7:予感
「どうか、されましたか?」
ロイネさんが心配そうにこちらを見ていた。
「いえ、大丈夫です。その・・・なんか思ってたのと違っただけで。」
「なるほど、そちらの世界にはギルドはないんですね。このギルドは、王国内で一番大きなギルドになります。主にギルドへの新規登録、依頼の受注、発注の届け出などができますね。」
オレが見ていた方を察したのかサラッと解説してくれた。
「もっとこう、色々な人がざっくり集まってもっと騒がしいものだと思っていました。」
「お役所仕事になりますので、基本的にはどこも同じようなものですね。」
「お役所仕事ですか・・・。」
どんどん幻想が消えていくな。こちらが勝手に期待していただけではあるんだけども。
こちらの世界でいう、部署みたいな形で商業、傭兵、開拓、教育、研究ギルドがあるらしい。
この大分類の中にまた細かい区分けはあるらしい。
おそらく開拓ギルドが冒険者ギルドみたいなものなんだろう。
「ロイネさん、ライザさんは何かギルドに所属しているんですか?」
名前で呼んで見たがどういう反応をするだろうか。
「ロイネも私も全部登録してありますよ。」
ロイネさんの代わりにライザさんが答えた。まぁいやな顔もしてないしこのまま名前で呼ぼう。
「おかえりなさい。重複して登録もできるんですね。どうしてそんなに?」
「んーそうですね。主に趣味です。後は必要になるたびに登録していたら全部登録することになってしまいました。そうだ、コウも登録しちゃいましょうか。」
「オレが、ですか?」
「はい、どうしても私と行動することも増えちゃいそうですし、あるとほかの人への説明だったりが楽なんです。そんなに面倒なわけではありませんので、ささっと登録しちゃいましょう。」
本当に役所だった・・・。
特に何の特別感もないまま、金属板をもらうこと5度。無事全ギルドへと登録が完了した。
「これで登録も終わりましたし、街を見て回りましょうか。いえ、"でぇと"でしたね。」
ライザさんとてもご機嫌のようだ。
終始ニコニコしているが、なにかいいことあったんだろうか。
「はい。"両手に花"というやつです。周りにうらやましがられちゃいますね。」
「両手に花?」
「いえ、気にしないでください。」
「そう?じゃあ、予定通りこの国一番のの観光名所、世界樹へ行きましょうか!」
そういうと俺の手を引いて歩きだした。
おててがとてもしあわせです。指摘しないでおこう。
「ロイネも早くいきましょう。」
「はい、ご主人様。しかし、そんなに急がなくても世界樹は逃げませんよ。」
「なんだか今日はいいことが起きそうな予感がするんです。」
良い予感か。たしかに期待と違っていたからと言って、へこんでいても仕方ない。
そうそう都合のいい世界があるわけがないのだ。
どうせこんな世界に来てしまったんだし、この世界をこの世界なりに楽しんでやるさ。
◇
世界樹の下は大きな神殿チックな建物になっていた。
博物資料館のようなものを兼ねているらしく、ライザさんはさらにハイテンションだ。
さっきから展示されているものについて、言葉を切らすことなく語りっぱなしだ。
所謂歴史オタクというやつなのだろう。思っていた歴史オタクと若干違うような気はするが。
そしてついに最深部、世界樹の前へとやってきた。
最深部は、天井のない開けた空間になっており、延々と続く世界樹の幹がよく見渡せるようになっている。
幹に近づいていくと、『世界樹に触れてみよう!!』と書かれた看板が立っていた。
もう、いろいろとだいなしである。
「ここで世界樹に触れるんですよ!どうぞ触れてみてください!」
子供のようなはしゃぎっぷりのライザさんに進められるまま、ゆっくりと幹に近づいていく。
世界樹の幹は、もう幹というよりは岩壁だった。
ところどころ年輪の一部のような縞模様が見られるため、辛うじて幹という体を保っている。
ヨセミテにあるエル・キャピタンだと言われても信じてしまうだろう。無論、こちらの方がその何千倍の大きさなのだが。
この壁の感触は純粋に興味がある。案外魔法的素材だから柔らかいとかそういった可能性も捨てきれないしね。
そしてそっと、世界樹の幹に触れた。
柔らかいとかそういったことも特になかった。
なんだ見た目通り岩のような感触じゃないかと振り返ろうとした瞬間
―――――――見つけた
不意に声が響いた。
音ではなく、そう直接聞こえた。
その味わったことのない不思議な感覚に、反射的に手を引っ込めてしまった。
「・・・何だったんだ?」
「どうか・・・されましたか?」
「い、いえその静電気が・・・」
「そうでしたか、それでどうでした?初めて触ってみて。」
「なんだか岩みたいですね。見た目も、あと触った感じも」
「そうなんですよねぇ。表面を削って分析してみたんですが、全然成分もわかりませんでしたし。とにかく世界樹は、謎に包まれているんです。いつか世界樹の謎、いえ世界の謎を解明するのが私の夢なんですよ!」
「なるほど、そのためにいろいろなギルドに登録してるんですね。」
「あら、ばれてしまいましたか。」
「・・・そのため、ご主人様に同行することが多くなる私や、その他メイドも全員ギルドへ所属しております。」
「あーなるほど、だからロイネさんも全部登録していたんですね」
「大体私のわがままにつき合わせちゃってるだけなんですけどね。」
「そう思われるのでしたら、もう少し自重していただけると・・・」
普段からいろいろ苦労してるんだろうな・・・。しわが増えないといいが。
「おい、なんだ?これ」
その時、不意に誰かが空を指さした。
「これは・・・。」
「なんだこれ、桜か?」
ロイネさんが信じられないといった顔で空を見上げている。
ライザさんに至っては言葉を発することすらできないようだ。
この世界に桜はないのだろうか。
それにしても桜か。なぜかひどく懐かしい気持ちと、嬉しさがこみあげてくる。
「そんなっ・・・これは伝承にあった・・・いえ、しかし・・・・・っ!コウさん!それは!」
ん?なんだ?ライザさんは何を慌てているんだ?
「俺、何かやっちゃいましたか?」
異世界召喚されて、一回は言ってみたかったセリフ堂々の第一!!!!
言えた!言えました!!
いやいや感動している場合ではない。
ライザさんがすごい剣幕で迫ってきた。
「その花、触れられるんですか?」
そういうと、ライザさんはオレの手の花弁に触れようとした。
しかし、まるで立体映像で映し出されているかのように、ライザさんの手は花弁を通り抜けオレの手に触れた。
「・・・どうやらコウの花弁が特別触れられるわけではなさそうですね。」
「建物も貫通しているところを見ると、私たちが触れられないのではなく、コウ様だけが触れられると見たほうが自然です。」
ロイネさんが触れようとした花弁は手をすり抜け、何事もなかったかのようにハラハラと舞っている。
「なんか、気持ち悪いな・・・」
この花を見ていると、自分が自分でないような、感情をぐちゃぐちゃにされているような気分になる。
「――――見つ・・・け・・・た・・・」
先ほど聞いたばかりの声がした。
いや、この声を俺は知っている。知っているはずだ。
「教えてくれ、君は一体・・・」
振り返ると、全裸の少女がそこに倒れていた。
遅くなってしまいすいません。
ようやく話を進めることができました!
ここまで読んでくださっている方。ありがとうございます。
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