5:出発点
朝、目が覚めると知らない天井が見えた。
どうやら夢ではなかったようだ。
何の素材でできているのか、ふわふわに包まれて寝れたので快眠だ。
昨日はあの後、ようやく話が通じるようになったメイドさんと、ライザさんにこの客間へと連れてこられた。
どうやら初めから、俺の身の回りの世話をしてくれるつもりだったようだ。
遺跡に唐突に現れ、身寄りどころか身につけるものすら一つもなかったオレに、ここにずっと滞在してくれていいといってくれた。いつかは恩返ししたいものだ。
さすがに恩人の家で二度寝をするわけにもいかず、部屋から外を眺めたりしていると、ノックの音が響いた。
「おはようございます。起きていらっしゃいますか?」
「はい、入ってきても大丈夫です。」
昨日のメイドさんかな?
世間のメイドさんは、一体どうやって部屋の中の人が起きているのかどうかを把握しているんだろうか?
「失礼いたします。」
そうして入ってきたのはやはりあのメイドさんだった。
金髪碧眼の超絶美少女で、ショートカットがよく似合っている。
身長は高く、すらっとしているのだが、ライザさんとは違い第二次性徴は、残念ながらあまり効果を及ぼさなかったようだ。しかし、そんなことは些細な問題であるといわんばかりの美少女っぷり。
「やっぱりかわいいな・・・。」
「あの、いえ、その・・・ありがとうございます。」
どうやら最後の部分についてはばっちり聞こえてしまっていたらしい。
少し困った顔をさせてしまった。
「その、ご主人様から、"起きているようでしたら、お部屋へお連れするように"と仰せつかっております。」
なるほど。何か昨日の話で気になったことでもあったのだろうか。
「わかりました。わざわざありがとうございます。すぐ準備しますね。」
寝起きのひどい寝癖を直し、顔を洗ってライザさんの部屋へと向かう。
向かっている途中に少し気になったことを聞いてみることにした。
「そう言えば、ここに務めているメイドさんってみんなお若いですよね。一体いつから務めていらっしゃるんでしょうか?」
「そうですね・・・正確には忘れてしまいましたが、私が前任者を継ぎメイド長となってから、150年ほどは経過したでしょうか・・・。」
あ、なるほど。そういうやつね。
実はみんな200歳とかあるやつか。これ以上はきかないでおいた方が良さそうだ。
「なるほど、通りでキリッとしていると思いました!とても絵になっているというか・・・メイドの鏡と言いますか・・・いや、何言ってんでしょうね、すいません。」
「身に余る光栄です。ですが、やはり前メイド長と比べると私はまだまだ未熟者です。」
その後いろいろ聞いてみたが、前任者の方は寿退社したとか使用人って言っても結構ホワイトな職場なんだな。
その後メイドさんにも、昨日ライザさんに質問したようなことを聞いたりしながら歩いていたが、どうやらあまり目新しい情報はなさそうだ。
「ご主人様、コウ様をお連れしました。」
メイドさん改めメイド長さんがノックをすると、すぐに返事があった。
「ありがとう。入れて。」
「失礼致します。」
改めて見ると結構立派な部屋だ。細かいところにも装飾が散りばめられている。
「昨日はよく眠れましたか?」
部屋を見ていると、ライザさんの方から少し心配そうに聞かれた。
「は、はい!それはもう!夕食もあんなに豪勢なものを頂いてしまって・・・。」
「いえ、私のせいでこちらに暮らすことになってしまったことに違いはありませんので、ほんの少しのお詫びです。」
「そんな、事故のようなものじゃないですか。気にしなくても大丈夫ですよ。」
「い、いえ・・・ですが・・・。」
「じゃあ、一つお願いを聞いていただけますか?」
「お願い、でしょうか・・・。はい、なんでも仰ってください!」
ん?いま何でもするって言ったよね?
「ご主人様。安易になんでもなどと言ってはいけません。」
「そ、そうですね。私程度の力では、元の世界へお連れすることすらできませんし・・・」
いや、そういう事ではないと思うぞ。
メイド長さんもそういう顔してる。多分。基本的に無表情だから全然わかんないけど。
「とても簡単なことなので大丈夫です。えっと・・・僕と、デートして頂けますか?」
「で、"でぇと"?ですか?なんでしょう?知っていますか?」
そういって壁紙の一部と化していたメイド長さんへと話を振った。
「はい。小耳に挟んだことはあります。本当かどうかは定かではありませんが。」
「そうなのですか??それは、どういったことなのでしょうか?」
「曰く、好きあっている男女が、二人で遊びに出かけたりする事です。」
「す、好きあっ・・・」
「しかし、女性同士で出かけるときにも"でぇと"といったりもしたそうです。昔、調べていた文献の端の方で見かけただけなので、真偽のほどは定かではありませんが。」
そうか、こちらの方々はデートを知らないのか。
まぁ異世界だし、魔族だしでそのあたりの常識がずれていても仕方がない。いや、そんなに睨まないでよ。
「コ、コウ。この場合はどういった意味になるのでしょうか・・?」
あまりこの手の冗談を言われたり、聞いたりしたことは無いのだろう。初々しい反応をしてくれる。
若干顔を赤く染めながら若干上目遣いに聞いてくる。
「そんなに顔しなくても大丈夫ですよ。ちょっとした冗談です。ずっとこのお屋敷にいるというのも落ち着かないので、少し外が見てみたいのですよ。ほら、せっかくこの世界に来たので。近くに町や、村なんかがあるといいのですが。」
「な、なるほど。それなら、ちょうどよかったです。そのために来ていただいたのですから。」
む、最初からそのつもりだったのか。
ならちょうどよかったのかな。
そしてあからさまにほっとした態度をとられてしまうのも少し残念だ。
「なるほど、そのために私が呼ばれたのですね。」
メイド長さんは、なにか納得している。
話についていけていないのはオレだけのようだ。
「はい、そうなります。いつものをお願いできますか?」
「かしこまりました。すぐご用意いたします。」
「ええ、よろしく。」
そう言ってメイド長さんは部屋を出ていってしまった。
「僕も一度部屋へ戻っていたほうがいいですか?」
「はい。少しだけ準備しますので待っていてくださいね。すぐそちらにもお届けしますので。」
何かよくわからないが何かくれるのだろうか。まぁ、待っていればわかるか。
社会的地位も、仕事も、エッチなお店の会員カードも向こうの世界に置いてきてしまったが、せっかく異世界に来たのだ。観光でもして楽しまないと。
いずれ帰ることが出来たら色んなやつに美少女まみれの世界に転移してきた件について自慢してやるぞ!
少し忙しくなって来てしまったためペースが落ちちゃいますごめんなさい。