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 これはデスゲームなのだ。相手を押しのけてでも、生き残らなくてはならない。そしてその点で言うと、大家敬一《貪欲》は一歩も二歩もリードしていた。黒田や小西を含め、三人の運命共同体が出来上がっている。


 言うまでもなく、大家《貪欲》の目論見はそのための従者の勧誘だったし、八人のうちの二人であった時と比べれば、全体のバランスからいって当初の二人とは雲泥の差なのだ。それに、死者はまだ増えていくだろう。日が経つにつれ、人が死んでいくにつれ、三人という強みは、敵対している者たちへ重く圧し掛かって行く。


 一方で、ほぞを噛むのは日本原子力開発機構理事長の橋本稔《妬み》である。一緒にこの洋館に来た西田和義をゲームの開始以前に失っている。悔やんでも悔やみきれないだろう。その橋本《妬み》が言った。


「なるほど、大家さんの考えはもっともです。なんていうか、あなたは見上げたお人だ。先を読んでいらっしゃる。正直、感服致します。ですが、あなたは重要なことを忘れてらっしゃる。ここにわたしという人間がいるということです。国家は必ず、この洋館をつきとめるでしょう。国家の威信を掛けて、それも二、三日中に。残念ながら中井さんは亡くなりました。そのうえ、このわたくしまで亡くなったとなると、どうでしょう。警察が乗り込んできて生き残っているのはあなた達だけ。そして捕まったマスターと呼ばれる男が言うのです。大家敬一が皆を殺したと。あなたはどうやって申し開きをするのです」


 大家敬一《貪欲》が言った。


「その二、三日が問題なんだ。もしかして四日、五日掛かるかもしれない。それに俺はこう思うぜ。俺たちはもう一日ももたないと。その考えは極端かもしれない。が、明日の朝には勝負が付いているっていうこともあり得るんじゃないか。よく考えてみろ。最悪、犯人はマスターって男かもしれないんだぜ、なぁ狩場さん」


「確かにその可能性は否定できない。だからこそ、誰が二人を殺したか、今ここではっきりさせようじゃないか。協力し合う、し合わないはその後で決めたらいい」


 橋本稔《妬み》が言った。


「なるほど、狩場さんのおっしゃる通りです。しかし、その台詞は小西さんが言いたかったことでしょう。彼は優秀だ。かわいそうに大家さんがあの調子だから、使われている小西さんは言いだすことが出来なかった。小西さんのお顔を拝見していてわたしはそう感じました。で、わたしに提案があります。中井さんと沼田さんの件は、小西さんに議事進行を求めたいんだが、皆さん、どうです?」


 大家敬一《貪欲》と相棒の黒田洋平が眉をひそめていた。橋本稔《妬み》は小西明を引っ張り出すことで大家《貪欲》らの、この会議からの離脱を阻止しようとしている。それは誰の目にも見え見えだった。


 とはいえ、そんな姑息な手で大家敬一《貪欲》と黒田洋平を止められるはずもない。なぜならばおれの経験から、この二人は何癖の達人だと見た。困ったのは当の小西明だ。


「いいえ、わたしなぞは。狩場さんは探偵なんだし、わたしは狩場さんがその役目に適任かと」


「いいえ。わたしも小西さんが適任だと思うわ」と、田中《姦淫》が言った。「この男は野蛮すぎるわ。カッとしたら黒覆面の男だろうと殴りかかってしまう。もし仮に黒覆面の男を殴り倒していたらどうなった? わたしたちにまで巻き添えをくったわ。そんな後先考えない男なのよ、この男は。カッとすれば、わたしたちにだってきっと殴りかかってくるわ」


 大家敬一《貪欲》と黒田は笑った。芸能人田中美樹《姦淫》の従者であるはずのおれはというと、田中美樹《姦淫》が座っているテーブルにはいなかった。井田《怒り》や橋本《妬み》と同じのように一人でテーブルを独占していた。腕を組み、椅子を目一杯後ろに引き、足を組んでいた。因みに田中美樹《姦淫》はおれの隣のテーブルにいて、中小路雅彦《怠惰》と寄り添っている。


 大家敬一《貪欲》が言った。


「狩場君。そこはつまらないだろう。俺の方に来ないか? 悪いようにはせん」

「お断りだ」


「すげないじゃないか。ちょっとは悩んだらどうだ」

「何を悩む? あんたらのところへはいかないし、進行役なんてまっりらごめんだ」


 大家《貪欲》の相棒黒田が言った。「お前、何か勘違いしているんじゃないか。こっちはお前がかわいそうだから声を掛けてやっている。他の者も聞いとけ。俺たちはここに居てあげているんだ。今すぐここを引き上げてもいいんだぞ」


 田中《姦淫》も井田《怒り》も橋本《妬み》も、黒田を睨みつけていた。それで、やつらが結束したらうまくない、とでも大家敬一《貪欲》は思ったのだろうか、言った。


「黒田、そこまでにしておけ。小西、話を進めろ」


 世慣れている。引き際も見事という他ない。命じられた小西明はというと、おれに向けて軽く一礼すると立ち上がり、マリアの絵の前まで行った。


「わたしが選ばれたのであれば、わたしのやり方で議事進行させてもらいます。それに異議が御座いませんか?」


 誰も答えない。それを異論がないと受け取ったのだろう、小西が続けた。


「では、まず議論の前にどういった考え方で進めていくかを皆様に問います。ただ闇雲の議論を戦わせていてはうまくない。そうですよね? ですからここで方針を決めます」


 また、返答がない。小西は構わず言う。「ここでは動機は問わない。御承知頂けますか?」


 大家敬一《貪欲》が言った。


「当然だ。皆に殺す理由がある」

「そうです。次に、個人への質問ですが、質問をされた方の黙秘権を認めます」


 教師の井田勇《怒り》が言った。「はぁ? 意味が分からない。俺だったら絶対に認めん」


「まぁ、最後まで聞いて下さい。質問をされた側は曖昧な答えはなし。分からないなら分からないと言ってください。あるいは、黙っていてもいいです。どう転んでも、硝煙反応とか死亡時刻とかDNA型鑑定とか科学捜査は我々には出来ません。犯人特定方法は推理のみです。質問に困って適当なことを言われる方がよっぽど推理に混乱をきたします」


 井田《怒り》が言った。「分からないなら分からないっていうのは認める。黙秘は分からないということにする。だけど、それでは犯人に隠ぺい工作されるかもしれない」


「先ほど言ったように、推理のみですから、硝煙反応とかDNA型鑑定とか決定的な証拠がありませんし、そうなれば犯人の自白が絶対不可欠なのです。が、それは見込めないでしょう。ですから、ここでは犯人と特定された者の反論は無視します。推理から導き出された答えだけが絶対だということ。そして、我々は議論し尽くすことによって、導き出した答えに力を与える。つまり、ここでの話し合いは、犯人意外の全員から、その答えに対しての賛成を得ることを目的とします。よって黙秘は犯人以外の者の心証を害し、事によっては犯人にされる恐れがあるから結果的に不利となります」


 白でも黒と全員が決することもあり得るということか。まるでリンチだ。


「余計、おれたちはいがみ合うことになるんじゃないか?」







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