追いかけっこ
4時間目終了のチャイムが鳴った。
これから昼休みになる。
昼休みになればカウンター当番の人も来るだろうと思って、席を立った。
トイレに行きたかった。お腹も空いたし、ご飯にしたい。
流石に図書室の中は飲食禁止だ。僕が住んでいる世界なら、図書室の外に飲食ができる場所があるんだけど……いや、まずはそれよりもトイレに行きたい。
外に出てトイレに駆け込もうとして……慌てて止まる。
……男子トイレが、ない。
そう、僕が今まさに駆け込もうとしたのは、まさかの女子トイレだったんだ。
——これも、並行世界だからこそなんだろうな。僕が住む世界には、この階に男子トイレも女子トイレもある。でもここは、女子トイレだけらしい。……なんて考えてる場合じゃない。
慌てて1つ下の階に降り、男子トイレを見つけるやいなや、駆け込んだ。
ふう、危なかった……。
トイレの外に出る。そして、図書室へ取り敢えず戻ることにした。
ドタドタと騒がしく廊下を走る音がする。
「——早く! 食堂、列になるぞ!」
「待ちなよ! 走ったって唐揚げカレーは逃げないって!」
その声に、思わず凍りつく。
その声の主たちは、ドタドタと階段の前を走り去って、階段を駆け降りて行く。
恐る恐る、振り返る。
もう、あの声の主はいなくなっていた。
そう。もう1人の、僕は。
不意に固まっていた体が動き始めた。
図書室へと慌てて駆け戻り、図書室前に軽食が撮れる場所があるのを確認した。
そこに弁当を持ち出して、昼ごはんを食べる。
いつもと変わらないおいしい弁当を食べ終わり、ご馳走さまを言った。
図書室の中に戻ると、司書さんが戻ってきていた。図書委員のカウンター当番らしき人はいない。もしかしたら、この世界にはカウンター当番が存在していないのかもしれない。いや、単に今日はたまたま来れないだけかもしれない。分からない。
そんなことを気にしていてもしょうがない。
僕は図書室にあるパソコンを使って、ネット小説サイトを見始めた。本当はそのサイトのユーザー登録もしているけど、ログインできない可能性もあるからログインはしなかった。
夢中になってネット小説を読んでいると、不意に、声が耳に入った。
「これ、返却お願いします。あの漫画、新刊入りましたか?」
「ええ、入りましたよ」
僕は、ちらりとカウンターの方を見る。
まずい。
漫画の棚は、このパソコンがある机の近くだ。
どうしよう。
このままじっとしているか、それともどこか単行本か何かの棚に紛れ込むか……。
僕は後者を取った。
急いでブラウザを閉じて、単行本が並ぶ棚へと、静かに移動を始めた。幸いにも、棚の位置的にカウンターや漫画の棚から背を向けて移動が出来る。顔は、見られない。
よし、そのまま棚に紛れ込め。
単行本が並ぶ本棚が立ち並ぶ場所についた。その中に姿を隠す。
……よし、これで多分見つからない。
——ぽん。
「……ねえ、君」
振り返る。
息が、止まる。