帰り道
僕はひとまず、家に帰ることにした。
もしかしたら、また朝みたいに駅で元の世界に戻れるかもしれない。
さて、帰り道で音楽でも聞くか、と思ってiPhoneを手に取って、気付いた。
「あれ、圏外だ」
全くネットが使えない環境に置かれていたということに。
普段ならこの場所で圏外なんてありえない。電波が多少悪いことはあるかもしれないけど。
おそらく、僕がここに存在するわけのない人だからなのだろう。まあ、圏外でも音楽は聞けるけどさ。
『お前は異邦人だ』
何処からか、声が聞こえた気がした。
勿論、ただの気のせいだ。そう思いたい。
だけど、本当にそう言われた気がした。
そして……声の言う通りだと思った。
僕は異邦人。孤独な旅人なのだ。
iPhoneはネットが使えないだけで、写真機能や音楽、ネット環境がいらないアプリなんかは簡単に使えた。そのことが救いのように感じた。これで何も出来なかったら絶望していただろうな。
それに、駅に行けば多分Wi-Fiがある。少なくとも、僕の暮らしている世界にはあった。それに繋ぐことができれば多少のネットも使えるだろう。それが唯一の頼みの綱だった。
もし帰れないのなら、せめて母さんに「友達の家に泊まる」なんていう嘘でもいいから伝えておかないと。じゃないと、僕が帰らないと騒ぎになってしまうだろう。
そう考えてから、ああ、明にもラインを入れておきたいと思った。部活を無断欠席したのだ。せめて「風邪ひいた」とか言わないと。心配性な"明"のことだ、僕に大量のラインを入れているはずだ。僕のiPhoneが圏外だからそれを受信できず、通知がこないだけで。
なんて考えていると駅に着いた。
ICカードをタッチする。定期券の機能は当てにならない。
ピビッ。
やはり、定期券はまた使えなかったようだ。
Wi-Fiをオンにすると、なんとか繋がった。
そしてその瞬間、通知が溢れ出しそうなほどに現れた。いや、画面上だから溢れるわけがないんだけど。
その中のほとんどのものが、明のものだった。
何も知らない人が見たら、下手したら責め立てているようにすら見えるであろう文言も、本当はそうではないと、僕は知っている。
明は責任感があって、リーダーシップがあって、でも極度な心配性。普段と違うことがあると不安で不安で仕方がなくなってしまうのだ。
「相変わらずだなあ。そこがいいところでもあるんだけど」
心配性だからこそ、いいところだってある。少なくとも僕はそう思ってる。
明に一言、LINEを送る。
『ごめん、気付かなくて。風邪ひいて一日中寝てたから、部活行けなかった』
LINEを閉じた。
次に立ち上げたのはメッセージ。
『今日、友達の家に泊まることになった』
母さんにそう送る。
僕が突然誰かの家に泊まりに行くことは、たまにある。その時は一言断りを入れてくれればいいよとだけ言われていたから、大丈夫だろう。
顔を上げると、ちょうど電車が来た。
——結局この日は、並行世界には戻れなかった。




