗したんじゃなかろうか? それで体中、殴打の跡があったとか。どちらにせよ、犯人はきっと遺体の傷をみせたくなかったんじゃないかな」


 小西が言った。


「つまり犯人は、どういう訳か殺害方法を隠したかった。なるほど、沼田さんと中井さんの遺体がなぜ、ああなっていたか、理屈が通ります。悪魔像で不安を煽って、しかも銃弾でも迷わせる。銃声を聞いていなかったという皆さんの証言を聞けてほっとしました。個々で対処していたら、我々はまだ迷っているところでした」


 大家《貪欲》が言った。


「なにが迷いだ。普通、最悪のケースを想定して動くってもんだろう。おれは迷いも何もない」


「そのようですね。社長の態度は終始一貫なされている。さて、ここで、わたしからの提案です」 そう前置きすると小西は言った。「どうでしょうか。皆様の銃を今この場で確認するというのは」


 なるほど、とは思った。現状をきちんと把握するならば必要なことだ。だがそれは、正直に弾を見せたら、の話だ。仮に犯人が拳銃に一個だけ残して、他はどこかに隠してあるということだったら、どうなるのだろうか。きっと小西の提案は逆効果となる。


 銃に弾が一発も残っていないって場合でなら、小西が言うような確認が有効なのだろう。そんなケースは有り得ないのだから。


 犯人は一人で二人を殺しているという可能性が大きいところからして、中井《高慢》と沼田《貪食》に各々拳銃を使ったとしても、弾は死者から順次補充されていて、まだ一発、犯人の拳銃には弾が残されている。無いって場合はない。


 あるいは、犯人が二人だったら。


 その可能性は否定できない。だが、それでも二人の犯人の銃にはそれぞれ弾が一個あるはずだ。殺した相手の弾を奪えばいいんだからどの銃にも弾が無いということはない。


 さて、皆はどう出るか。ほぼ全員、神妙な面持ちで小西を見つめている。唯一目線を下げていた中小路《怠惰》が言った。


「わたしは別段構わないが、銃を持つ全員が君の提案を承諾するのか? 一人でも出さないと言うなら、わたしは君の提案を飲めない」


 大家《貪欲》が言った。


「俺も問題ないが、小西。果たしてお前の提案は意味があるのか? 俺はあるとは思わない。よくよく考えてもみろ。お前の提案は今までの会話を全て台無しにしているんだ。犯人は銃を使っていない、それは間違いなかったよなぁ」


 井田《怒り》が言った。「なら、弾が多いやつが犯人だ」


 大家《貪欲》が言った。「はぁ? なら、なおさらだ。犯人の野郎は俺達を惑わすために首を刈るほどのイカレポンチだ。そいつが銃に幾つも弾を入れて持ち歩くか? ま、俺らの数が今の半分になったら、そいつはそうするかもなぁ」


「確かに、社長の意見はごもっともです」 小西が言った。「では、ここから、沼田さんの首を胴からな切り取った凶器について話を移します。今さっき、状況説明の時に宗教家の間のノコギリが無くなっていたと話しました。それがその凶器なのではないでしょうか?」


 誰もうなずかなかった。ノコギリで人を殺すなんて至難の業だ。小西が続ける。「違う、と皆様もお思いでしょう。わたしもそう思います。だったら撲殺としましょう。あるいは絞殺かも。だが、それに使われた何かは、元あった場所にちゃんと戻されていた。ではなぜ、ノコギリだけを犯人は持ち去ったか。因みに中井さんの部屋にはちゃんとノコギリがありました」


 誰も答えられない。誰かが唾を呑んだら聞こえて来そうなほどリビングルームは静まり返っていた。その沈黙を、司会者の小西は放置しなかった。


「狩場さん、お考えはありませんか?」


 おれに振るかぁ。「無い」


「そうですか。致し方ない。では、ノコギリの問題は保留と致しましょう。次に進みます。犯人は我々を恐れさせるため、あるいは銃弾の行方を惑わすため、死体を切り刻んだのですが、その後の行動をどう見ます。まずは沼田さんの事件から」






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