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孤独

 しばらく2人で話していたが、不意にりんりんのスマホが鳴った。

 8時45分。

 もうすぐりんりんのお母さんが帰って来る。

 僕は入り口から死角になっているベッドの上に寝転び、りんりんは勉強机に座った。

 小声で会話をしながら25分。

「ただいまー」

「おかえりー」

 りんりんは席を立って階下に降りた。

 何やら話し声が聞こえて来て、しばらくした後、りんりんが戻って来た。

「母さん、今日も外で簡単に食べて帰って来たみたいだから、風呂入ったらもう寝るって」

「そっか」

 その言葉は本当で、10時20分ごろに僕がりんりんのふりをしてトイレに行くために階下に降りたら、りんりんのお母さんは既にリビングで眠っていた。


 りんりんが一式の布団をベッドの隣に敷いた。その布団には僕が寝る。りんりんは自分のベッドに寝転ぶ。2人でたわいもない話をして、それはまるでお泊まり会みたいで、楽しかった。

 だけど。

 それ(独白)は突然始まった。

「——僕の父さんは、重い病気なんだ」


「出張中って言ったけど、あれは嘘だ。父さんは病気で入院している。だから母さんが働いている。毎日、ずっと。来月からは、僕も少しだけバイトを始める予定だよ」

 りんりんは、淡々と自分のことを語る。

「お小遣いを母さんは渡そうとしてくれる。でも僕は断ってる。少しでも多く、生活費に回して欲しいから」

 りんりんは、こちらを見ようともしない。

「僕は……でも、僕はただの高校生。全然役に立てない。足を引っ張ってばかりだ。それが、悔しくて」

 声は、震えてしぼんでゆく。

「だから学校では、足を引っ張らないと決めた。役立たずじゃなくて、誰かの役に立てる人になろうと。勉強にも励んで、母さんを喜ばせようと思った。学校に行っている身としては、やっぱり本業は勉強、本業で結果を出すべきだと思ってね」

 声が、泣いている。

「だからかな。クラス委員にもなったし、室内楽部で部長にもなった。成績も悪くはない」

 クラス委員は、クラスをまとめる委員。クラスの代表者とも言える。もちろん僕は、クラス委員ではない。すごいことだ、と僕は素直に思う。

 でも、とりんりんは悲しそうに呟く。

「だけど、やっぱり僕は力不足。それを何度も感じた。いつも思うんだ。僕には何ができるんだろう、ってさ……」

 しばらく間が空いたと思ったが、次の瞬間、ははは、という変に明るい笑い声が響いた。

「なんてね。どうしてだろう、夜になるとどうしても饒舌になるんだ。だめだなぁ。ごめんね、凛」

 りんりんがこちらを見ている。困ったように。さっきまで、上を見つめ続けていたのに。

「いいんだよ。それにさ」

 僕も笑ってみせる。

「りんりんは力不足なんかじゃないさ」

 出てきたのは、意外にもしっかりとした声だった。

「りんりんは自信を持っていいんだよ」

 ——慰めなんかじゃ、ない。それは断言する。

「——そうか。そうだね」

 ようやく、りんりんは笑った。


 しばらく間が空いた。

 だけど、またたわいもない話が始まって、12時近くになった頃、ようやく眠りについた。

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