表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

短編集 

部活の日常

作者: 不知火Mrk-2

「誠司、部員が足りないんだけど、どこに消えたの?」

 俺が部室に入ると、ソファに座っている寿々に問いかけられた。彼女とは同い年だが、我が部活の部長である。寿々は黒く長い髪の先端部分を触りながら、睨むような視線を向けてくるのだった。

「さあ? 俺は知らんけど、何か用事とかが有ったんじゃないか」

「そうか……そういう事なら仕方がないね。そんじゃ、部活の時間だし、そろそろ始めるとするか」

俺の意見を鵜呑みにする気かよ。適当に返答しただけなんだけどなぁ……。

寿々は、ソファから立ち上がると――胸にある二つの膨らみを見せ付けるように背伸びをしたのだ。そんな嫌らしい格好されたら目のやり場に困るじゃねぇか……。

「寿々。俺、部員仲間の連絡先知ってるし、確認取ってやろうか?」

 俺は制服のズボンからスマホを取り出して、電話帳の一覧表を開く。すると――

「ま、待って誠司。べっ、べ別に確認を取る必要性もないし、無断で休んだ部員には、わ、私からきつく言っておくから……き、気にしなくていいわよ」

 激しく両腕を動かす彼女は、慌てた口調になっていた。何かを隠しているような、そんな感じの仕草を見せていたのだ。

 今日の寿々何か変だな……どうかしたんだろうか?

「誠司――早速、オセロをやろうよ! オセロの地区大会が来月に控えているし、しっかりと練習を積んでおかないとね」

 彼女は部室内に設置された戸棚からオセロ一式を取り出し、テーブルの上に置いた。白と黒の駒を二つずつ盤の中心に置き、俺と寿々はゲームを始める。

「誠司、お前のクラスでは変わった事とか無いの? 別に面白い話でもいいけど」

 彼女は手に持っている白色の駒を、黒色の駒の隣に置きながら話題をふってくる。

「変わった事ねぇ……今のところは無いかな」

「何もないの? そう……じゃあ、面白い話とかはあるでしょ? あの先生の授業が面白いとか、あのクラスメイトが実はこうだったとか」

「……」

 俺が言葉に詰まり無言になっていると、寿々は面白く無さそうな表情を見せた。

 彼女の表情を見る限り、面白い話の一つや二つ言わないといけない雰囲気になっている。

 俺は咄嗟に頭の中に思いついた話を喋る事にした。

「アルミ缶の上にあるみかん……とか」

「……ぷっ……ってそれ、面白い話し話じゃなくて、ただのギャグでしょ」

 さっきまでぶっちょう面をしていた彼女は、少しだけ笑みを取り戻してくれた模様。

 やっぱり寿々は、笑顔のある方が可愛いいと改めて思う。この調子でもう一発ギャグを喋るとするか。

俺が黒い駒を盤の上に置き、口を動かした直前――部室の扉が勢いよく開いた。

「部室内から声が聞えると思ったらやっぱり、今日部活あるじゃない!」

「寿々。何で今日は部活やらないって言ったんだよ」

 何事かと思い、俺は駒を持っている手を止めて、部室の入り口付近へ視線を向ける。そこには、俺と同じ色のブレザーを着用している二人の男女が立っていたのだ。

 青縁眼鏡をつけた男子と、ショートヘアスタイルの女子である。

「おい、聞いているのか寿々。どうして部活をやらないって、嘘の情報を言ったんだよ。俺ら来月、地区大会に出場する予定になっているのにさ、一日でも休んでいたらオセロの勘が鈍るじゃないか」

「えっ……と、その、ですね」

 寿々は二人の部員に囲まれ、威圧されている。彼女は、額から冷や汗のようなものを流していた。

「ハッキリ言ってよ。うちら、部員で仲間でしょ? 私達のこと信用できないの?」

「そんなことないよ」

「じゃあ、本当のこと言えるでしょ」

「……」

 寿々はショートヘアの部員にきつく言われ、瞳を潤ませており、涙目になっていたのだ。彼女は助けを求めるかのような視線を俺の方へ向けてくる。

おいおい、面倒な役回りを押し付けてくるなよ。はぁ~……。仕方ねぇ、助けてやるか。

「お前ら、寿々にだって、言いたくない事くらいあるんだし、余計に詮索しなくてもいいだろ」

「なによ、行き成り私達の会話に割り込まないでくれる? あ、そういえば、何で誠司だけ部室に来ているのよ。……はっ、そういう事ね。分かったわ」

 えっ? 何が分かったんだ? 

 ショートヘアの女の子が、青縁眼鏡の男子生徒の耳元で何かを話していた。眼鏡の少年も何かを察したらしく、二人の男女は申し訳無さそうに部室を後にして行ったのだ。

「さっきは助けてくれてありがとうね……これで二人っきりになれたね」

「えっ? 最後の言葉が聞き取れなかったんだけど、もう一回言ってくれないか?」

「べ、別になんでもないわ……それより、オセロの続きやりましょ」

 頬を紅葉させている寿々はツンデレ口調になっており、何かを誤魔化すような態度を見せていたのだった。

「何かわかんないけど、寿々が喋りたくないなら、聞かない事にするよ」

 そう言ってあげると、彼女は微笑む。俺はそんな彼女の表情も可愛いと思いながら、寿々と一緒にオセロの勝負を続けるのだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ