新たな面
5、6、7時間目は4時間目のようにカウンター当番をして過ごした。
人が来なければ本を読み、誰かが来たら貸し出しや返却の作業をする。
時間は、あっという間に過ぎ去っていった。
そして、放課後。
カウンターの上にはメモ書きが残されていた。
『今日の閉館時間は
17:30です。
17:25ぐらいに
なったら
佐藤先生が来ます。
それまで当番を
お願いします。
事情はお話し
しておきます。』
今は16:00。つまり、あと1時間半ある。
放課後になれば僕の——もう1人の僕の友達も来るかもしれない。
でも、ここまで来ると、もういいや、という気分になってきた。
もし誰かが来たとしても、その時はその時、今考えても仕方ない。そう思えた。
僕は新しい本を取りに行ってカウンターに戻り、当番を続けた。
結局、知っている人は誰もこなかった。そして、あっという間に17:25になった。
「——あら、まあ。本当にそっくりねえ」
閉館間近だからか人がほとんどいない図書室に、不意にやって来た佐藤先生の声が響いた。
「……こんにちは」
僕がそう挨拶すると、佐藤先生も「こんにちは」と言った。そして、
「みなさん、あと5分で閉館するので、本を借りる人は早めにこちらに来てくださいね」
声を張って図書室の中にいる人に言った。
ほとんどの人が本を戻し、1人だけカウンターにやって来た。僕が最後の貸し出し作業をすると、佐藤先生がそのパソコンをシャットダウンした。
「ほら、向田くんも早く出なさいよ」
「はい」
僕が荷物を持って図書室の外に出ると、佐藤先生が出てきて鍵をかけた。
電気を消す。
「ありがとね、向田くん。……にしても、そんなことってあるのねえ。並行世界から来たんでしょう?」
驚いた。
「え、あの、信じていただけるんですか?」
真面目なイメージのある、僕の住む世界では学年主任を務める先生が、こんな夢みたいなことを信じてくださるだなんて。
「あら、知らなかった? 私は魔法や奇跡が起こると信じているんですよ。並行世界があってもおかしくはないと思いますけどねえ」
佐藤先生はそう言って、茶目っ気にくすりと笑った。
意外だった。そんな面が佐藤先生にあったなんて。いや、並行世界の先生だからあるのか? 分からない。
いいや。どちらでもいい。
ただ、もしこの世界から元の世界に戻れたら、もう少し佐藤先生と話すことができたらいいな、とだけ思った。例えば、古典の授業終わりとかに。もしかしたら僕の住む世界の佐藤先生も、こんな茶目っ気たっぷりの人かもしれない。
そんなことを思いながら、僕はその場から立ち去る佐藤先生の姿を見つめ続けていた。




