暇つぶし
一瞬、固まった。
だけど、僕は振り返っていない。顔は見られてないはずだ。
そのことに気付いた僕は、その可能性にかけて、資料室の中に入った。
「あれ? 今あっちに入ったの、誰?」
「ん? ……知らない人」
「あ、そうなんだ」
あきのんがうまくごまかしてくれた。
ありがとう、あきのん。
その声は聞き慣れているはずの声だった。
だって聞こうと思えばいつでも聞ける声だから。
だけど聞き慣れない声だった。
だってその声の発生源が僕ではないから。
扉を1枚隔てた先に、もう1人の僕がいる。
しばらくあきのんとりんりんは会話をしていたけど、りんりんが「じゃあ、もう行くね」と言った。
あきのんが「うん。じゃ、頑張って」と言った声も聞こえた。
ガチャリという音。
その音を聞いてから、しばらくじっとしていた。
「……もう大丈夫だよ」
あきのんの声がして、僕は資料室から出る。
「ふう、びっくりした」
思わず呟くと、あきのんがクスクスと笑った。
「さ、戻ろ! もうみんないないよ。いつまでもかくれんぼしてるわけにもいかないでしょ?」
「そうだね。ところで、次が3時間目かな?」
「んー、そうだね」
まだまだ1日は長そうだ……。
3時間目も図書館で本を読んで過ごした。
しかし、3時間目終了のチャイムが鳴った、その時。不意にあきのんは荷物を背負い上げた。
「じゃ、授業に戻るよ」
その言葉に僕は目を丸くしていただろうな。
「えっ、教室に行くの?」
「行くよー。サボるのは週に1、2回だけだし、いつも2時間目か3時間目の後には教室に行ってるんだ。流石にずっと休んでると単位足りなくなるしね」
「……ああ、そっか」
そう言われてみると、確かにそうだった。
「それじゃ、またね」
「うん、またね」
あきのんが、いなくなる。
はぁ。
これからは1人で時間を潰さなければ……。
司書さんはいつの間にか、会議か何かで出て行ってしまったようだった。貸し出しや返却をするカウンターは空っぽだ。
ならば、僕が当番をしようと思い付いた。
机の上には返却手続き待ちと思われる本が積まれていた。あと、一枚の紙も。多分、そこには学年やクラス、名前とともに借りた本のバーコードの下5桁ぐらいが書いてあるのだろう。
返却手続きも、貸し出し手続きも、やり方は知っている。僕はこれでも、一応図書委員だ。それにどうせ、時間は有り余っている。
カウンターに入ってコンピューターをみてみると、貸し出しや返却に使うソフトは同じだった。手順も一緒。貸し出し期間やルールも同じだ。
うん。やれる。
僕はカウンターの席に座り込んだ。
授業中とは言えども、ブランクのある人がカウンターに何人かやってきた。
「返却お願いします」
「はーい」
「あの……貸し出しで……」
「分かりました。——あ、期限切れの本がありますから、なるべく早めにお願いしますね」
「は、はい……」
今のところは、何も問題ない。
僕はカウンターで1人、時間を過ごし続けた。