6:街
おデートです。
コンコンとノックの音が部屋に響いた。
「コウ様。準備ができましたので、下までお越しください。」
準備が出来たようだ。
「わかりました。すぐ行きます。」
部屋から出ると、メイド長さんが待っていてくれた。
先程までのメイド服と違い、長いローブを着ている。
「コウ様、こちらを。」
そういえば、なにかくれるって言ってたな。
受け取ったものは、メイド長さんとお揃いの、大きめのローブだった。多分、着ろということだろう。
「おぉ。お揃いですね。」
「そういう事ではありません。」
ですよね。即答されてしまった。
「このローブには、認識阻害の魔法が掛かっています。お互いの事は把握できるようにしてありますが周りからはそこに人がいる。程度の認識しかできないです。勿論、これを着ている状態でも、ある程度面と向かって話せば覚えては貰えますが、あくまでその人個人として認識されるわけではありません。」
魔法便利だなぁ・・・。
確かに異世界から来たとかいう常識を何も知らない変人が街中にいたら不審だし、顔も見られないに越したことはないだろう。
玄関に行くと、ローブに身を包んだ露出度-196%のライザさんが待っていた。
「では、行きましょうか。朝食は、移動中に食べてしまいましょう。」
そういえば、移動手段はどうするんだろうか。
出来ればもう少しゆったりしたものに乗りたいのだが・・・
◇
「ここが、この国の首都"カナイ"です」
車を駐車場のような場所に止め、外に出るとライザさんが教えてくれた。
ややテンション高めなのも、外に出るのがきっと好きだからだろう。
どうやらあの爆速の乗り物は普段使いするものではなかったようで、ちゃんと屋根もある車らしい車に乗せて貰うことができた。・・・車体は勿論浮いていたのだが。
カナイの街並みは予想に反してかなり現代に近いものだった。
コンクリートでできた(多分)建物に、ガラスの窓。
駐車場も道もアスファルトで舗装されているし、思い描いていた中世のような世界とは程遠いようだ。
唯一ソレっぽいかなと思ったのは、街を大きく取り囲む城壁くらいのものだった。
魔物の進行を妨げるためには必要なのだろう。
「ここから見る世界樹はもう壁ですね。」
「はい。世界樹に一番近い街ですから。あとで触れに行ってみますか?」
「え?触れるんですか?」
そういうのって、神聖だから触れられないとかそういうものだったりしないのだろうか。
「はい。最初は神聖視し、保護する動きもあったようですが、あの大きさですしね・・・・」
「なるほど、確かに規制すればするほど破りたくなるのは人の性ですからね。」
「そうなんですよ!禁止されているからこそ、やってみたくなるというか・・・」
「ご主人様。だからと言ってたびたびお屋敷を抜け出されては困ります。」
メイド長さんも苦労してるみたいだ。しわが増えないように祈っておこう。
200年くらい生きてて今更かもしれないが。
「そういえば、何しに来たか全然聞いてなかったんですけど。」
「必用なものの調達と、ちょっとした用事ですね。」
そのちょっとした用事がとても気になるんだが。
「必用なものというと?その、ほかのメイドさんにお願いするとかじゃダメなんですか?」
「いえ、私のものではなくコウのです。こうして外にでも来ないと何も言いださないと思ったので。」
大正解だ。家にいるときなら、遠慮して何も言わなかったと思う。
まぁここまでしてくれたんだ、あまり遠慮しすぎるのもよくないのかもしれないな。
「わかりました。あーでも、何が今すぐ必要とかすぐに浮かばないですね・・・この街、いえこの世界にあるのかもあまり理解してないですし・・・。」
「確かにそうですね・・・。では先に用事だけ済ませてしまいますので、それからこの町をご案内いたしますね。何か必要なものが思いついたらでいいので、その都度教えてください。・・・とはいっても案内は主にロイネにお任せすることになりますが。」
メイド長さんがしてくれるのか。
というか名前初めて聞いたな、今度名前で呼んでいいか聞いてみようかな。
「では先にギルドに行って、私の用事だけ終わらせてきちゃいましょうか。」
ギルド!いい感じだ。ようやくこの街にも、らしさが出てきたじゃないか!
確かに周りをすれ違う人達は角が生えていたり、体格がやたら大きかったり、羽根が生えていたりしている。しているけども!歩いているのはコンクリートで舗装された街中、何かの撮影現場とか言われたら信じてしまいそうなほどなのだ。
せっかくの異世界だというのにこれはあんまりじゃないか?
ギルドというくらいだ、きっと依頼を受けて稼いでいる人たちがいたりとか、ちょっとワルでマッチョないかついギルドマスターがいたりとか、めちゃめちゃかわいい受付嬢がいたりとか、そういうのがあるはずだ。さぁ異世界を堪能させてもらうぞ!
・・・と思っていた時期がオレにもありました。
いやだってこれ思いっきりビル。目の前に広がるのは、どう見ても市庁舎のロビーそのものだ。
外見を見た時から嫌な予感はしていたが、さすがに中もこんなことになっているとは・・・。
あぁっやめてっ。受付嬢さんは整理券を配らないでっ。オークのお兄さん(?)も笑顔でお礼を言って待ち椅子に座らないでっ。依頼表は!?中は酒場と兼業じゃないの!?ギルドってなに!?
「それでは、ちょっと用事を済ませてきますね。」
そういってライザさんは受付へと向かっていった。
なんかもう・・・帰りたい・・・。
遅くなってすいません。
ここまで読んでくれている方、ありがとうございます。
なるべく早く書けるように頑張って時間を作ります。