幕間1:記録01
今回は別視点です。
ちょこちょこ挟むかと思います。
「ふぁ~あ。今日もよく寝たな」
朝起きるとささっと最低限の準備をすませ、愛しのお姫様の様子を見に行った。最近の毎朝の日課である。
正確には、どちらなのかさっぱりわからないのだが。
「おはよう、いつ見ても大きいねぇ。」
用紙を挟んでいるバインダーを片手に、その樹に挨拶をする。
ついこの間ここに植えたばかりだが、めきめきと育っている。
「へっへっへ今日もお嬢ちゃんの体を舐めまわすように見てやるからなぁ・・・」
「あの、主任。毎日そんなことしてるんですか・・・?」
ドン引いた声がその部屋に響いた。
恐る恐る振り返ると、セミロングで切りそろえられた金髪の女性が半目でこちらを見ている。
というか助手だった。
「おあっ!いや、今のは、その、ね、寝不足でっ、えぇと!?」
「いえ、どうぞ続けてください。私は向こうでそのお嬢ちゃんの血液を舐めまわすように見てますので。」
「ケイト君!?ちょっと、誤解だよ!?!?」
いつもこの時間にはまだ自分しかいないと思っていたため、たまたま遊んでいたのが裏目に出たようだ。
クールビューティーにそんな目でにらまれるなんてうらやましい!と一部の人には絶賛されそうだが、別にそんな性癖は持ち合わせてはいない。
彼女はこのチームのメンバーで、確か北欧かどこかの出身だ。良くも悪くもまじめで、33歳現在全く男っ気がない。
きっと研究が恋人なのだろう。
あまり俺の人のことを言えた義理ではないが。
「あーいました。主任~例の検査。全然だめでしたよ~」
気を落としながら作業を続けていると、別のメンバーがちらほら来たようだ。
「で、具体的に何がダメなんだよ。」
「いや~99%はわかってるんですけどね。残り1%ほど全くわからない成分がありまして~。」
このやたら間延びしたしゃべり方をするのは、我らがチームの一員、ダンだ。
しゃべり方はイライラさせられるが、某有名大学出身のドのつくエリートで学生時代はスポーツもやっていたためやたらガタイもいい。
さわやかなでこんなとっつきやすそうなイケメンだ、学生時代はさぞやモテたことだろう。
「1%もわからないのか?」
「そ~なんですよ。しかもそれが一部に集中している部位とかじゃなくて全体にこうもやもやっとあるんですよ。」
「もやもやって・・・。もう上も待ってはくれんぞ?」
「大丈夫ですよ。99。9999%は100%なんですよ?きっとなんてことない組織ですって!」
「いやそれ0.999999%も盛ってるじゃないか・・・まぁいい。どうせこれ以上引き延ばすことなんてできないし、お上の方にとっては100%と何ら変わらんか。一応大丈夫だと定期報告の資料を作っておいてくれ。」
「あいサー了解。」
「全く、この研究チームにろくな奴はおらんのか。」
「確かに、主任含めこのチームにはろくな人間はいませんね。研究者たるものそのくらいとがってないと面白くないのでは?」
「マーカスさん、そんなこと言ってるから嫁に逃げれられるんですよ・・・」
「・・・それを言われると全く反論できんが・・・。」
マーカスさんはこの研究所で最年長のおっちゃんだ。確か昆虫だか微生物が専門だったはず。
研究に没頭するあまり嫁に逃げられており、デスクにはいつも娘の写真が飾ってある。
「そういえばそちらに回したサンプルどうでした?」
「ダメですねぇ死骸の一匹も見つかりません。むしろこの世に存在しているのにこんなに何も見つからないのが逆に恐ろしいですよ。」
「それはそれで・・・毒性のタンパクやその他物質も見つかっていないんですよね?」
「それは確実にないといえるでしょう。実際、あの木のくずでもマウスたちは元気に暮らしてますよ。」
「そうだ、さっきダンから受け取ったこの資料なんですけど・・・」
「あら、また研究室に泊まっていたの?とってもいい匂いがするわよ?」
「おはようセシリア。さすがにお上からせっつかれてるからね。」
「全く、日本人ってなんでこんなに働くのが好きなの?そんなのほっとけばいいのよ」
「そういうわけにもいかないよ。今回はしっかり費用ももらってるのに成果が全然出てないからね。」
「そんなのは後からおいおいついてくるものよ。それに、どれだけつついてもサンプルはあの子しかないんだし、幸いなことにお上はあの子は採取時のサイズだと思われてる。今はあんなサイズになっててほかの機関にも渡せるだなんて誰も思わないわ。」
「まぁさすがに1インチだった枝がたった半年で、5フィート超えてるなんて思わないよな・・・。」
「世界でここでしか研究できないものだ。他の連中に渡すなんてもってのほかだよ。まだその兆候はないが、花が咲くのであればぜひ娘に世界に一つしかない花として・・・。」
「あーハイハイ貴重なサンプルだから勝手に持ち出さないで下さいね?」
「先ほど見かけた主任の異常性癖から言ってもサンプルの譲渡はありえないでしょう。」
「ちょっと、ケイトちゃんそれどういうことかしら詳しく。」
「いや、待て。あれは誤解でだな。」
「お?なんだなんだ?女っ気がない主任が実は異常性癖者だったってことか?俺は支持しますよ~。」
「ダン!俺は異常じゃない!お前資料まとめに言ってたんじゃなかったのか!?」
「はい。主任は誰もいないのをいいことに、早朝からサンプルをお嬢様と、呼び嘗め回すように見つめてレポートをつけていました。」
「え、マジ?それはちょっと・・・やめておこうかしら・・・・。」
「待て待て待て!ケイトはいらん誤解を与えるな!!」
「あ~主任。さすがに~人にしておきませんか?」
「誰かこいつらを止めてくれ!!!!!!」
どうやら今日も、忙しくも楽しい一日になりそうだった。
ここまで読んでいただけるだけで感謝感激雨あられです。