異変
学校に着いた。
昇降口に入った途端、何かがおかしいぞと思った。
今日は創立記念日、つまりは休校日、だよな?
慌てて僕は上履きに履き替えて、近くの教室を伺いみた。1番近い教室——1年1組の様子を。
国語の先生が何やら黒板に書いてある内容と関係のない雑談を始めている。
授業が行われているのだ。
どうして?
今日は創立記念日なのに。
だから休校のはずなのに。
そこまで考えて、僕は焦った。
待って、授業があるのなら早く教室に行かなきゃ。そして授業に参加しなきゃ。
僕はなるべく静かに、でも急いで階段を駆け上り、ホームルームクラスの2年1組のクラスに向かった。
ところが、教室の様子を伺おうとした時、
「じゃあここは……向田に読んでもらおうか」
「はい」
不意に中から、男の人の声が聞こえた。
そしてその声——僕の声が、世界史の教科書を音読し始めた。緊張するとなぜか声が少し低くなるところも僕と同じだ。
しかも、向田……それは僕の名だ。僕の名前は向田凛。
この高校の2学年以外で向田と言う人はいない。ならば教室にいるのは、一体誰なのだろうか?
はっとした。
まて。
もしも今、向田凛と言う人が、2人存在しているのなら……それは大騒ぎだ。
一旦、隠れなきゃ。
どこに隠れればいいかと考え、不意に思いついた。
そうだ、図書館に行こう。
ブランクのある生徒だと思わせればいい。
……まあ、2年生にブランクなんてないけど、なんとか誤魔化そう。
僕はそう思って図書館へと向かった。
図書館に着いた。
戸を押して、中に入る。
戸の向かい側にある椅子に、一人の女の人がすわっている。女の人は本から顔を上げる。
「——ああ、りんりん。珍しいね。どうしたの?」
いつも僕が『明』と呼んでいる、秋野明。
同じクラスで、同じ部活の子だ。
「——?」
おかしいぞ、と思った。
なぜなら、明は普段、授業をサボるような人じゃないからだ。僕と明は同じクラスだからよく分かる。
そして、おかしいと思ったのにはもう一つ理由がある。
それは、僕の呼び方がいつもと違ったからだ。いつもみんな(明も含む)は僕のことを『凛』と呼ぶのに。なんで明は今、僕のことを『りんりん』と呼んだんだ?
「……明こそ、何でここに? あと、いつもと呼び方が違うけど、どうして?」
僕がそう言うと、今度は明が首を傾げた。
「うちはいつも通りだけど? いつもと呼び方が違うのは、りんりんの方じゃない」
「えっ……? 僕だって、いつも通りだよ?」
2人して首を傾げた。
「——じゃあ、りんりんは、いつもなんて呼ばれてるの?」
「普通に、『凛』って呼ばれてるけど? 明は?」
「うちはいつも、『あきのん』って呼ばれてるよ?」
おかしい。
何かが、おかしい。
「……授業は、サボり?」
「当たり前じゃん。いつも通りでしょ?で、何でりんりんはここにいるの?」
「……僕?」
話しても、いいのかな?
いや、話さないと拉致があかない。
「——教室にもう1人、向田凛がいるんだ。今日は創立記念日だから休みだと思って、それでも部活があるから来て……そしたら授業やってるし、僕がもう1人いるし……」
すると、明は目を丸くした。
「創立記念日? 今日が? 今年の創立記念日はとっくに過ぎたじゃん!」
「えっ? 今日は10月23日でしょ?」
「そうだけど……創立記念日は7月13日だよ?」
なにもかも、話が食い違う。
どうして……?