お互いの違い
「ねぇ、凛も室内楽なの?」
「うん。チェロだよ」
「そこはりんりんと一緒なんだね。部長は誰?」
「部長? ……僕の暮らす世界では明が部長だよ」
そう、明が部長だと言うこともあって、最初、明が……正確にはあきのんがここにいた時、驚いたのだ。
「……そうなんだ。それはこっちと違うみたい」
「そうなの? 他の人が部長をやっているのを想像できないなぁ」
僕がそう言うと、あきのんはくすりと笑う。
「……張本人がそんなこと言っちゃって」
「……えっ?」
言葉の意味が理解できない。
今、あきのんはなんて言った?
「だから、こっちの世界での部長は、りんりんなんだよ」
「えっ⁉︎」
正直、これには驚いた。
思わず大きな声を出してしまい、池内さんに「静かにね、向田さん」と言われ、自習中の人に睨まれた。
思わず僕は、「すみません」と頭を下げた。
今度は小声で、あきのんに話しかける。
「本当に、りんりんが部長なの? なんか……なんか信じられないんだけど」
「本当だよ。頼りない部分はあるけど、思いやりのある優しい部長だよ」
「……そっかあ」
僕は呟くように言って、そばにある棚からお気に入りの漫画を取り出した。
別世界の自分が部長を務めているなんて、少し不思議な気もするけど、悪くはないかもな、なんて思いながら。
僕が今手に取ったのは、異能アクションバトルの漫画だ。僕がいつもいる世界ではまだ発売されていない新刊が発売されているのか、見覚えのない表紙に、僕の暮らす世界の最新刊の巻数に1つ足された巻数が書かれていた。
ちょっと先取りして読めるのがうれしかったけど、その少し後に、僕の暮らす世界のこの話とは展開が違うかもしれないのか、と気付く。
実際、何故だかストーリーについていけないところがあったから過去のものを読み返してみた。するとやはり、少しずつ展開が違っていた。登場人物も微妙に違う。でもこれはこれで、面白い。
僕の他に、別世界のこの物語を読める人なんて、なかなかいないだろうな。
漫画をちょうど読み終えた時、司書さんが僕の方に近づいてきて、言った。
「……並行世界の向田さん、ちょっと準備室に隠れたほうがいいですよ。秋野さんも。次の2時間目は2-1の人がここを古典で利用する予定なんです」
「分かりました。でも、暇つぶしに本を持っていきたいんですけど……」
「大丈夫ですよ。まだ1時間目が終わってませんから、今のうちに選んでくださいね」
「はーい」
司書さんの言葉を聞いたあきのんは、そう軽く返事をして、単行本が置いてあるあたりへと軽やかに歩いて行った。
「分かりました」
僕はそう答えて、文庫本が置かれているあたりに向かった。そして、先程の漫画の外伝本を1冊と、好きな作家の本を1冊取った。
授業終わりのチャイムが鳴る。
あきのんと僕は図書準備室に隠れ、お互いに本を見せ合った。
「へえ、凛はそういう本が好みなんだ」
「あきのんも。明とは好みが違って面白いな」
あきのんが選んだのは、今年の本屋大賞ノミネート作のうちの2冊。
「しかも両方、本屋大賞ノミネート作だなんて」
「……へ? 本屋大賞って?」
——どうやらこの世界には本屋大賞は存在していないらしく、僕は本屋大賞について説明する羽目になった……。